レーシングカーの作り方…の知り方

日本でレーシングカーを作るための実践的な知識を得たければどうしたら良いでしょうか。
学生がやっている手作りレーシングカーのFormula SAEマシンとか。

実はほとんど手がありません。

レーシングカーの作り方について実践的な内容が書かれた本は…
2冊ほど知っていますが、いずれもかなり古い本です。
内容が古くても本質は変わらないので
今でも役に立ちますけどね。
とはいえ絶版ですので
入手は難しいかもしれません。

あとは自動車技術会からも出ていますね。
理論的なことを理解するには良いのではないかな。

F1のメカを解説した本なんかはあります。
技術的な興味を満たすには良いですが
あれでレーシングカーは作れません。

ネットでもある程度情報が得られますが
部分的な知識であることが多いようです。

書籍でレーシングカーを作るための知識を得たければ
やはりアメリカでしょうね。
結構な数があります。
イギリスにもありそうな気がします。

欧米(オーストラリアやニュージーランドを含む)には
手作りで車を作る文化が今でもありますから
そういう知識に対するニーズが一定数あるのでしょう。

プロジェクト・カーとかプロジェクト・バイクなんて呼んで
長期的に家のガレージで週末に
レストアするとか
大幅な改造をするとか
人によっては車体ごと作ってしまうとか
そういうのを趣味にしている人達がいます。

作ること自体が楽しみだったり
乗って楽しんだり
そういう手作りの車で走れるレースもありますので
そういう文化が定着しているのでしょう。

ただ、人数自体はそんなに多くはないと思います。
多い少ないって主観的なものなので表現が難しいですが
カスタムカーがそこらじゅうで走り回っている
という感じではないです。決して。
アメリカでもイギリスでも。
まぁ、たまに見かけますので
一定数は確実にいるのですけどね。

バックヤードビルダーなんて呼ばれる人たちは
そういう人達ですね。
プロ、アマ問わず。
車に限らず
家で家具作ったりする人達もそう呼ばれますが。

日本国内のレーシングカーコンストラクターは
だいぶ減ってしまいましたね。
見学に行くのも良いでしょうけど
設計を教えてくれってわけにはいかないでしょう。

四苦八苦して
レーシングカーの設計や製作の
基本的な部分を理解したところで
それで戦力を持ったマシンを設計できるわけではありません。
実際に試行錯誤して
何度も何度も色々とやってみないとね。
本読んで知識を付ければ済むわけじゃないんですね。
まぁそういうものです。

というわけで
レーシングマシンの設計とか開発って
いわゆる暗黙知の世界なんですね。
やらないと分からないことばかり。
まぁ、ものをつくるって往々にしてそんなものです。

ところで
職人さんって
教科書で学ぶのではなく
見て覚える
見て技を盗む
という世界でしょう。

この
見て盗む
というのは
結構理にかなっていると思います。
目で見て分かる「型」をまねる
「型」が同じであれば同じ結果が出る
ということはないので
その過程では
多くの自分なりの工夫が必要です。

なので
一見同じようなものをつくっているようでも
実は進化している
ということがあるのではないかと思っています。

出雲とか伊勢の遷宮なんかはそういうものらしいですね。
何年かに一度
腕の立つ宮大工が全国から集まってきて
そのときの最新技術で以前と同じお社を作って
(もちろん伝統的な技術も使います)
神様が新居にお引っ越しする
というイベントです。

そんなものづくりの世界ですが
それでもアメリカ人は
そういうのをノウハウ化して残しちゃうから凄いです。
とはいえ!
やはりやってみないと分からない世界であること
には変わりはありませんけどね。

というわけで
実践的なレーシングカー作りの解説書
探すなら洋書が一番ということになります。

英語が苦手だから心配?
大丈夫です。
好きな世界のことなんだから理解しやすいですよ。
それに分からないことがあっても
自力で何とかしようとするでしょう?
それが本当の学びではないでしょうか。

ものがないのでものづくりの何を伝えるか

学生の設計内容を
特に1年生のものを確認していると
色々と気付くことがあります。

具体的には
客観的にどう見えるか
使用者を考えているか
使用環境を考えているか
そのあたりが見えていないなぁといったところです。

もちろん彼らはノウハウを知らないわけですし
機構や材料、要素部品についての知識など
基本的な知識が不十分だったりもします。

そもそも人が使うものなのに
ユーザーの視点に立って考えていなかったり
起こりえるイレギュラーな事象を
想像できていなかったりもします。

でも
学生なのだから
最初はそんなものです。
自分が作ってみたい物をなんとか形にしたい
というレベルからスタートです。

現状では
こうなるはずだ
という自己中心的な考え方になってしまっています。
こうなるかもしれない
という外部の不確定要素を視野を広げて
色々と発見できるようになると良いのですが
そういうのは
実際にものをつくらないと腹に落ちません。

そもそも人が使うものなのだから
ユーザーの視点に立って
どう見えるかとか
起こりえることなどを
作ったり試したりしながら体感できると
話が早いのです。

そのチャンスがあるのが
ものをつくる活動の良いところですね。

その辺に気づきを得られれば
クリエイティビティが刺激されて
急成長できます。

しかし
今はすべてをオンライン環境で進めているので
「じゃぁ作って試してみようか」
と簡単にいかないのが歯がゆいところ。

物体に関することを
言葉や文字や絵で伝えるしかないのですが
限界があります。

はやく大学に来て
物に触れるようになれば
色んなことが一気に解決するのですけどね。

そのときのために
どこまで準備しておけるか。
それが今すべきことの一つなのです。

結果として昨年は
マインドとメンタルの面を
集中的に伸ばせたと思います。

思えば
1年生と、こんなに色々話したことは
かつてありませんでした。
自分の経験や過去の事例、一般論など
口頭で可能な限り
伝えたつもりです。

このへんはオンライン環境のメリットですね。

ひょっとすると
彼らは今後
凄い伸び方をするかもしれない
とも思っています。

実際に手を動かして
ものをつくり始めると何が起きるか
今から楽しみです。

バイクでリチウムイオンバッテリー

最近は量産のバイクでも
リチウムイオンバッテリーの採用が出てきましたね。
さすがにお高いので
それなりの車種にしか採用されていませんが。

ホンダの街乗りだと最新のCBR1000RR-Rあたり。
他にはモトクロッサーのCRF450なんかが採用してます。

メリットは
軽いことです。
とにかく軽い。
鉛バッテリーに比べると冗談みたいに軽い。

自分のバイクではLiFePO4の
SHORAIバッテリーをずいぶん前から使っています。
SHORAIなんて言ってますが、アメリカの会社です。
これ、ラジコンなんかに使われている
リフェバッテリーってヤツですね。
使い始めたのは2011年モデルの
BMW R1200GSに乗ったとき。

純正のバッテリーはとにかく重かった。
1200ccを始動するのだから
ってのもありますが
水平対向2気筒なもんで
1気筒あたり600ccなのです。

エンジンが始動するとき
クランクシャフトの回転に伴って
ピストンが上下運動します。
水平対向だと左右なので、往復運動と言うべきか。
そのときに一番大変なのが圧縮行程で
これを乗り越えられなければエンジンは始動しません。
このときにクランクシャフトを回すために必要なトルクを
乗り越しトルク
と言います。

もちろんピストンが小さい方が乗り越しトルクは小さいです。
なので
例えば1200ccとはいっても
4気筒と2気筒では乗り越しトルクはかなり違います。

多気筒エンジンの方がピストンがいっぱいあるから大変なんじゃないかって?
確かにメカニカルロスは大きいのですが
多気筒なら、どれか1気筒に火が入ってしまえば
それが回転を助けてくれてスターターモーターの負担が減りますし
1気筒あたりの乗り越しトルク自体は小さいのです。
なので始動性ということでは大したことないのです。

実は単気筒が最も大変です。

単気筒は多気筒エンジンのように
どれかの気筒が始動を助けてくれるなんてことは
絶対にありません。

一つしかない燃焼室で爆発が起きるまで
大きな乗り越しトルクのクランクシャフトを
回し続けなければならないのです。
大排気量の単気筒エンジンなんてものすごく大変なはずです。
冒頭に挙げたCRF450、これも大変。
レーサーなので圧縮比高いし。
本学Formula SAEチームのマシンは
CRF450のエンジンを使っていますが
始動には苦労してます。
まぁ、始動の困難を補ってあまりある
メリットがあるので採用しているようですが。

というわけで
単気筒ほどではないにしても
1気筒600ccの2気筒エンジンは
かなりクランキングのトルクが要るのです。
なのでバッテリーはデカイ。

R1200GS
車載状態では
シート下にバッテリーがあって
外すときはバッテリーの上部を掴んで
引き上げる必要があるのですが
これが大変でした。
純正の鉛バッテリーは5kg以上あると思います。
ひょっとしたら6kgくらいあるかも。

これをSHORAIバッテリーにすると
1.4kgくらいになっちゃいます。
実に4分の1です。
冒頭に冗談みたいに軽いと書きましたが
手元に届いたときは
「これ、本当にバッテリー入ってるのか?」
と思いました。

このくらい軽くなると
乗っていても分かります。
運動性能が向上しますから。
左右への切り返しが軽快になります。

でも、ちょっと気になる点があります。
それは低温時の特性。
気温が高ければSHORAIバッテリーは
すさまじいパワーを持っているので
何ら問題は起きません。

ですが
経験上、R1200GSの場合は気温が
18度を切ると冷間時の始動性が悪化しました。
寒いときはバッテリーの放電特性が悪化するのです。
多気筒ならこの程度の気温でも問題ないのかもしれませんが
R1200GSはダメでした。
出先でクランキングしなかったときは焦りましたよ。
その状態で焦ってスターターモーターを回し続けると
間違いなく過放電でバッテリーはお亡くなりになります。

でも解決方法はあります。
バッテリーの温度を上げれば良いのです。

巷では「儀式」と呼ばれているようですが
低温時はいきなりクランキングせずに
まずはヘッドライトとかグリップヒーターとか
そこそこ電気を必要とするものをONにします。
で、ちょっと電気を使って数分待つ。
するとバッテリーが活性化して発熱します。
そうなったら始動OK。
大抵はなんとかなります。

あぁ、バッテリーってケミカルなんだなぁ
と思い知らされます。
寒いと化学反応が起きにくいんですね。

そうそう!
で、量産車のリチウムイオンバッテリーの
低温特性はどうなんだ!?
と気になって仕方なかったのです。

なんと!
メーカーサイトでは低温特性に自信があるようです。
いいなぁ。

R1200GSの時に買ったSHORAIバッテリーは
2019年に乗り換えたR1200RSでも継続使用しています。
恐らく通算7~8年くらいは使ってるのかな?
鉛バッテリーの寿命は3~5年くらいなので
結構長寿命ですね。
もっとも冬場は純正の鉛バッテリーに換えてしまっていますが。

本学Formula SAEチームもSHORAIバッテリーを使っているのですが
過放電でダメになったものがあったので殻割りしました。

中身はこんな感じ。