Real Deadline 本当の締め切り

どんなクルマにするか考える

狙ったとおりになるように考えて設計する

狙ったとおりになるように作る

狙った性能が出るように実走行でセッティングする

こんなプロセスで学生達はレーシングカーを作っていますが
完成したクルマはもちろん
それぞれのプロセスにおいても
何が起きるか分かりません。

だって十分な経験がないのだから
それは当然です。

解析や強度計算がうまくできると
部品単品としては思った通りになるかもしれません。

しかし
それらを組み合わせて
実際に使う(走る)と何が起きるか分からない。

それは
作っている人間の
想像の領域の外のこと
イレギュラーなことが起きるからです。

いくら勉強しても
いくら慎重に設計しても
そういうことは起きます。

現実の世界では
イレギュラーなことは
常に起きる可能性がある。
要因は無数にあります。

授業ではそういうことは起こりません。
時間内に予定されたことを
学べるように考えられているからです。

たとえば
実験の授業では
どんな結果が得られるかは
最初に決まっています。
イレギュラーな結果が出てしまったら
授業が終わらないからです。

本来は
何が起きるか分からないから
「実験」するのであって
最初に何が起きるか分かっていることを
やるのは本来の「実験」ではありません。

でも、授業では「実験」と称して
本当の実験をやるときに
必要なことを学ぶのです。
決して無駄ではありません。

さて
設計の際に
狙ったとおりのことが起きるようなマシンにするために
よーく勉強して
すっごく慎重に設計して
あらゆるイレギュラーな事象を想像して
設計すると何が起きるか。

間に合わなくなります。
レースに。

勝つためのクルマを作っているはずなのに
そもそもレースに間に合わなくなります。

特に学生の活動の場合
時間的にカツカツですから。

なので
今の自分たちには
どんなやり方が効果的なのかを考えて
チームの方針を定める必要があって
その重要性を全メンバーに落とし込む必要があります。
こういうのは授業では学べません。

最近はあまり聞かなくなりましたが
Formula SAEの重要なことの一つに

Real Deadline

があります。

直訳すると
「本当の締め切り」
です。

レースには色々な締め切りがあります。

大会へのエントリー
自分たちの開発スケジュール
レースのスタート時刻
などなど

これらの「本当の締め切り」を守っていかないと
自分たちのミッションは果たせません。

なので
最も効果的なやり方で
開発を進める必要があるのです。

設計段階で
色々考えすぎて時間を使ってしまうと
実走行による最適化のための時間を失っていきます。

いくらよーく考えてマシンを作ったところで
完成したときに得られる性能は
当初の想定よりずっと低いはずです。
大抵はガッカリします。

そして
そこから性能を上げていくのです。
それこそが学びです。

そうやって学んだことは
決して忘れません。

プロでもそんなもんです。
なので「試作車」が必要なのです。
走らせてみないと
実際にやってみないと
分からないからです。

チャレンジしている学生達には
やると
分かる
その面白さを味わって欲しいものです。

色々経験していくと
「やらなくても分かる」領域が拡大していきます。
そうなると
やることのレベルをどんどん上げていけます。

そのループに乗せられれば
ますます面白くなってくるでしょうね。

分かっていることを積み上げていけば安心だし
そういうやり方が必要な世界もあるでしょう。

別にどちらが偉くて
どちらが劣っている
なんてことはないですが

もしチャレンジできる環境にいるのであれば
とにかく色々やってみて
起きる事象に対応する度に試されて
その度に学んで成長していく
そんな毎日も良いのではないでしょうか。

学生生活なんて
迷ってるうちに終わっちゃいますよ。

あれから10年

あの信じがたい大災害
震災から10年が経ちました。

あれから何が変わったのか
そして
何が変わっていないのか
正直なところ
あまり明確に分かっていません。

もちろん
被災した地域に行けば
景観などが変わったのは分かります。

恐らく今でも
色々なところで
色々なことが
ゆっくり変わっていっているのでしょう。

私は
あの時も今も埼玉にいます。
住んでいる地域の防災放送などは
以前より頑張っている気がします。

自治体をはじめ各種組織の
危機管理意識は
かなり変わってきているのではないか
と思います。

個人的には
防災放送の内容をメールで受信できるサービスにも登録して
居住地域や職場など
複数の自治体の情報を得るようにしました。

エネルギー問題に関して言えば
ほとんどの原発が停まり
化石燃料の発電に偏った状態に回帰して
未だに新しい手段は見つかっていません。
こういうのは
10年くらいでは解決は難しいのでしょう。

私は
阪神淡路大震災のときも
東日本大震災のときも
被災した地域のために
お役に立てませんでした。

せいぜい
この10年かかさず
東北ツーリングをして
少しでも被災地域にお金を落とせたら
とやってきましたが
こんなのはしょせん個人的な娯楽の一部です。
まだまだ何かできるはず。

災害は
どのような規模でいつやってくるか分かりません。
きっとまたいつか起きるでしょう。
その時は
もっとお役に立ちたいものです。

私のもとで頑張っている学生たち
全国で何かしらの活動に打ち込んでいる若者たち
彼らはの行動力は
何かが起きた際に
きっと多くの役に立ってくれることと思います。

そんな学生の成長に手を貸すのが
「今できること」
の一つなのかもしれないとも思います。

改めて
犠牲になった方々の
ご冥福をお祈りいたします。

日本の学生はチャンスがいっぱい

そろそろ大学3年生は
就活の時期に突入しているかと思います。

今までの経験や実績を活かして
希望の仕事に就けるといいですね。

日本には多くの自動車メーカーが存在するのはもちろん
他の分野でも世界有数のレベルの高い企業が揃っていて
学生は恵まれていると思います。

本学Formula SAEチームが
このところ遠征に行っている
オーストラリア

以前は、地元のホールデンをはじめ
トヨタ、三菱、オーストラリア・フォードと
色々なメーカーが頑張っていましたが
現状ではゼロです。
なんと寂しい限り。

人件費があまりに高いので
オーストラリアで自動車を作ると
価格が高くなってしまうのです。

それでも現地の学生達は
けなげに良いレーシングカーを作り続けてます。

以前
オーストラリア大会で
現地の学生に
「卒業したら仕事は何するの?」
と聞いてみたことがあります。
そうしたら
「うーん、たぶん鉱山でエンジニアをやるよ。
炭鉱になるかダイヤモンドの鉱山になるか分からないけどね」
との返事。

彼ら良い車作るんですよ。
性能もクオリティもデザインも
総じて日本よりレベルが高いと思います。

他には
「日本でバイクの設計がしたいんだ」
という学生もいました。
でも、オーストラリアのエンジニアの給料は
日本よりずっと高い。
何倍も違う。
そんなことを話したら
「お金の問題じゃないんだよ。
日本のメーカーでバイクの設計がしたいんだ!」
なんと健気じゃないですか。

彼らは英国連邦の一員なので
「イギリスのメーカーはどうなんだい?」
と聞いたら
オーストラリア人が
イギリスで仕事を見つけるのは
難しいと言ってました。

実を言うと
ずいぶん前の話ですが
オーストラリアの学生の
就活サポートをしてあげたことがあります。
日本の某メーカーに応募したいというので
応募の方法や必要書類などの作り方なども教えました。

彼は性格も良かったし
スキルのレベルも志も高かったので
こういうコが日本のメーカーにいたら
良い刺激になるんじゃないかな
と思ったのです。

でも
結果は門前払いです。

会社自体は対外的には
国籍にはこだわらないような雰囲気がありましたが
実際は、書類を提出したらそこで終わり。
十分な選考はしてもらえませんでした。

これ、分からないでもないんです。
会社側としては
かなり面倒な案件だったのでしょうね。
仮に入社しても
研修とかその後とか、色々を考えると
面倒で断りたくなるのは想像に難くありません。

仮に開発の現場がそういうケースを
「いいじゃん!面白いよね!」
と思ったとしても
人事担当者は嫌なんだろうな
と思います。

今はどうなんだろう?
海外から新卒の応募とかあるのかな。
昔は中途採用でも海外から来たという例は
見た覚えがありませんでしたが。

でも
こんなふうに
大学でエンジニアリングを学べたり
日本の企業に応募するアクションを取れる彼は
幸せな方なのかもしれません。

というのも
かの国では
自動車を学ぶために
工科系の大学に入るには
それにふさわしい基礎教育を
高校、中学校、小学校で受けている必要があるのですが
初等教育の学校は学区制なので
それなりの学校に行くには
その地域に住んでいることが前提です。

なので
そういう地域にはお金持ちが集中するので
地価はものすごく高くて
そもそもそこに住むこと自体が難しい。
そういうわけで
多くにチャンスがある状態ではないとのこと。

先進諸国に限らず
他の多くの国も似たようなものだと思います。

日本人であれば
大学まで行くとなれば
もちろんそれなりにお金は必要ですが
勉強を頑張って学費の安い大学に行くとか
奨学金をもらうとか
チャンスはいくらでも掴めます。

そして
数多くの自動車メーカー、部品メーカーがあるので
頑張ってそこに入社する
という道が多くに開かれています。

日本の学生達に対して
「君たち楽チンで良かったね」
なんて思っているわけではなく

多くの者が夢を叶えられる環境があるのだから
ぜひ頑張って学生生活をやりきって欲しいと思うのです。

で、良い仕事してください。