叩き台って知ってるかい?

「叩き台」
とりあえず形にした暫定のものとか、そういった意味です。

これ、社会に出て開発の現場で新鮮に感じた言葉の一つです。
まぁつまり、学校での生活では馴染みがなかったということでもあります。

そりゃそうですね。
叩き台は正解ではないので、そんなものを提示したら未完成不正解です。
学校で求められるのは正解ですから、そんなものは不要です。

ものづくりにおいて、こと良いものをつくろうとした場合、叩き台を出発点に、どうしたら良くなるだろうと想像(創造)して、チャレンジしながら改善していくというプロセスが必須です。
叩き台は、そのプロセスの一部です。

そもそも良いもの理想のものをつくるというのは、今は無いものをつくるってことでもあります。
だからそれは理想であって、やったことがないこと。
だったら、そんなものいきなりできないのは当然でしょう。

というわけで、叩き台をベースに良くしていく(改善する)のです。

学校の授業では、言われたことをやって正解を出すことが全てであり、クリエイティビティや、チャレンジングスピリットみたいな定量化できないものは評価できません。
けど、それらは価値を生み出す上では欠かせないものなのですけどね。

主観的な良いという感覚は数値化しにくいけれど、受け取る相手が良いと思ってくれることが価値であるというのは何と皮肉なことか。

というわけで多くの学生は、いきなり正解(完璧な完成形)を作ろうとしますが、実はこれが良いものが作れない原因でもあるでですよ。
これまた皮肉なことです。

簡単に言っちゃうと、良いものを作りたいなら磨く必要があるということなのです。

なので、磨くための時間を作るためにはスピードが重要ってことです。
何のスピードが必要かというと、磨く前段階までいかに早く到達するかってこと。

だって、いきなり完璧にしようとすると、そのために要する時間が長いわりに、どうせレベルの高いものにはなりません。初めてやることだったり、経験が浅いならなおさらです。

というわけで、叩き台を早く作る
これが良いものをつくるために必須条件の一つだということなのです。

イニシャルの話

イニシャル(Initial)
「頭文字」という意味もありますが、要は「最初の」というような意味です。

クルマやバイクのレース経験がある人には、イニシャルと言えば…「頭文字D」じゃなくて!
調整機構などの初期値としてお馴染みの用語です。

サスペンションのスプリングをセットした状態で、いわゆる自由長からどれくらい縮めてあるかとかいう場合は「スプリングイニシャル」とか「スプリングプリロード」と言ったりしますね。

ドライバー「フロントのスプリングイニシャルは?」
(フロントサスペンションのスプリングイニシャル値はいくつですか?)

メカニック「8mmっす!」
(自由長から8mmほど縮めてございます)

みたいにね。

簡単な例として…
サスペンションスプリングの場合、イニシャルをかけると、そこで反力が生まれます。
その状態で、サスペンションに入力があった場合、イニシャルによって生じた反力に達するまでは動きません。
逆にイニシャルをかけない場合は、小さな入力でも動きます。
なので、ちょっとした入力でも、クルマの姿勢がフワフワ動いちゃったりします。

その他にも色々あるのですが、技術の詳細を話すつもりは無いのでこの辺にしましょう。

で、ですよ。
このスプリングイニシャルみたいなのは、人の心にも似たようなことが言えるわけですよ。

経験の数が少なくて、心があまりにセンシティブになっていると、自分が本来やりたいことや、やるべきことに対峙する前に、細かいことで心がフラフラしちゃう。
で、実際に行動する前に躊躇して前に進めないとか、プライオリティの低いものに振り回されるとか、そんなことになりがちです。

まぁ誰だって若い頃ってそんなもんです。
でも、学校で立派な知識を頭に突っ込んだところで、心がフラフラしちゃったら、せっかくの知識は使いようがありません。

なので「心のイニシャル」をかけておくのが重要なのですが、じゃぁ一体どうすんの?というのが問題ですね。

イニシャルは荷重であり、プレッシャーで、負荷なわけですよ。
それがあらかじめかけられていることにより、本来反応すべきで無いノイズ的な小さな入力に影響されない心が必要ってことです。

最近の学校の多くは「閉じて守られたフィールド」ではないでしょうか。
教員は、学生や保護者から文句が来ないように、衝突が起きないように、頑張って細心の注意を払ってます。
学生は、余計なことが起きないように、最低限で最小限を求めます。
なのでそういった環境では、プレッシャーや負荷をいかに最低限にして無難に時を過ごすか、みたいなことになりがちです。

その環境にいるうちはそれで良いかもしれません。
では、卒業したらどうなるのでしょう?

あなたの望む仕事でも会社でも良いのですが、その環境ではどうしたいですか?
今のイニシャル値で望む成果を出せそうですか?

恐らく最近の会社組織では、その辺を考慮して新人教育をしているはずです。
でも、要は歳を取ってからの変化を求めるってことなので、そういったことは先送りにすればするほど難しくなります。
もちろんその分、仕事ができるようになって成果を出すことも先送りになります。
あらゆることが難しくなるってことです。

では、どうしましょう?

答えはシンプル。
好きなことを、できれば実戦のフィールドで頑張ってみたら良いのです。
しかもできるだけ早い時期に。
それだけです。

バイクの話 エンジンオイル選定の末に

今回はバイク関係のテクニカルな話題です。

前々から気になって色々と試してきたバイクのエンジンオイル問題。
一度に1,000kmくらい、もしくはそれを越えるような距離を走る長距離ツーリングをすると劣化してしまい、シフトフィールが悪化して、シリンダーヘッド周りからのメカニカルノイズが増えるといったもの。
一度そうなってしまうと、冷間時は多少マシですが、基本的にはオイル交換するまで戻りません。
なので、もうちょっと耐久性のあるオイルは無いか、純正指定からレーシンググレードまで、様々なものを試してきました。…とはいえ、たかが知れた数ですが。

メカニカルノイズに関しては、パワーフィール自体は悪化していないので、性能面ではさほど不満はありません。
まるでOHVのエンジンのプッシュロッドのノイズのような音がするので気にはなりますが。
いや、それは問題あるだろ、という話でもあるのですが、それは置いておきましょう。

問題はシフトフィールです。
長距離を走る終盤で疲れていると、特に気になるポイントなのです。

シフトフィールの悪化は、何と言ったら良いでしょうか。変速しにくいのですが、単に「渋い」といった感じではなく、シフトペダルの動作初期に不自然な渋さというか硬さというか、これまで乗ってきたバイクには無かった違和感があります。
官能評価であり感覚の問題なので表現が難しいですが、バイクのトランスミッションで変速が行われるときは…

シフトペダルでシフトスピンドルを回し
シフトスピンドルがシフトドラムを回し
回るシフトドラムの溝に沿ってシフトフォークが動き
シフトフォークが歯車を移動させ
隣り合う歯車同士のドグが噛み合う

というプロセスがあるのですが、今回のケースはどれも違うな、と思っています。
動作時の手応え(足応え?)が違うと言っています。
全て内部の構成部品なので、実際に分解しないことには確かなことは言えないのですが、入力の上流の方、つまりシフトペダルに近いあたりが怪しいフィーリングなのです。

シフトスピンドルは回ってしまえば渋さは無い。
シフトドラムも渋さを感じない。
恐らくシフトフォークの動きも問題なし。
歯車やドグも違和感は感じない。

じゃぁ、問題無いじゃん!
となりそうなものですが、BMWの水平対向エンジンは他に問題がありそうだ、と思ってきました。

一般の、というのも変ですが、多くのバイクのエンジンは、クランクシャフトの方向は進行方向に対して横置きです。

そこから歯車やクラッチを介してトランスミッションのメインシャフト、カウンターシャフトも平行に、横置きになっています。
当然ながら、シフトドラムやシフトフォークのシャフト、シフトペダルが組み付くシフトスピンドルも全て横置きで、これらの間の力の伝達は、歯車やレバーなど、比較的シンプルな関係になっていて、力の伝達方向はラジアル平面、つまり軸に対する垂直面上で行われます。

ところが、BMWの水平対向エンジンは、クランクシャフトが進行方向に向く縦置きで、トランスミッションの各シャフトやシフトドラムも縦置きです。
しかし、シフトスピンドルだけはシフトペダルの動作の都合上、横置きなのです。
となると、シフトスピンドルとシフトドラムの間は、力の伝達方向を90度変える必要があるわけです。

そこにある部品はコレ。

2番の部品がシフトスピンドル(BMWではギアシフトシャフトが呼称)です。これがシフトペダルによって回転します。
6番はBMWではポール(紛らわしいのでスペルのPawlからここではパウルと呼びます)と呼ばれるシフトドラムを回転させるためのの部品で、通常の横置きクランクのエンジンでは、これがシフトスピンドルの先端に溶接されて一体になっています。
パウルの図に回転軸がありますが、そこにシフトスピンドルが溶接されるのが一般的。
対してこのエンジンでは別体になっており、しかも向きが90度ひねった関係になっています。

この場合は、シフトスピンドルから生えた短いロッドが、図にある線で結ばれた関係で組み合わされてパウルをこじるようにして回転させています。
つまり、動作の向きを変えていることに加えて、動作部品が1個多いわけです。

こんな風に、力を軸のラジアル面以外に伝達すると、スラスト方向(軸方向)への分力が発生して、大抵は何かしらの抵抗が発生します。

想像するに、シフトスピンドルから生えたロッドがパウルを動かす動作、これがあまり好ましくない関係に感じます。
力の伝達にリニアリティが無さそうだし、あちこちで摩擦が生じざるを得ない関係になっていそうです。
あまり良い設計じゃ無い気がするけど、頑張った結果がコレなのでしょうね。コストの都合もあるでしょうし。
BMWの水平対向は歴史が長いので、長年苦労しているポイントなのではないかと想像します。

どうもシフトフィール悪化の原因はココではないかな。

じゃぁどうしましょう?

バラして構造を確認した上でリファインする?
それは面倒だなぁ。けど、時間があればやりたいところではあります。
やったら確実に良くなりそうだ。

でも、オイル交換した直後は問題無いと言うことは、構造上、潤滑にシビアなのでしょうね。
では、こういった機構に適したオイルを使うのが最善なのかな。
そんなのあるのか?
と思いつつ、引き続き色々試してみましょう。

そもそも、この推測自体が外れている可能性もなきにしもあらずなのですが、それはそれ。
こういうのを想像して手を打っていくって面白いじゃないですか。