新しい技術は奇妙だったりする 2

WIKIPEDIA “F-117”

奇妙でカッコイイので冒頭に持ってきてみました。

前回はバイ・ワイヤ技術のお話をしましたが、その続きです。

この技術の利用で分かりやすいのは
クルマのアクセルですかね。

従来のやり方は
ドライバーがアクセルペダルを踏むと
コントロールワイヤー(この場合は電線ではなく、細い針金を束ねて撚ったものです)が引かれて
エンジンの吸入空気量を調整するスロットルバルブを開いて
エンジンが発生する力が増大して
結果として速度が増します。

つまり、ドライバーは
アクセルペダルを踏むことによって
エンジンが発生する力を調整して
クルマの走行速度を
「これくらいでいいかな?」
と調整しているのです。

もちろんこのやり方だと
「あ、ちょっと足りなかったな」
とアクセルペダルを踏み増すことや
「あ、踏み過ぎちゃった」
とアクセルペダルを戻すことがあって
ドライバーはそういうことを繰り返しながら
スピードメーターに現れた結果を見ながら調整しているのです。

この方式で、超絶に凶暴なエンジンを搭載している場合
アクセルペダルをちょとだけ踏んでも
凄い勢いで加速してしまって速度調整が難しくなります。

でも、バイ・ワイヤ技術を使って
アクセルペダルには開度のセンサーを組み込んで
エンジン側はスロットルバルブをモーターで開閉するようにして
それらの関係をコンピューターで制御すれば
ドライバーがどんなに急激にアクセルペダルを踏み込んでも
エンジンの出力は、ゆーっくり変化するようにできて
まるで非力な軽自動車のように走らせることも可能です。

こんな風に、アクセルの制御に使うバイ・ワイヤ技術を
スロットル・バイ・ワイヤ
といいます。

もちろん技術的にはアクセルだけでなく
ハンドルやブレーキなどにも適用は可能で
その場合は
ステア・バイ・ワイヤ
ブレーキ・バイ・ワイヤ
といいます。

そんな風にバイ・ワイヤ技術を使って自動車を制御するのを
ドライブ・バイ・ワイヤ
といいます。

飛行機の場合は
フライ・バイ・ワイヤ
です。

さて、このバイ・ワイヤ技術ですが
単にコンピューターを介在させて
各種調整の特製を変えられるだけではありません。
操縦の概念を根本から変えることができるのです。

上で例に挙げたアクセル操作などは分かりやすい例ですが
旧来のシステムにおいて
ドライバーが調整するのは走行速度ではありません。
エンジンが発生する力とか回転数です。
その変化によって、速度を変化させています。

分かりにくいですか?

ドライバーは、直接速度をコントロールしているわけでなく
「40キロで走りたいなー。じゃぁ、このくらい踏んだら、こんな風になるだろうな」
「あ、踏みすぎた。ちょっと戻そう」
みたいなことをやっているのです。

アクセルペダルの開度を入力(手段)として
エンジンの力を調節して
欲しい速度(目的)になるように制御しているわけで
直接速度を制御しているわけではありません。

目的を直接制御しているわけでは無いということです。

分かりにくいですね。
でも、そういうことをやっているのです。

現状のスロットル・バイ・ワイヤのクルマは
機構をコンピューター制御に置き換えただけなので
運転の方法自体は昔ながらの方法と変わりませんが
実はこんなことも可能です。

ドライバーが走行速度と加速の特性をセットしておいて
ボタンを押すと
決められた加速度で加速して
設定された速度に到達したら
その速度で巡航する。

こんなのはやり過ぎでしょうけど
説明としては分かりやすいかと思います。

この場合は、ドライバーが望む速度を直接的にコントロールできます。
目的の直接制御です。

さて、飛行機に話を戻しましょう。
制御の話はこの方が分かりやすいから。

我が国の航空自衛隊が使用しているF-2という戦闘機がありますが
これにはフライ・バイ・ワイヤが採用されています。

この飛行機、操縦桿は機械的に接続されてガチャガチャ動くものではなく
パイロットの入力をセンシングする電子的なコントローラーです。

一定速度で飛行中に操縦桿から手を離す
つまり操縦桿に何も入力しなければどうなるか?

これはコンピューターに「このまま飛べ」という命令をしたことになります。
この場合「コックピットの床方向に1Gの重力がかかったままにしろ」
という結果を指示したということになって
上昇も下降もせず
ロール(横方向への回転)もしません。
飛行機は、そうなるようにジタバタ補助翼を動かしたりして頑張ります。

フライ・バイ・ワイヤ制御はそういうものなのです。

で、冒頭のF-117も似たようなことをしているはずで
あんな変な形をしていても
コンピューターが頑張って飛べるようにしているのです。

ただ、ステルス最優先のために変な形になっちゃっているので
燃費は最悪で速度も出ないと思いますが。

ここまで話しておいて何ですが
最も違和感があるというか、奇妙に感じるのは
このF-117が初飛行したのが1981年なわけで
今から40年以上も前だということです。

なんか目眩がする思いです。時空が捻れてるんじゃないか、と。
「ステルス」や「バイ・ワイヤ」なんて言葉を聞くようになったのって、それほど昔じゃ無い気がするのですが…。

1981年の出来事をネットやYouTubeで調べてから、冒頭のF-117の画像を見て下さい。
「これ作ったの宇宙人だろ」
って思いますよ。

日本では、近藤真彦が「ギンギラギンにさりげなく」なんて歌って、日本経済がバブルでギンギラギンだった頃に、すでにレーダーに映らないフライ・バイ・ワイヤの飛行機が飛んでいたなんて…

そんな歌知らないって?
まぁそうでしょうね。

新しい技術は奇妙だったりする

私はミリタリーオタクでは無いのですが
軍事技術、特に航空宇宙系の技術には惹かれるものがあります。

なぜかというと、軍事系で航空宇宙関連の技術ともなると
軽くて速くて強くてコストかけ放題で最先端ですから
(実際はコストも考慮していると思いますが
民間から見るとかけ放題のようなもの)
そんな世界の技術は、多くがレースの世界にも適用できたりするわけです。

なので、レース関係者は軍用機とかに詳しい人が結構多かったりします。

実際にレーシングカーの部品や素材は
軍事技術から落ちてきたものが多いのですが
今やその影響の範囲は広く
レーシングカーに限らず、多くの分野に適用されています。

速いマシンを作りたいと思ったら
それこそ色んな分野の情報を収集して
「引き出し」を増やしておくのが吉
ということになるのですが
今日は貧困な引き出しの中から
とびきり奇妙なのを、ふと思い出したのでご紹介。

アメリカにF-117 ナイトホークと呼ばれる飛行機があります。
いわゆるステルス機の走りですね。
こんなヤツです。

WIKIPEDIA “F-117”

変でしょう?奇妙でしょう?
何だお前、UFOか?
って感じでしょう。

詳しいことは画像のキャプションにあるWIKIPEDIAのリンクを見てくれれば分かると思いますので、ここでは私が興味を持った部分だけお話ししましょう。

この飛行機の形は、レーダーに映らないことを目的に形作られています。
飛ぶことより、そちらが主目的です。

で、どうなったかというと
凄く不安定で、パイロットが操縦できない形になってしまいました。

というのは言いすぎですが
正確には、パイロットの技量だけでは安定した飛行は不可能なので
コンピューターがちゃんと飛ぶように制御するのです。

なのでコンピューターがダウンしたら
落ちます。

もちろんそういう場合は、冗長化と言われる
複数の安全策がとられていて
ちょっと壊れたくらいでは落ちないはずです。

この方式では、操縦桿を動かした分だけ補助翼が動く
という仕組みでは無く

例えばパイロットが
「真っ直ぐ飛べ」
と入力すると
コンピューターが頑張って安定させるのです。

こういうのをフライ・バイ・ワイヤ技術といいます。

操縦者の操作する入力装置と
最終的に動作する部分が電線で繋がれている
という意味で
要はコンピューター制御ってことですね。

そういうのを総じてバイ・ワイヤ技術とか言ったりします。

最近では、このバイ・ワイヤが
一般的なクルマやオートバイにも多用されるようになっています。

その他にも色々と興味深いことがあるので
まずはこのF-117について複数回に分けてお届けしてみましょう。

その後は成り行き任せで行かせてもらいます。