オーストラリア大陸縦断2023 総括その3 走行編

今回は走行する上で考慮が必要な環境や、走行そのもの関係する情報を挙げてみましょう。

環境について
場所や季節によっても変わってくるとは思いますが、基本的に一日の温度差は大きく、湿度は低いです。そして日差しは強い。
特に南部の方は、4 seasons in 1 day と言うくらい、天気や気温の変化が激しかったりもします。早朝は気温10度くらいで、日中は40度近くとか。そんな中で、雨が降ったと思ったら風が吹いて急に晴れたり…かつてはそういう経験もしました。

南半球ですので、季節は日本とは反対です。太陽は北方から照らしてきます。
北の赤道に近いエリアでは、夏は雨期、冬は乾期です。
南方のエリアでも、夏のアウトバックでの気温は45度程度にはなります。平地で冬に雪が降ることはあまりないようです。
大陸ですので、移動に伴い気候は相応に、ダイナミックに変化します。

晴れれば日差しは強いです。
かつてはオゾンホールによる紫外線の影響が深刻で、皮膚がんや目への影響も懸念されていました。近年、オゾンホールは縮小したとは聞きますが、今も基本的には変わらないのかもしれません。

湿度が低いので、あまり汗をかかないというか、すぐに蒸発してしまいますので、不快感はあまりなかったりします。ですが体内の水分は確実に失われていきます。季節にかかわらず移動中は常に水を持っていた方が良いですね。水分補給は大事です。
夏場に気温45度の環境を連続走行して身の危険を感じたことがあります。いかにして体温を下げるかというのが課題となるのですが、その時はネックウオーマーを湿らせて首に巻いて、走行風による気化熱で首の血管を冷やすという手段で難を逃れました。
万一、身動きが取れなくなった際に日光を遮るために、サーマルブランケットと呼ばれるアルミ蒸着シートを持っていくのも良いと思います。軽くてコンパクトですので。

万一怪我をした場合、半径100km以内に病院が無いなんてのはザラですので、通常なら助かるものも助からなかったりします。携帯電話は町が近くないと役に立ちません。
毒虫、毒蛇に咬まれた時のために、ポイズンリムーバーと呼ばれる吸引器を持っておくのも良いかもしれません。これも軽くてコンパクトですので。

無用なリスクを取らないこと、何かあった時の準備を最低限しておくことは重要です。

走行について
道はずっとこんな感じです。木が増えたり減ったり、蟻塚が現れたりしますが。

ヴィクトリア州、サウスオーストラリア州は上限110km/hでした。
ノーザンテリトリー州は130km/hです。
日本のように、「速度表示が無いところは60km/hね」と言うことはなく、大抵は表示されています。

別に上限速度で走らなければいけないわけではないので、マイペースで行きましょう。
ノーザンテリトリーでも100km/h程度の速度で巡航しているクルマはいます。
基本的には、この法定速度程度で走り続けることになりますが、町や民家、工事現場などが近づくと、80、60、50…と速度表示が現れて徐々に低速走行となります。それらから離れる場合も同様に徐々に速度が上がります。
減速していく場合は、意外とルーズな速度で走る車が多いです。10km/h弱のオーバースピードとか。日本のように20km/hオーバーのようなことは無いですが。

荒野に忽然と現れるロードハウスの前は80km/h程度であることが多いです。なので、そこからの出発時はいきなり80km/hです。施設から出て急加速をする必要は無いのですが、接近してくるクルマはその速度で走っていますので、目の前に出てしまうと危険です。

時折現れる町や集落にあるスクールゾーンでは、さらに減速を求められる場合があります。時間規制があったりそうで無かったりしますが、多くの国ではスクールゾーンでの減速については厳密だったりすることが多く、オーストラリアも同様です。弱者保護ですね。道路の標示に従いましょう。大抵は40km/h以下です。

基本的に片側一車線で、破線の中央線であれば追い越しが可能ですが、時折、片側が二車線になった追い越しエリアがあります。これは、日本の一般道や高速道路で見かける譲り車線のように、現在走行中の車線の左に追加の車線が現れるのではありません。このようなやり方だと、わざわざ左に進路変更する人はあまりいませんよね。
日本の地方にある片側一車線の高速道路に部分的に設けられている追い越し区間が、オーストラリアの追い越しエリアに似たスタイルです。走行中の車線が左に逸れて、その右側に追い越し車線が現れる。この車線は「追い越し以外での使用は禁止」と標識があり、追い越しが完了すれば左の走行車線に戻る必要がある。皆このルールを守っており、マナーは良いです。
なお、この走行車線は、追い越しエリアの末端では右にウインカーを出して車線変更して一車線に戻る。つまり、追い越しエリアの始まりは走行車線を自然と走ることになるが、終わりでは追い越し車線が走行車線となる感じです。追い越し車線が左の走行車線に合流する必要がある日本とは異なりますね。

なお、スチュアートハイウェイではダーウィンに限られますが、片側に複数車線があるハイウェイで追い越しをする際も過剰なオーバースピードで追い越すケースは稀で、早めに車線変更をして、ゆっくりと追い越し、ゆっくりと元の車線に戻る、といった感じ。
シティの一般道では、比較的制限速度を守っている印象です。

こんなハイウェイでも色んな人がいます。
町から数百キロも離れているのに自転車で走っている人
同じく、ベビーカーのような手押し車に荷物を積んで歩いている人
基本的に見通しは良いのですが、片側一車線で道幅が十分に広いわけでは無いので、気を付けたり思いやったりは必要です。

ハイウェイを走っている時はヒマです。なので、すれ違うクルマもバイクも手を挙げて挨拶をしています。全員では無いですが、多くが。だってヒマだから。

対向車がパッシングをしてきたので、速度取り締まりでもやっているのかな?と思ったら…
事故だったり
オーバーサイズが来たり
路上に牛がいたり
何があるか分かりません。色んな意味で。

広いオーストラリアでは、スチュアートハイウェイに限らず、単調な道が多いので居眠り運転による事故が多いのでしょう。中央分離帯が無く、片側一車線で速度が時速100キロ以上なので、対向車線に出て衝突したら致命的です。道路脇には「眠かったら、ちょっと休んで寝ただけで超元気になるぞ!」とか「生きて到着しよう!」とか、居眠り運転防止のための看板が沢山あります。
疲れたり眠くなったらレストエリアで休みましょう。ただし、日本のパーキングエリアやサービスエリアのような施設を期待してはいけません。
最小限なら、ただの未舗装の退避場所です。
最大限なら、屋根とイスとトイレがあったりします。ただし未舗装だったりしますが。

レストエリアの存在は、下の画像のような青い看板で示されています。
左上の、木の下にテーブルがある図がレストエリアを示しています。右上にあるのは、トラックの絵に斜線が引いてあり「トラックは入っちゃダメよ」の意味。下には、「500m先の左側にありますよ」です。

その手前にある緑の看板は、次の町までの距離を表しています。
この場合の「TT」は、Ti Treeという町。そこまで100km。

さらに手前にある白い棒は、道が冠水した時に路肩を示すインジケータです。このほかにも水深を示す目盛りが切られたインジケータもあります。

気温が高く、日射が強い環境での走行は、休憩するにもなかなか難しいものがあります。
レストエリアに東屋があって日陰があっても、気温が高い場合はあまり快適ではありません。ハエが沢山いたりしますし。走っていた方がマシだったりします。
なので、一体どうやって休んだら良いものやら…となります。

なので正直なところ、バイクで停まったところで大した休憩はできません。せいぜい水分補給とか、そんな程度になることがほとんどです。でも、そんな小さな休憩が良い結果をもたらすことになるのも事実です。

なぜかノーザンテリトリー州のレストエリアは設備が充実しているところが多くて、公園のようになっていたりキャンプができるところがあったりします。サウスオーストラリア州とは大違いです。

下はノーザンテリトリーのレストエリアの例。ここは小規模な部類ですが、サウスオーストラリアに比べればずっと設備が整っています。
奥にトイレがあって手前に東屋、さらに手前に円筒形の大きな水タンク。

水タンクとかゴミ箱が紫色なのはノーザンテリトリー独特なのではないかな。夕焼けがそんな色なのです。ヴィクトリアとサウスオーストラリアのゴミ箱は緑色です。
夕焼けが紫色なんて、そんなはずないだろうって?
いやいや…

ちゃんと休むならロードハウスが良いです。休んだついでに走りたくなくなったら「今夜の部屋ある?」と聞けば良いのです。

スチュアートハイウェイであれば、砂漠地帯のように、水か燃料のいずれかが無くなったら死ぬ…というようなことはありませんが、ガス欠や休憩や故障などで路肩に停止すると、目の前を時速110キロのクルマが行き交っているというスリリングな状況になるということは知っておいた方が良いでしょう。なのでもちろん、むやみに停車して写真を撮るなどはお勧めできません。
どうしても路肩に停まる必要がある場合は速度に注意しましょう。巡航速度が高いため、速度感覚が麻痺している場合があります。
十分な減速無しで路肩に入り込むと、地面がフカフカになっていた場合は、急減速して安定を失ったり滑ったりして危険です。
これはロードハウスなどに入る際も同様で、曲がりきれなかったりします。

あと、むやみに変な場所でキャンプするのはやめた方が良いようです。
レストエリアで会った自転車で旅をしているおじさんは、キャンパーやバイカーの暴漢に何度も襲われたそうです。ナイフで切りつけられたり、ハンマーで殴られたり。その時の傷跡も見せてくれました。それでも旅をやめようとしないのは凄いです。

オーストラリアは世界的に見ても治安が良く、フレンドリーな人も多く、ワイルドで美しく、楽しい国です。ですが、日本ではないことを忘れてはいけません。

基本的には安全運転で。海外での走行そのものが冒険です。無用なリスクを追加しないようにしましょう。

でもね、正直に言うと…

生きて帰ってくるなら、何をやって何が起きようと、それは勉強になる
とも思っています。
その経験を未来に向けてどう使うかが一番の課題です。

オーストラリア大陸縦断2023 総括その2 環境編

走行に関する話をしたいところですが、まずは環境のお話しです。オーストラリアと言えば、そこに住む生物たちが興味深いのではないでしょうか。
南半球では、動植物の多くが北半球とは大きく異なります。
かのダーウィンが、祖国に宛てて「オーストラリアには黒い白鳥がいる」と報告したところ「いくら何でもそんな見え透いた嘘つくな!」と言われたのは有名な話です。

野生生物について
カンガルーが飛び出してくるので早朝や夜は走れません。別に走っても良いのですが、やめておいた方が良いです。ヤツらはヘッドライトの光めがけて飛び込んでくる習性があるからです。ピョンピョンと道路脇まで来て立ち止まり、クルマが目の前に来た瞬間に飛び出す!と現地人から聞いたことがあります。
夏はハイウェイに死骸がゴロゴロしています。今回は見かけた死骸が少なかったので、きっと冬はアクティブな時期では無いのでしょう。今回、4,000km以上も走ったのに生きているヤツは一頭も見ませんでした。
走行するなら朝7時以降、夕方は暗くなる前に終了です。

今回は初めてエミューに遭遇しました。路上にたたずんでいて、かなり接近するまで逃げませんでした。これも要注意です。

コアラはいるそうなのですが、走行中に見たことがありません。道路の脇に生えている木は大抵はユーカリですし「コアラに注意」の看板もあるので、いるにはいるのでしょう。動かないから気付きにくいのかもしれません。一度、ブッシュファイアで丸焼けになったコアラの死骸らしきものは見かけましたが、それだけです。
ちなみに、皆さんが想像している大人しくて可愛いコアラは昼の顔です。夜のヤツらは恐ろしいゴリラのような声で木を揺すって威嚇してきます。悪魔です。私はナイトサファリという夜の動物園で確認しました。皆さんは騙されています。

山に行くと、意外と普通にウォンバットがいたりします。場所にもよるでしょうけど。
クルマで衝突すると、まるで岩にぶつかったような衝撃があるそうです。ひきたくありません。恐らくアウトバックにはいません。

ラクダがいます。これはかつて、内陸部の開発をする時に連れてきたものが野生化したそうです。乾期でエサが無い時には、農地を襲撃したりするので嫌われているようです。道路に出てくることもあるようです。恐らくノーザンテリトリーとか北の方にいるような気がします。南の方で出没例は聞きませんから。今回は見ませんでした。

ウサギがいます。これはオーストラリアに移住したイギリス人が、ハンティングのために連れてきたものが野生化して大繁殖したそうです。ヤツらは地面に穴を掘って住むために、農地や灌漑に影響を及ぼしているそうです。ただ、繁殖スピードが早くて今さらどうにもならないとか。意外と都市部の近くで見かけたりします。アメリカと違って、路上に飛び出してくるところに遭遇したことはありません。

トカゲがいます。大きさは20センチ前後のものが多いです。多くは近づくと凄い勢いで逃げます。たぶんひいても何も起きないとは思いますが、気持ちは良くありません。驚いてむやみに進路を変えるのは危ないかもしれません。場所によっては1メートルサイズのものもいますが、路上で見たことはありません。

鳥がギリギリをかすめて飛んでいくことがあります。オーストラリアの野生生物は、日本のものに比べて接近気味です。なかなか逃げません。たまに路上にクルマと衝突した死骸を見ます。突然の遭遇にビックリすることがありますが、大抵はギリギリで上手に避けていきます。
角が生えた鳩がいます。
白目があるカラスがいます。レイヴンと言うそうです。どう見てもカラスです。
白黒のカラスのような鳥、マグパイがいます。鳴き声はR2D2です。
ワライカワセミがいます。ジャングル気分になれます。
オウムやインコがいます。もちろん野生です。群れをなしていることも多いです。綺麗だけどうるさいです。

オーストラリア固有の野犬と言ったら良いのか、ディンゴというヤツがいます。デッカイ柴犬みたいにも見えます。色が赤っぽかったりもします。自転車で旅をしているおじさんが「ヤツらは犬とは違うぞ。気をつけろ」と言っていました。今だ遭遇したことはありません。遭遇しても気付かないかもしれません。

毒蛇がいます。世界一猛毒で、咬まれたら大抵は死んじゃうヤツがオーストラリアにいます。他にも色々いるようで、全てがヤバイヤツでは無いようですが、そんなことも知っておいた方が良いです。

毒虫もいます。有名なのはセアカゴケグモ。レッドバックと呼ばれる背中に赤い模様があるヤツです。
毒アリもいます。巨大な顎を持つ凶暴なヤツもいます。しかもジャンプして飛びかかってきたりします。気をつけましょう。全てが凶暴なわけではありませんが。
サソリもいるそうです。見たことはありません。

ワニもいます。淡水域にも海水域にもいます。
ヤバイ場所には旗が立っていますので、冗談でもそこで泳ぐのはやめましょう。

そして、野生ではありませんが家畜がいます。
牛、羊、馬などです。
ハイウェイの横は牧場になっている事が多く、柵はあるにはあるのですが、ヤツらはたまに路上に出てきます。ノーザンテリトリーでは、ブッシュファイアで柵が破れてしまうのか、実際に牛が路上を歩いており「迷い家畜に注意」のような看板も多く見かけました。

こんな風に色々いますが、そんなに頻繁に遭遇するわけではないので、残念だったり安心だったり。
悪い方に考えるとキリがないという典型例である一方、楽天的に考えると、こんなに面白い場所はあまり無いと思います。

環境編とか言いながら、動物の話に終始してしまいました。
その他は、この後に書いていきましょう。

オーストラリア大陸縦断2023 総括その1 走行パターン

今回の総括は、きっと1回では終わらないと思いますので、あらかじめシリーズ化する気で行きます。

メルボルンからダーウィンまで、総走行距離は4,317kmだったわけですが、これを日数で割ると、平均480kmということになります。
初日が200kmの走行と、かなり短かったのでですが、その後は400kmと600kmの走行を交互に繰り返していました。

こういう環境でのロードトリップは、そこそこ下調べと計画が重要かと思います。
完全な無計画では、燃料を入れられなかったり宿泊できなかったりして、致命的なことにもなる可能性もありますので。
日々の走行距離については、2019年末の前回の経験から、むやみに長距離を走ると、その後数日にわたって影響が出ることも分かっていました。

ゆっくり休みながら走れるほどの日程的な余裕があるなら良いのですが、それほどでもない我々の場合は、「キツいけど頑張り続けられるペース」を見つけるのが重要かと思います。
これ、ツーリングに限らず、自分のパフォーマンスを伸ばすために重要なことですね。
そう、今回の旅は修行ですから。

事前の計画では、10日間での縦断を検討していました。
これは気候が厳しかった場合と、弟子のコンディションを考慮して、最も安全側に振ったプランです。
日々の走行距離をグラフにするとこんな感じ。

実際の縦断に要したのは9日間で、以下のような結果となりました。
これは、予想以上に弟子のパフォーマンスが高かったため、ネット予約できないロードハウスの先まで行けることと、高負荷の走行を繰り返せることが分かったため予定を変更した結果です。

で、そういったツーリングはどうだったのか?
最も印象深かったのは何だったのか?
これは縦断を終えた後に会った人達に良く聞かれた質問です。

その度に答えに窮しました。弟子共々。

確かにエアーズロックは凄いです。
星も素晴らしく綺麗です。

でも、基本的にオーストラリアの内陸部は何も無いのです。
毎日ほぼ同じ景色です。
赤い荒野の中の一本道。大きな空。
最初は「凄い!」と思います。

それを何日も繰り返します。
うんざりを通り越します。
途中でやめるわけにもいきません。
日数を重ねると、いつどこに泊まったかなど、過去が曖昧になってきます。
もちろん「イヤだなー」と思いながら走っているわけではありませんが。

そんな経験をしていること自体が凄いことだと思います。
それを継続するのは凄いことだと思います。
でも、その経験を話したところで伝わらないし、そもそもどう伝えたら良いのか分かりません。

なので、聞かれても困るのです。

前回もそうでしたし、今回も同様なのですが…
少々のやり遂げた感、満足感はあります。
ですが、それは爆発的な喜びとか達成感では無く、なんか自分の中の基準値が少しだけ上がったかな?という感じと言ったら良いのでしょうか。
後になってジワジワ来るのかもしれませんが。

もちろん結構疲れました。
体重は2kg落ちましたね。