見た目の話 2

クルマで「見た目」といえば
まずは外観ですよね。

私は外観を決めるような仕事はしていませんでしたが
一世を風靡したベストセラーのデザイナーさんと
仕事をさせてもらったことがあって
大変勉強になりました。

本来、形状のデザインは
デザイナーさんが決めて
そのデータを設計者がもらって
設計情報を作り上げていく
そんな流れです。

でもあるとき、締切が切羽詰まった特殊な仕事があって
CADを操作する私の隣にデザイナーさんが座って
口頭の指示の元で形状を作り上げる
という仕事をしたことがあります。

一応お断りしておきますが
自動車のボディなんかはこういう荒っぽい仕事はしません。
絶対に。
理由は後述します。

とにかくこの時は
のっぴきならない事情で
やっつけ仕事をしたのですが
その時に色々と「見え方」についてのノウハウを聞けたのです。

一つだけ例を挙げましょう。
設計者は幾何学的な形状に拘って信じていますので
デザイン的に平らにしたいところは
設計的に平面にしてしまいます。

ところが!

立体の製品
特に曲面で構成された製品の一部の形状に
本当に平らな面を組み込むと
平らには見えず
窪んで見えるんですね。

実際に平面であるかどうかは問題ではなく
「どう見えるか」

が大事なのです。

そりゃそうです。

いくら設計者が
「平らです」
と言ったところで
見ている人が
「窪んでいる」
と認識したら、それは窪んでいるのです。
目の錯覚だろうが何だろうが
そう思ったらそれまでです。
製品は、それを受け取る人がどう考えるかが全てなのですね。

そんなのは当たり前のことなのですが
数字とか理屈だけで仕事をしていると気付かないもので
その時の私には衝撃でした。

ちなみに
そんな状況で平坦に見せたければ
微妙な凸面にすればいいのです。

こんな話もあります。
私のボスは高級スポーツカーの開発チームで
仕事をしたことがあって
デザインにも造詣が深い人でした
そんなボスから学んだこと

3Dモデルでカッコイイものはカッコイイとは限らない
というか、大抵カッコ悪い

おお、なんてことでしょう!
でもこれ、本当です。

CADの通常の表示は平行投影法といって遠近感を表現していません。
遠くのものも近くのものも同じ大きさで表示します。
これで形状を決めちゃうと
実物にしたときに、おかしな形状になっています。

人間のものの見え方は「目玉」の点から放射状に
というか円錐状の視野を持っていて
画面の表示とは根本的に異なるのです。
これに加えて見ている人の視座と視点の位置関係もあったり
とにかくCADとは見え方の条件が異なります。

実はCADにも「点」の視点から
円錐状の視野を設定してモデルを表示する
という機能があったりしますが
それでもやはり実物を見るようにはいきません。

なので、外観を決めるデザイナーさんは
スケッチからクレイモデルを作って形状を確認します。
デジタルデザインだけでは製品にしません。

検討段階では、縮小モデルを使ったりもしますが
最終段階のクレイモデルは実寸です。
それを使って、粘土を盛ったり削ったりして
微妙に調整していきます。
もちろん、そういうことを専門にやっている人がいます。

で、実寸モデルができたら
それを三次元スキャナーで測定してデジタルデータにします。

それを設計者が受け取って
各部品を設計していく
という流れです。

おまけの話ですが
日本を代表する
世界的に有名なプラモデルメーカーが
あるスポーツカーのモデルを発売するときに
その実車のデザイナーさんを会社に招待したんだそうです。

プラモデルを作るに当たっても
形状を決めるために
クレイモデルを使うようです。

で、実車のデザイナーさん
プラモデルのベースとなったクレイモデルを見るなり

「こうじゃないんだよなぁ」

と、削り始めたそうです。

このプラモデルメーカーの製品は
超リアルなことで有名なのですが

実はリアルに見せるにはノウハウがあって
「リアルに見えるように」
デフォルメをされているのだそうです。

要は、実車を忠実に12分の1とか24分の1にしたら
リアルに見えるかというと
決してそんなことはない
ということです。

ヘタすると
ちょっとイケてないモデルのメーカーの方が
実はリアルな形状だった
なんてこともあるようですね。

そんなふうに色々あって
見た目の世界は深いなぁ
と思った次第です。

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