勝負はアイデア つまり人そのもの

自動車メーカーでは
彼我比較(ひがひかく)と称して
ライバルメーカーのクルマを徹底的にバラして
細部まで比較検証します。

前職で、自動車の開発をしていた時は
ドイツの某メーカーの小型乗用車のボディをぶった切って
内部を見たことがあります。

新車をバラしてぶった切っちゃうんですよ。
ゴージャスですよね~。

メーカーが異なるだけでも
設計の考え方は大分違うものですが
国が変わるとなおさらです。

板の重ね方や溶接の仕方
「あ、コレやっちゃって良いんだ?」
とか
「ここまでやるんだ。すごいな~」
みたいな発見があって面白かったですね。

各メーカーが拘っているところは
ぶった切ると大抵分かります。
一般的な構造と違うから。

組み立てやすさとか
衝突時の力の伝達とか
そんなところの工夫を見るのは
他メーカーのエンジニアの
頭の中を覗いているようで楽しかったですね。

自動車の設計って
基本や法規に基づいて
作っていく建築などと違って
構造からアイデア勝負ですから
よその製品を見ると発見が多いのです。

メーカーのプレスリリースを見ても
技術資料を見ても
細部までは分かりません。
やっぱり現物をバラさないと。

もうそういう現場から離れて20年も経ちます。
最近はどうなっているのでしょう。
各社どんな工夫をして
どういうところに拘っているのか
とても興味深いところです。

対して
学生が作るものだって
場数を踏んで視野が広がれば
それなりに拘りを持ったものができてくるものです。

でもやはり
そうなるにはそれなりの時間が必要なわけで
学年が低いうちからガンガンやらないと
それなりの領域には行けないでしょうね。

面白いのは
夢工房でレーシングカーをつくっている連中は
活動発足当初に打ち立てたコンセプトを
いまだに大事にして
新しい解釈をしながら
世代を跨いで追求を続けていることです。

いい加減、違う方向性もうやってみたら?
と言いたくなることもありますが
彼らにとっては
まだまだ「やり代」があるようで
本質の部分を守りながら
新しいアイデアを入れ込んで
性能の過激化を狙っているようです。

活動立ち上げ時のメンバーが
いかに凄いことをやったのかというのは
20年経った今だからこそ実感するところです。

彼らのアイデアを
20年経ってもしゃぶり尽くせないのですから。

現役メンバー達
「初期のメンバーのようにやりたい」
って言いますからね。

今年のイベントはどうなるか分からないけど
今作っているマシンが形になるのが楽しみです。

君は捨てることができるか?

色々と
情報やら、ものにあふれた昨今

常々思うのは
色々ありすぎ
色々持ちすぎ
だな。
ということです。

色々あって
豊かで良いじゃないか
という見方もできますが

色々あるもんだから
逆にそれらによって
色々制限されている面もあるのではないかと
そんなことも思うんです。

人は欲が深いもので
色々欲しがります。

でも、一度に持てるものには限りがあるわけで
一度持ったものを手放さず
他にも色々欲しいと思ったら

色んなものを小さくしたり
薄くしたり
とにかく縮小しないといけないわけですよ。
そうしないと我々の手の上に全ては載らない。

そんなわけで
本来自分が力を入れて取り組むべきこと
本当に大事なこと
そんなものは見えにくくなってきます。

とはいえ
欲しいものは欲しいわけで
すでに持っているものを手放すのも怖いわけで。

安全で安心な
豊かな生活
と言っても
何かしらのトレードオフをしているはずです。
でも、なかなかそれには気付きにくい。

容易に様々な情報が手に入る反面
あふれた情報で
大事なものが覆い隠されてしまうこともあるでしょう。

一見何も手放さずに色々手に入れているようですが
失ってしまっているものは何でしょう?
見えなくなってしまったものは何でしょう?

幸福感?
達成感?
生活の質?

たまに思います。
不要なものをバサバサ切り捨てて
超ストイックな生活をしたら
代わりにスゴイ何かを
手に入れることができるのではないかと。

たぶんそれは道理にかなっていて
そんなことをしたら
本当に大事なものに集中できるのでしょうけど
勇気が必要です。

人と同じものを持って
人と同じことをしていたら
同じ結果しか生まれません。
当然です。

たぶん神様は見てますね。
我々を試してます。
「できるものならやってみろ」
と。

や、やってやろうじゃねぇか!

技術は人なり

デッドエンドは成長への発射台

学生と付き合っていくというのは
彼らの喜びと同時に
彼らの悩みとも付き合っていく
ということでもあります。

夢工房で色々やっている学生達
日々新しいことができるようになったり
新しいことに気付いたり
そんなこともありますが
もちろん
やりたいことが
できなかったりすることもあります。

理論的に分からないとか
技術的にうまくいかない
そんなことは頑張ると何とかなったりするのですが

手強いのは
本人の意識に上ってこないことが原因で
うまくいかないこと。

コイツが非常に手強い。

大抵は自分でも
何が起きているのか分からないんです。

例えば
「ものごとは大枠から決めていくんだよ」
と言っても
ついつい細かいことから始めちゃう。


「先生、この部品どうですか?」
と図面を持ってくるんだけど
単品の図面見せられても
その部品がどうなのかは判断できません。

部品の形状は
周囲の環境で決まっているわけで
「何のために、そうなっているのか」
それが分からないと
良いも悪いもありません。

そういうのはビギナーに多いですね。
何事も小さいところから始める
そんな訓練を延々とされてきた成果です。

実際に手を使って何かを作ったことが無いと
「大枠から考えろ」
と言っても
一体どういうことなのか実感が湧かないかもしれません。

実際にものをつくれば分かるんですけどね。
小さいところからなんて作れないって。

でも、プラモデルなんかだとダメかもしれませんね。
実際、細かいところから組んでいくから。
なにも経験が無いよりは良いのですが。

スクラッチで
ゼロから何かしらのモデルなんかを作ったりすると
良いかもしれません。
今時なかなかそんな学生いませんが。

絵画とか
何かしらの造形物を作るのも
良い経験でしょうね。

なので
夢工房に来て、1年生の時に何かの道具とか
雑務のようなものでも良いので
何かしら作った経験のある学生は
結構伸びます。

レベルが低くても良いから何かやれば
大抵は、どうしたら良いか分かるものです。

ダメでも何かやってみれば分かる!
ってことが分かったり。

でも、たまたま
そういう経験を逃してしまった学生もいます。

そういう場合
作るための準備がしっかり整わないので
作り始めることができない
なんてことになっちゃってることが多い。
そうなると事態はややこしくなります。

なんで準備が整わないかというと
経験が無いからです。

なんで経験が無いかというと
準備が整わなかったからです。

以降ループが続く

結局
いつになってもできるようにならないのですね。

そうこうしているうちに
締め切りが近付いてきます。

で、どうするかというと…

逃げ道を探します。

そもそも逃げ道なんて無いんですけどね。

まぁそれでも
うまいこと、その場は逃げて
学年を重ねてしまうケースもあります。

でもいつかは
もう本当に逃げられない
デッドエンドがやってきます。

本人は困るでしょうね。
凄く悩むと思います。

でもそれ
チャンスですよね。

消極的な気持ちを突き破って
その先に行くことができるようになれば
凄い飛躍ができるかもしれませんから。
それをやるしかない状態。

そういう状態から飛躍する学生を見られるのも
こういう仕事をしている特権だと思ってます。

技術は人なり