新しい技術は奇妙だったりする 5

いい加減、軍用機も飽き飽きかもしれませんが…

最後はノースロップ・グラマン製のステルス爆撃機B-2 スピリットです。
これまた輪を掛けて奇妙です。UFOです。
現在は、後継機のB-21があるのですが、そちらはデビューしたてで情報がありません。

WIKIPEDIA “B-2”

機体全体が翼で、胴体らしきものや垂直尾翼がありません。
こういうのを全翼機と言います。
英語ではFlying Wing…そりゃそうだろ、って感じですが。

この全翼機、余計なものがないために、空気抵抗が少ないとか、軽く作れるとか、ステルス製が高いとか、メリットはあるのですが、もちろんトレードオフのデメリットも持ち合わせています。

安定性が低いのです。
上昇・下降する方向の動きをピッチングと言いますが、そちらはもちろん、手裏剣みたいに回転する方向のヨーの安定性も低いです。
まぁ見たまんまですかね。
でもこれは、フライ・バイ・ワイヤで何とかしています。

設計開始が1978年で、初飛行が1989年なので、開発機関はおおよそ10年。
対して、前に紹介したF-117の開発機関は、1978年から1981年の3年間です。
機体の大きさや先行研究の有無など、条件はかなり違いますが、やはりスカンク・ワークスの仕事の速さは際立っていると思います。3年で戦闘機を仕上げるなんて。

軍用機に関するネタをいつまでも書いていても仕方ないので、最後に運用面に関しての奇妙なアイデアをご紹介して終わりにしましょう。

先に紹介したSR-71ですが、記事中で「冷間時に燃料が漏れる設計」だとご紹介しました。
でも、離陸前の駐機中には燃料を満タンにしないのだそうです。

どう運用するかというと、満タンでは無く、しかも燃料が漏れた状態で離陸して、上空で給油機によって燃料を補給して、満タンになったら加速して機体温度を上げて漏れを止めるのだそうです。

満タンじゃ無くて軽い方がすぐに離陸できますし、そもそもジェット燃料は、ヤバいところに漏れ出ない限り、そう簡単に火は付きませんし、SR-71に使用した燃料は、さらに引火しにくいそうです。

でも、そんな使い方は思い付きませんよね。

似たようなことは戦闘機にもあります。

戦闘機にはミサイルやら何やら、たくさんの武器を搭載できるのですが、その状態で満タンにすると重くて離陸できないそうです。

なんだそりゃ?って感じでしょう。

なので、武器をフル装備して重くなった戦闘機は、燃料を満タンにせずに離陸して、やはり給油機で満タンにするとのこと。

なので空中給油機の役目は、戦闘機の航続距離を伸ばすためというのは当然ながら、戦闘機をフル装備で運用するためには欠かせないそうです。

まだあります。

フル装備の戦闘機や、燃料満タンでフル積載した旅客機は重いです。
ところが降着装置の強度は、その重量に耐えられなかったりするそうです。着地の衝撃や、減速時のブレーキの力も加わりますから。

これまた、なんだそりゃ?でしょう。

では、どうするか。

空中で燃料を投棄して軽くします。
戦闘機なんかは、ミサイルが爆発しない状態で、海に向けて発射しちゃうとか聞いたことがありますが、詳しくは知りません。
ともかく、そんな風にして軽くしないと着陸できないそうです。

「じゃぁ、もっと丈夫に作ればいいじゃん!」
と思うでしょう?

そうはできません。
丈夫に作ると重くなるのです。

重くなると性能が低下します。
その低下した性能をリカバリーするために、エンジンのパワーが必要になります。
エンジンをパワフルにすると、発生した力に耐えるための丈夫な構造によって、また重くなります。
重くなった機体を支えるために、さらに丈夫にする必要があって、そうするともっと重くなります。
そうするとエンジンのパワーが…とグルグル重量が成長していってしまうのです。
運動性能や燃費は悪化して、航続距離は短くなる一方です。
これはクルマの設計でも同様です。

ものを作る時のアイデアは、意外と難しいものです。
だって、何か製品を設計する時って、その「もの」だけにフォーカスしがちで、慣習やら、先入観にとらわれがちだから。
で、ついつい手段にとらわれてしまって、ゴールを見失いがち。

今回の例で言うと
「燃料漏れちゃダメだよね」
とか
「重量に耐える設計は当然だ」
というところからスタートするのが普通でしょう?

でも、本当に欲しいゴールは、その飛行機で何をしたいのか?
何のための飛行機なのだ?
ということです。
それを達成するための手段は自由なのです。

今回ご紹介した奇妙な飛行機達やアイデアは、日頃直接利用できるようなものでは無いでしょうけど
「そんなのアリなのか!?」
と、硬直した思考をぶっ壊して、視野を広げるための刺激としては大変有用なのです。

新しい技術は奇妙だったりする 4

前回は高高度偵察機U-2のお話をしました。
この飛行機、ミサイルが届かない高度を飛べば、そこにいると分かっていても撃墜されず、悠々と偵察できるだろうというコンセプトでした。
でも、撃墜されてしまった。
で、どうしたか?

ミサイルより速ければいいじゃん

そして生まれたのがSR-71 ブラックバードです。
これも変で奇妙な飛行機です。

WIKIPEDIA “SR-71”

実際には、この前身となるA-12というのがあるのですが、運用が短かったし、やはりインパクトとしてはSR-71が圧倒的です。

このSR-71、初飛行は1964年なので、今から60年くらい前です。
その当時で、レーダーに映りにくいステルス性を持っていて、最高速度はマッハ3以上で、巡航高度は25,000m以上。
U-2より高いところを飛べて、その当時のミサイルの速度の2倍くらい速いのです。

速度も高度も、この飛行機を超えるものは2023年の現在も存在しません。
そんな飛行機を作ろうってのも凄いのですが、この飛行機にまつわる逸話も興味深いです。

速いスピードで飛ぶ戦闘機などは、機体がアルミ合金製なのですが、限界速度はマッハ2ちょっとです。
なぜかというと、断熱圧縮という現象によって温度が上昇してしまい、それ以上の速度では機体の強度が低下してしまうからです。
アルミの融点は650度くらいですが、構造材の強度を保てるのは200度くらいまでと言われています。
なのでSR-71は、熱に強いチタン合金でできています。

ところが、チタンの主な産出国はソ連です。
この飛行機の目的は、そのソ連を偵察すること。
では、どうやって材料を手に入れたのか?

ダミー会社を作って、バーベキューグリルを作る材料という名目で輸入したそうです。

ちなみに、高速で飛行中は当然機内の温度も上がるので、パイロットは耐熱で冷却機能を装備した宇宙服のようなスーツを着ます。
長時間の飛行では、機内で食事をとるのですが、その食料はコックピットのスクリーン(窓)に押し当てて加熱したとか。

そして、そんな高温に達する飛行機にはメカ的にも難しいところがあります。
部品が熱膨張してしまうのです。

温度が上昇する前の状態を「冷間」と言いますが、その状態でキッチリ作ってしまうと、飛行時には熱膨張によって破壊してしまうことがあります。
なのでSR-71は、冷間では燃料が漏れてしまうが、高速飛行で温度が上がると部品が膨張して漏れが止まるという設計だったそうです。

そんなSR-71も1990年代には退役します。現役の期間は30年くらい。
この後に登場したステルス機が最初に紹介したF-117です。

参考までに、当時、偵察機はどうやって敵地の情報を得ていたかというと、フィルムのカメラによる写真撮影です。
上空で、パシャパシャ撮って、基地に帰ってから現像します。

U-2が撃墜されてからは、偵察衛星の開発が本格化したそうなのですが、果たしてどうやって衛星が撮影した画像を手に入れていたのでしょうか?
当時はデジカメなんてありませんので、当然フィルムカメラです。

撮影が済むと、ドラム缶くらいのカプセルに入ったフィルムを投下するのです。
それがパラシュート降下している間に、飛行機で引っかけて回収したのだそうです。

繰り返しますが、私はミリタリーオタクではありません。
軍事系の技術はレベルが高いのはもちろんですが、「そんなのアリか!?」というアイデアが沢山盛り込まれています。多くの命がかかった仕事なので、当然と言えば当然ですが。
そこから学べることは実に多い。

戦争なんかまっぴらですが、そこから生まれた有用なものは利用しない手はありません。
それが技術であれ考え方であれ、使いようによっては、我々の暮らしを豊かにしたり、人を喜ばせたり、安全を確保したりできるのですから。

ロッキードのスカンクワークスは、今回紹介してきたような様々な特殊な仕事をしてきたわけですが、それは単に知識や経験だけに基づくものではないのは容易に想像できるでしょう。
一番気になるのは、一体どんな考え方をしていたのか、です。

おおよそは、スカンク・ワークスを率いてきた初代のボス、ケリー・ジョンソン、その後を継いでF-117を誕生させたベン・リッチを紹介した書籍を読んだりすると分かります。
ここでは彼らの基本原則を紹介しておきましょう。

スカンクワークス 14の基本原則

1.スカンクワークスのプログラム・マネージャーは、そのプログラムを代表し、あらゆる事項を掌握するとともに、技術、予算、生産の諸問題に関して即決の権限を有する。

2.管理機能は軍・民ともに強力で小さなものとする。

3.プロジェクトに関与する人員をできるだけ少なくし、有能な人材を充てる。

4.図面管理は変更が容易な、単純で融通の効くシステムとし、失敗した際の回復が素早く行えるようにする。

5.報告書の数は最小限とするが、主要な結果は必ず記録に残す。

6.実際に使った費用のみならず、プロジェクト終了までの見込み額も毎月見直す。この整理の遅れによる超過費用で、いきなり顧客を驚かすことのないように。

7.下請けやベンダー(部品供給業者)は、我々が自由に選択できる。

8.空・海軍に認められているスカンクワークスの検査システムは、軍の規格に合致し、新しいプロジェクトにも適応される。なるべく下請けやベンダーに検査を任せ、二重の検査は避ける。

9.我々に最終製品の飛行試験を行う責任があり、且つ最初にこれを行う。

10.部品に適用される基準は、全て事前に合意されたものとする。

11.政府の予算執行は時機にかなっていること。この遅れのために我々が銀行に走らなければならないなどということの無いように。

12.我々と軍の計画担当者は深い信頼関係を保ち、誤解や不用な文書のやりとりを極力抑えるため、日々の連絡調整を緊密に行う。

13.外部からの干渉は極力排除する。

14.少数精鋭でいくためには、評価は部下の数ではなく、成果で行う。

新しい技術は奇妙だったりする 3

前回、F-117の初飛行が1981年とお伝えしましたが、議会の承認を得たのが1978年ですので、この飛行機は実質3年もかからずに完成させたことになります。
まるで量産の乗用車のような開発スピードです。

開発したのは、かのロッキード社です。今はロッキード・マーティンですね。
そこにはスカンク・ワークスという機密度の高い仕事を超特急でやっつける部署があります。F-117は大変興味深い飛行機ですが、実はこのスカンク・ワークスの方が興味深かったりします。
実際、スカンク・ワークスを紹介した書籍を手に入れた際、F-117を良く分かっていなかったくらいですから。

スカンク・ワークスが生み出した機体をいくつか紹介しましょう。

有名どころでは、まずは高高度偵察機のU-2 ドラゴン・レディです。
1号機が飛んだのが1955年ですから、誕生してから実に70年近くが経過しているのですが、今だに現役です。

WIKIPEDIA “U-2”

先頃のアメリカ本土上空を飛んだ中国の気球を撮影したのはU-2です。(写真はその時の機体ではないと思いますが)

偵察気球は、普通の飛行機では飛べないような高高度を飛んでくるのです。
そこで旅客機の2倍以上の飛行高度である21,000m以上の成層圏を飛べるU-2の出番となったのでしょうね。

奇しくも、このU-2の開発コンセプトも同様なのでした。
ミサイルが届かない高い高度で敵国上空に侵入すれば打ち落とされることは無いだろう、というわけです。最終的にはミサイル技術も向上して打ち落とされてしまい、偵察機としての利用頻度は下がるわけですが。

この他に類を見ない高高度を飛行するための技術は大いに学べるポイントなのですが、スカンク・ワークスの場合、やはりアイデアこそが学ぶべきポイントです。

例えば、この飛行機の降着装置(車輪)は、機体の前後に1カ所ずつ、そして両翼の端末に1カ所ずつあるのですが、翼にある車輪は、離陸時に外れてしまうのです。そうすれば飛行時はその分軽くなりますし、機体の構造側も軽量に作れます。

常識的な感覚からすれば
「え?そんなのアリなの?」
と思うでしょうが、それがアイデアというものです。

こういうヒントに触れることで
「え?そんなのアリなの?」
のレベルを変化させたければ、スカンク・ワークスの実績は大変参考になります。

ちなみにこのU-2、現在では空軍の他にNASAが各種観測などに使用しているそうです。