実際それは失敗ではない

今回のH3ロケットの打ち上げが中止になりました。

このロケットの開発には
当研究室の卒業生も関わっていたりするので
気になって仕方がないのです。

彼は今頃、種子島の宇宙センターでヒーヒー言ってるはずです。
頑張れ!頑張れ!!

で、この打ち上げの中止に対して
会見で失敗だと認めさせたかった記者がいて
その捨て台詞がどうとかで盛り上がっていますね。

その記者さん、何かトラウマでも持っているのでしょうか。
確かに意地悪で失礼な印象はあったのですが
実際のところはどうなんだ?
とお思いの方もいるかと思います。

打上げの際に想定外の事象が発生して
シーケンスが止まっちゃっても
設計通りにエンジンが停止したのであれば
それは失敗ではない

その辺が分かりにくいところだったのではないかな
と思います。

で、打ち上げたかったのに打ち上げられなかったのだから
それは失敗なのではないか、と。

そもそも、ロケットみたいに巨大で複雑なシステムは
そうそう簡単に完璧な状態になんてならないでしょうね。

忘れてはならないのは
H3は新型機だということです。

もちろん、各部単体でのテストは散々やって
システム単位での性能や信頼性の確認はするのですが
「試しにそいつらを組み上げて本番前に打ってみよう!」
なんてことができないのがロケットです。

要は、打上げできる状態にして
やってみないことには
どうなるか分からない部分がある
そういうことでしょう。

いくら入念に検討して設計して
可能な限り正確に製作して
隅々まで確認しても
自然の環境において、いざ打ち上げるとなると
何かしらイレギュラーな
想像も付かないことが起きても何らおかしくありません。

自然も人工の環境も含めて
前もって100%予測するなんて不可能です。

それに、やっているのは人間で
凄まじい人数が関わっているわけだから
そういう面でも想定外のことが起きたり
見逃しやミスを完全に排除するのは困難でしょう。

もちろんそれらは
限られた時間やコストなど
制限の中でやっているわけですからなおさらです。

そんな中で100%思った通りにできたら神様ですよ。

必ず最後には
やってみないと分からないこと
が残るのです。

クルマの開発なんかであれば試作車を作って
量産を立ち上げる前に完成度を高めます。

それでもイレギュラーなトラブルが起きない保証はなくて
量産されてから設計変更するなんてこともあります。
深刻なヤツはリコールとか呼ばれますよね。

鉄道車両はクルマみたいに
量産前にテストコースをバンバン走って
トラブルの潰し込みをやる
なんてことはできないので
完成したら工場から出荷して
お客さんを乗せた運行をしながら
必要に応じて手直しするそうです。

たぶん、巨大な客船とかも同じような感じではないかな。

そうやって、製造現場からリリースしてから対応できるものは
「この日に出しますよ!」
ってローンチの日を決めて、バーン!といけます。

ロケットの打ち上げにおいては
そうはいかないので
「打上げ期間」が設定されていて
その期間内で打上げができたら成功で
できなかったら失敗
そういうものでしょう。

やってみないと分からないことはあるのだから
その時に重大事故が起きないように
仕切り直しが効くように計画しておいて
何かあったら期間内に対応できるようにしておく
そういうふうにプロジェクトを組んでいるのだと思います。

なので、今回起きたのは想定外の事象だったかもしれませんが
解析の結果
「あぁ、こういうことが起きる可能性があるのか!」
と知見を得られるわけで
事故でもなければ失敗でもない。

むしろセーフティのシステム設計においては
成功と言っても良いかもしれない。

たぶんあの記者さん
まさかネットでこんなに叩かれるなんて思っていなくて
ビックリしたりガッカリしたりして
「むしろ失敗したのは俺だ」
なんて思っているかもしれません。
でも、これでクサらずに良い仕事をしてほしいものです。

ちなみに
多くの開発の仕事はチームでしたりするものですが
正直なところ
失敗の経験のない者とは組みたくないです。

だって、新しいことをやれば
何かしらの失敗をするのは当然です。

その度に落ち込んで思考停止していたら
仕事になりませんから。

最後に

知っている人もいると思いますが
このH3ロケットは我が国の宇宙開発の今後にとって
大変重要なのです。

というのも
これまで使っていたH2ロケットが
初めて打上げされたのは1994年なので
H3は実に30年ぶりの新型機です。

当然、当時の開発者は一線を退く年齢で
技術の継承を考えるとギリギリのタイミング。

なのでH3の開発者達の多くは
これがデビュー作で
日本の宇宙開発の将来を決める
重責を担っているわけです。

そんな重荷を背負いながら
彼らはこんなに大きな
やってみなければ分からないこと
にチャレンジしているのですね。

トラブルから学びながら。

実に凄いことだと思います。

ぜひ期間内に打上げを成功させて欲しいものです。