動力の話 その5 蒸気機関からガソリン機関へ

炭鉱で水をくみ出すポンプを動かすための蒸気機関が登場した後、いよいよ移動のための機械、自動車やら鉄道車両の発明と発展に行くわけですが…

この辺の歴史がややこしい。

1769年に、フランスでニコラ=ジョゼフ・キュニョーが蒸気機関で走る「砲車」を作ります。大砲を運ぶためのクルマです。
これは 木でできた荷車のような車体の前端に蒸気機関を取り付け、それで前輪を駆動し、走行速度は時速4km程度。人工動力で走る世界初のクルマです。
ただ、この砲車は、初走行でブレーキが効かず、操舵ができず、壁に激突して廃車になってしまいます。
この砲車は実働可能なレプリカが製作され、現在は博物館に収蔵されています。

それからずいぶん経った1801年に イギリスのリチャード・トレビシックが「蒸気馬車(Steam Carriage)」を製作し、公道を走行。
この時点では、実用的な乗り物というより、物珍しい乗り物、といった感じでしょうね。

そうなったら次は乗用車が!
と来そうなものですが、そうはいきません。

1804年 に、蒸気機関車が製作され、鉄道レール上を走行。
これは石炭輸送に使用されました。
石炭を使って炭鉱のポンプなどを動かすように、石炭を使って石炭を運ぶ、となったわけです。
もちろん、そうした方が効率が良いからです。

1820〜1830年代には、蒸気バスの商業運行が始まります。
が、 早すぎた技術として失敗。
しかし、後のバス産業の原型となります。

ここまで、燃料は石炭の時代です。
でも、クルマの世の中が始まりそうな雰囲気になってきましたね。

1821年 ファラデーが電磁回転運動を発見します。これは後のモーターの原理となります。
が、ここでは「原理」だけです。

1860年に、ルノアールによって、ガスで動くエンジンが作られます。
ここでやっと内燃機関の始まりとなります。
ここでのトピックは、ボイラーを使った外燃機関である蒸気機関から、機関の内部で燃焼が行われる内燃機関になったことと、燃料が石炭からガスになったことです。
ただ、この時点では、コンパクトで高回転の我々が想像するエンジンとはほど遠いものです。

1876年、オットーが4サイクルエンジンを発明。これが自動車エンジンの原型となります。
そして1885年、なんとキュニョーの砲車から100年後に、ダイムラーとベンツが、それぞれガソリンエンジン用いた自動車を実用化。

はい、これでやっとガソリンエンジンの自動車まで来ました。

しかしここまでの歩みは、エンジンや車体のみにフォーカスするのでは無く、複合的な要員があったと見るべきです。

工業技術の進化はもちろん重要ですが、その土台にある燃料の変化も重要だったりします。

燃料は、木炭から石炭、ガソリンへと、同じ体積や重量で比べると、より大きなエネルギーを持つ、エネルギー密度の高いものに変わってきたわけで、それが実用的な動力源に必要だったわけです。

つづく

戦略の話 逆算の考え方

「動力」のお話しは、ちょっと休憩しましょう。

今回は「戦略」について。
とは言っても、それほど大層な話ではありません。

これからどうしよう?
という局面に遭遇したときにどうするか?
といったような話です。

理想のゴールを考えるか・考えないか
といったような、「考え方」が分かれ道。

ゴールを決めて、そこから逆算すれば、結構思った通りになることが多いのですが
なんでみんなそうしないんだろう?
と思うことが良くあります。

これ、優劣とかの話ではなく、「考え方」の話です。

恐らく、ゴールを決めない人は真面目なのだと思います。

だって、現状から理想のゴールを見ると、そこには大きなギャップがあるわけで、それを一足飛びに行こうとすると無理がある。

そして、そのギャップを埋めるために、現状から知識を得たり経験を積んだりする必要は理解できても、一体どのような知識や経験が必要なのか分からなかったり…ってことになっているのではないかな。

それは、真面目にゴールに向かう「順方向」へ考えていくからではないかと思うのです。

どのような知識や経験が必要か?を解決するには、「順方向」ではなく「逆算」が必要です。

良く考えてみると、そういう経験ってあまりしないのかも。
どうなのでしょうね?

まぁ確かに、言われたことをやるという経験ばかりだとすると、逆算する方向の思考なんて必要無いですからね。

動力の話 その4 動力の切り離しの話

そもそも何かしら動力機関(蒸気機関とかエンジンとか電動モーターとか)を利用しはじめた頃、動力機関はいずれも大きくて、今みたいに仕事をする機械それぞれに内蔵されているわけではなかったりしました。

想像付きますか?

例えば、工場があって、その建屋の中に複数の工作機械があるわけですが、それらの機械には動力部が無いのです。
この写真は、佐渡金山の工場にある旋盤(材料をグルグル回して削る機械)ですが、モーターは搭載されていません。
代わりに機械の左側に上から降りてきたベルトの動力を受けるプーリーがあります。
このベルトによって駆動されるのです。

で、そのベルトは下の写真のように、天井付近に通された軸に取り付けられたプーリーに掛けられています。
写真では見にくいですが。

そのプーリーから、ちょっと離れた軸のプーリーにベルトが掛けられていて、それらの軸が常にグルグル回ってるのです。
そんな風に軸とプーリーを使って、それぞれの機械のために動力を分配しています。
機械の上には、それぞれの機械のためのプーリーがあるということです。

で、その軸は最終的にどこに繋がっているかというと…
写真が無くて恐縮ですが、工場の外の小屋の中に設置された動力源に繋がっているのです。
まさにエンジンルームですね。
要は、大きなエンジンで

その動力源は、時代によって蒸気機関だったり、ガスエンジンだったり、ディーゼルエンジンだったり。

今ならそれぞれの機械に電動モーターが組み込まれていますので、動力は機械の内部で発生させることができます。
そうすれば、電線を分岐させることで力の源を分けることができるので、軸とプーリーなんていう大げさで不便なものを使う必要はありません。

が!
その電力はどこから来ているかというと、大抵は遠くの発電所です。
その発電所は、もっと遠くにある油田やガス田から取り出した化石燃料で動いている。
まさに長大なサプライチェーンです。

とまぁ、こんな風に、エネルギーの源と、動力源と、仕事をする部分を切り離すというのは結構昔からやっていて、姿形を変えながらも、今も似たような事をやっているわけです。
皆さんの手元にある電化製品だって、EVだって同じです。

そもそも動力源が発明された当初は、機械の効率が低いわけで、小さな動力源を作ったところでまともに動かないわけです。
なので、必然的にデカイ動力源をつくるわけですが、ドデカイ動力源に、直接仕事のための機械を取り付けるというのは現実的ではなくて、回転軸やら何やらで動力を引っ張り出して、延長して、分岐して、その先で何かやろう、みたいなことになるのでしょうね。
伝える方法は、回転軸だったり、圧縮空気だったり、油だったり、電気だったり…
で、そんなことをやっていたら、今みたいに長い長いサプライチェーンができあがった、ということなのでしょうね。

つづく