我が愛すべき鳩山

職場である
東京電機大学 鳩山キャンパスは
埼玉県の比企郡の山の上にあります。

山の上に大学しかないので
郵便物には番地を書く必要が無いほどです。
便利でしょう?

ここ鳩山町は
かつて夏の最高気温を記録したこともあります。
最近では熊谷に押され気味で悔しい思いをしていますが
きっとそのうち巻き返すでしょう。

山には色んな動物がいます。
タヌキ
ウサギ
キジ
ワシ
フクロウ
様々な野鳥

以前は捨て猫が大繁殖していて
キャンパス中が猫だらけでした。
今は駆除されてほとんどいなくなっちゃって寂しいです。

たまに夢工房にネズミが紛れ込んできます。
都市部にいるドブネズミじゃなくて
山間部にいる野ネズミです。
ヒメネズミってヤツかな。
凄くかわいいヤツで飼っちゃいたいのですが
そういうわけにもいきませんので
お帰りいただくことにしています。

去年は鹿がいることも知りました。
キャンパスを貫く道を走っていたら
目の前を鹿が横切ったのです。
奈良にいるようなデカイ立派なヤツです。
この時は、驚きを通り越して感動してしまいました。

そうそう
数日前は、住んでいる東松山市の防災放送で
シカが出たので注意!
という内容を流していましたね。

何年か前には
大型のイノシシが出たので注意!
というのもありました。
そんなのは頻繁にあるわけではありませんが
エキサイティングですよね。

数年前にはこんなこともありました。
夢工房の外で
「メェ~メェ~」
って聞こえるんですよ。
どうせ学生がふざけてるんだろう。ちっとも面白くないぞ。
と思ったのですが、一向にやめないので
「いい加減にしろ!この野郎!」
と思って外に出たら
本物のヤギがいました。

もっともこれは天然モノではなく
近所の農家から脱走してきたらしいですが。

脱走と言えば
近所の動物園から孔雀が脱走してきたこともあったそうです。

恐らくそのうち
エミューとかカンガルーなんかも来るんじゃないかと楽しみにしてます。

以前はガチョウもいましたね。
「アフラック」と名付けられて皆に可愛がられていましたが
野良猫より凶暴で、奴らに一目置かれる存在でした。
なぜか夢工房の前がお気に入りだったようで
手作りの風洞実験装置から排出される
すさまじい強風を浴びて気持ちよさそうにしていましたっけ。

そうそう
トキの繁殖が順調にいって
この辺の空を飛ぶようになったらいいな~
とか思っています。

そんなわけで
このロケーションを大変気に入っています。
自然が多いので季節の移り変わりが良く分かります
もうすぐ梅雨になりますが
雨が多くなると、山の緑が爆発するように元気になるのです。
なのでここの梅雨は、あまり憂鬱ではありません。

春先には、桜が爆発的に咲いて
得体の知れないおかしな鳴き声の野鳥が集まってきて
本当に良い環境です。
飽きません。

そんな感じで
ここは、いわゆる「田舎」なのですが
恐らくこの文章だけを見て想像するほど辺鄙なところではありません。
期待して来ると肩すかしを食うかもしれません。

近所に必要なものは全て揃っていますので
全く不便を感じません。
学生がフォーミュラカーをつくる時に必要なものは
大抵は不自由なく手に入りますし
むしろこういうロケーションだからこそ
バンバンエンジン回したりしてレーシングカーを作れるのです。
恐らく都市部ではこうはいかないでしょうね。
不必要なものが全くないのも良いのかもしれません。

我が東京電機大学のメインのキャンパスは
東京の北千住ですが
そっちで仕事をしたいかと言われれば…
嫌です。
ここで気に入っていることのほとんどは失うことになりますから。

鳩山キャンパス
次はどんな動物が見られるかな。
ペンギンでも迷い込んでこないかなー。

「あれ?今日は学生が多いな」
と思ったら猿だったりしてね。
…それは嫌だな。

かつて
Formula SAEつながりで
オーストラリアから何人か夢工房に来てくれました。
彼ら驚いたんじゃないかな。
Tokyo Denki…とかいって、こんな所だったから。

我々のチームがメルボルンの都市部の大学でお世話になった時
キャンパス内でカンガルーが走り回っていたけど
あの時の驚きほどじゃないかもね。

知恵を絞るということ

端的に言ってしまうと
学生が学校で学ぶのは
プロになるためですよね。

学校で学ぶのは
論理的に考えること
知識を習得すること
この2つがメインだと思いますが
社会に出ると
もちろん論理的に考えるということは大事ですが
むしろ直感的にものごとを処理する能力が重要になると思います。

だって
いちいち学校で問題を解くように考えている暇はないし
考えて答えが出るようなものであれば
誰が考えても同じだから。
そういうものは価値がありません。

前職で設計やっていた時にお世話になっていた
試作の親方によく言われました。
1960年代ホンダF1の”作り”をやられていた方です。
今も、その時の言い回しも含めて頭にこびりついてます。

「小平さんよぉ、ただやってたってダメなんだぜ。
知恵を絞るんだよ。知恵をよ」

これ、言われていた時は
何となく分かってはいたんですけど
今ひとつピンときませんでした。

今、学生達の面倒を見るようなって
よく分かります。

単なる知識や理論だけで頑張って考えても
新しいものをつくっている時は
それに合った理屈なんて無いわけですよ。
だって新しいんだから。

なので
今まで見たもの、聞いたこと、やったこと
色んな経験をフル動員して工夫しろと。
で、熱意を持って頑張れ、と。

で、そのためには何が必要なのか。

こんなふうに考えて
こんなふうにやると
こうなる
というセットをどれだけ経験するか
あとはパッションだな!

結局、いわゆる形式知だけじゃ
どうにもならない世界に入っていくためには
暗黙知が必要になるのですが
そのための経験が重要なんですね。

本田宗一郎さんに直接鍛えられた人達に
色々教えてもらえたのは大きな財産です。
本当に幸運でした。

「ロクにやりもしないで講釈たれてると
ドライバーの柄とかで殴られんだよ。
頭をガツンとよ。
ホントに怖かったよ」

笑いながらそんな話をしてくれたのが懐かしいです。
もっと色々聞きたいこともあったのですが…。
多少なりとも私が受け継いだものは
何とか次世代に伝えていければと思っています。

むやみにガツンとはできませんけどね。

学生は好きで学校に行っているのではない

これ、ドラッカーが50年前に本に書いています。

白人の中産階級の子供たち、精神的には落ちこぼれていて、親や社会の強制によって、学校に行かされているにすぎない
と。

解決策として挙げているのは
生徒一人ひとりのためのカリキュラム
ですって。

一人ひとりの生徒のニーズと意欲を満たすカリキュラム、しかも、同じ成長過程を経る者などいないという確たる事実に即して、一人ひとりの生徒のリズムに合わせるカリキュラムを必要とする。
ピーター・ドラッカー 断絶の時代 より

この意見は、かなり先読みしてますよね。
恐らく50年前にこんなことを考えていた人はほとんどいなかったのではないでしょうか。
今もこんな意見を持っている人がいるかといえば、そんなにいないだろうな、と思います。

これが良いとか悪いとかというよりも、教育の形は基本的にあまり変化してないってことが興味深いです。
世の中こんなに変わっているのにね。

まぁ、今のやり方で、社会が良い方向に向かっていて、その調子でドンドン行ってやれ!っていうなら良いんですけど、どうもそうじゃないでしょう?

何で変わらないんだろう?
不思議だなぁ。

いや、でも、このコロナ禍の影響で少しずつ変わっていますよね。
これをきっかけに良い方向に向かうといいですね。
そもそも「良い方向」って何だ?というのもありますが。

あ!そういえば
「ゆとり教育」
ってありましたよね。

凄い批判浴びたヤツ。
あれが変化と言えば変化だったのかな。

国内ではさんざん言われましたけど、実は結構成功してて
国際的にも高評価だったらしいですね。
興味がある人はネットで検索してみてください。

「ゆとり教育」が成功だったのであれば
その世代が社会で活躍するようになってから
社会が大きく変わるのかもしれませんね。

でもまぁ、そんなの待ってられないので
夢工房は、できることを試していきます。

今のところ最重要項目として大事にしているのは
今思い付くところで

パッション

視野の広さ

利他の精神

勇気

スピード

ってとこかな。

何だよ、精神論かよ!?
って言いたいですか?

まぁ、そう言われたらそうかもしれませんね。
でも、これらが身に付けば、大抵のことは何とかなりますよ。
知識や経験も自分からドンドン獲得して行くようになりますし。
そうやって身に付けたものは、決して忘れません。
それに、勉強苦手な学生でも、何かしら自分が役に立てるよう頑張ることができます。

逆に、いくら知識が豊富でも
これらが無いと、大して役に立たないのではないかな。
個人的な知識欲がいくら満たされたところで
それらが他に対する価値に変換されなければ
残念なことになるでしょう。

夢工房では、学生が自発的に学んでいます。
面倒を見ている私は、聞かれれば色々教えないでもないですが
主に、ここに挙げたことを彼等が得られるようにサポートしてるわけです。
新たに気付きがあれば、ドンドン変えていきますが。

頭に無理矢理知識を詰め込んだところで
無理矢理なことを利用するなんて、そもそも面白くないですよ。
成果だって最低限になっちゃうんじゃないかな。
そんなの教える方だって、教わる方だって面白くない。
面白くないのに、自主性とか主体性を持つなんて無理です。

でも、彼等が
「もっとだ!もっとだ!!」
って、やる姿勢を身に付けられるなら
自身も周囲も面白くなりますよ。

最後に、同じくドラッカーの断絶の時代から

成長の過程では、成果を上げることに伴う達成感を経験することほど、重要なことはない。しかるに、学校ではこの達成感を与えない。今日の科目では、自ら何らかの成果を上げることができない。将来の可能性を示すことしかできない。文法において生徒のなしうることは、誰かがすでにしていることを繰り返すことだけである。

だよね。
エンジニアリングを学んでいるなら、エンジニアリング的な成果を出すのが一番の喜びです。
それを早いうちからできたら最高だってことですよ。

さぁ、今年の1年生は、どんな成長を見せてくれるのかな。