レースってこんなことしてます その1 レースの種類

ビギナー向けに
レースってどんなことをしてるんでしょう
というお話をしてみましょう。

まずは代表的なものを挙げてみましょう。

レース
サーキットなどのコースで複数台のマシンで
抜いたり抜かれたりして競争するのはこちら。
舗装されたサーキットを走るのは
ロードレースと呼ばれたりもします。

タイムトライアル
決められたコースを
どれだけ速く走れるかを競うのはこちら。
レースのように周回したり
同時に複数台が走って抜いたり抜かれたりはしません。
サーキットのようなコースを使うこともありますが
日本では駐車場のような広場に
パイロンでコースを作ることが多いです。
で、スタートからゴールまでのタイムを競います。
日本ではジムカーナ(未舗装路の場合はダートトライアル)
欧米ではオートクロス
と呼んだりしますね。
ヒルクライムと呼ばれる
山道を閉鎖して行うイベントもタイムトライアルです。

ラリー
多くの場合は公道で
あらかじめ決められたルートを走行します。
これも抜いたり抜かれたりはしません。
日本のラリーでは
決められたルートの距離を計測して正確性を競ったりします。
(昔はそうでした。今はどうなんだろう)
皆さんが想像する山道を疾走するシーンは
スペシャルステージ(SS)と呼ばれる特別な区間の
通過タイムを競ったりすしているところです。
詳しくないのでこんなもんで勘弁してください。

ドラッグレース
いわゆるゼロヨンってヤツです。
多くの場合は
停止状態から400mまで加速してタイムを競います。
何で400mかというと
4分の1マイルだからです。
それはなぜだと言われたら困りますが。

ランド・スピード・レーシング
長い直線路で1台ずつが最高速を競う競技です。
日本ではあまりなじみが無いですが
最も古いレースの形態です。
ここでは詳細を省きますが
なかなか奥深い世界ですので
機会があったら記事にしましょう。

他にもまだまだたくさんありますが
このへんにしておきましょう。

「競う」という意味では
これらをひっくるめて
レースという呼び方をしたりすることもありますが
カテゴリーとしての分け方はざっくり上記の通りです。

さて
サーキットを走るレースには種類があります。
いずれも「どれだけ速いか」を競ってるんですが
サーキットなどのコースを走るレースだと
大きく分けて2つ。

スプリントレース
あらかじめ決められた周回を
どれだけ速く走れるかを競う
レースの最も一般的な形態です。
一斉にスタートして
一番最初にゴールラインを通過した者が勝者です。
F1とかMotoGPなんかはこれ。
オフロードを走るのはモトクロスと呼ばれます。

耐久レース
決められた時間にどれだけの周回数を走れるかを競います。
複数台でそれなりに長時間走るので
見ていると誰がトップか分からなくなります。
なので各車の周回数がカウントされています。
ドライバー/ライダーは複数名で走る場合がほとんど。
途中で給油やタイヤ交換をしたりすることもあります。
規定時間が経過したらチェッカーフラッグが振られて各車ゴール。
一番周回数が多かった者が勝者です。
複数名で走ればチーム全員の勝利ですね。
ル・マン24時間とか鈴鹿8時間なんかはこれ。
オフロードを走るのはエンデューロと呼ばれます。

いずれも速い人が勝者なんですが
タイムトライアルと違って
抜く技術とか駆け引き
レース全体を通しての戦略
なども重要になります。

学生がやっているFormula SAEでは
75mの直線加速を競うアクセラレーション
8の字をグルグル回って旋回性能を競うスキッドパッド
コース1周のタイムを競うオートクロス
2名のドライバーで20kmを走るタイムと燃費を競うエンデュランス
の4つのイベントでマシンの性能を評価します。

エンデュランスでは、1台ずつスタートして
コース上には3台程度が同時に走行します。
もちろん速い車が遅い車に追いついたりするのですが
その場合はコース上に数カ所設けられた
パッシングエリアとかパッシングゾーンと呼ばれるところで
遅い車が道を譲ることになっています。
耐久レースとタイムトライアルを混ぜたようなイベントですね。
正直これは燃えます!
乗っている方も見ている方も。

ちなみに私が過去に経験したのは
二輪はロードレースでスプリントと耐久、オフロードではエンデューロ
四輪はダートトライアル
そんなもんですね。
18歳頃から20年以上色々やりましたが
自分ではそれほどキャリアが豊富な方だとは思っていません。

レーシングカーの作り方…の知り方

日本でレーシングカーを作るための実践的な知識を得たければどうしたら良いでしょうか。
学生がやっている手作りレーシングカーのFormula SAEマシンとか。

実はほとんど手がありません。

レーシングカーの作り方について実践的な内容が書かれた本は…
2冊ほど知っていますが、いずれもかなり古い本です。
内容が古くても本質は変わらないので
今でも役に立ちますけどね。
とはいえ絶版ですので
入手は難しいかもしれません。

あとは自動車技術会からも出ていますね。
理論的なことを理解するには良いのではないかな。

F1のメカを解説した本なんかはあります。
技術的な興味を満たすには良いですが
あれでレーシングカーは作れません。

ネットでもある程度情報が得られますが
部分的な知識であることが多いようです。

書籍でレーシングカーを作るための知識を得たければ
やはりアメリカでしょうね。
結構な数があります。
イギリスにもありそうな気がします。

欧米(オーストラリアやニュージーランドを含む)には
手作りで車を作る文化が今でもありますから
そういう知識に対するニーズが一定数あるのでしょう。

プロジェクト・カーとかプロジェクト・バイクなんて呼んで
長期的に家のガレージで週末に
レストアするとか
大幅な改造をするとか
人によっては車体ごと作ってしまうとか
そういうのを趣味にしている人達がいます。

作ること自体が楽しみだったり
乗って楽しんだり
そういう手作りの車で走れるレースもありますので
そういう文化が定着しているのでしょう。

ただ、人数自体はそんなに多くはないと思います。
多い少ないって主観的なものなので表現が難しいですが
カスタムカーがそこらじゅうで走り回っている
という感じではないです。決して。
アメリカでもイギリスでも。
まぁ、たまに見かけますので
一定数は確実にいるのですけどね。

バックヤードビルダーなんて呼ばれる人たちは
そういう人達ですね。
プロ、アマ問わず。
車に限らず
家で家具作ったりする人達もそう呼ばれますが。

日本国内のレーシングカーコンストラクターは
だいぶ減ってしまいましたね。
見学に行くのも良いでしょうけど
設計を教えてくれってわけにはいかないでしょう。

四苦八苦して
レーシングカーの設計や製作の
基本的な部分を理解したところで
それで戦力を持ったマシンを設計できるわけではありません。
実際に試行錯誤して
何度も何度も色々とやってみないとね。
本読んで知識を付ければ済むわけじゃないんですね。
まぁそういうものです。

というわけで
レーシングマシンの設計とか開発って
いわゆる暗黙知の世界なんですね。
やらないと分からないことばかり。
まぁ、ものをつくるって往々にしてそんなものです。

ところで
職人さんって
教科書で学ぶのではなく
見て覚える
見て技を盗む
という世界でしょう。

この
見て盗む
というのは
結構理にかなっていると思います。
目で見て分かる「型」をまねる
「型」が同じであれば同じ結果が出る
ということはないので
その過程では
多くの自分なりの工夫が必要です。

なので
一見同じようなものをつくっているようでも
実は進化している
ということがあるのではないかと思っています。

出雲とか伊勢の遷宮なんかはそういうものらしいですね。
何年かに一度
腕の立つ宮大工が全国から集まってきて
そのときの最新技術で以前と同じお社を作って
(もちろん伝統的な技術も使います)
神様が新居にお引っ越しする
というイベントです。

そんなものづくりの世界ですが
それでもアメリカ人は
そういうのをノウハウ化して残しちゃうから凄いです。
とはいえ!
やはりやってみないと分からない世界であること
には変わりはありませんけどね。

というわけで
実践的なレーシングカー作りの解説書
探すなら洋書が一番ということになります。

英語が苦手だから心配?
大丈夫です。
好きな世界のことなんだから理解しやすいですよ。
それに分からないことがあっても
自力で何とかしようとするでしょう?
それが本当の学びではないでしょうか。

トップエンドでいこう

コロナウイルスが再び猛威を振るい出しました。
皆さんお気を付けください。

でも
くれぐれも心配しすぎて
ネガティブな心にとらわれないでくださいね。

かといって
コロナなんて恐れる必要ないから
普段通りガンガンいけ!
なんて言うつもりはありません。
ちゃんと感染予防はしましょうね。

さてさて
今回は
どのように未来に向かっていくか
というお話をしましょう。

教員やって20年くらいになりますので
学生を見て
「あぁ、こいつはうまくいくな」
という勘はずいぶん磨かれてきました。

学生を見ていて
彼らから学ぶことって
凄くいっぱいあります。
教員は教えるのが仕事ですが
実は
学生から多くのことを教えてもらっている
と思ってます。

ほんの一例ですが
一人の学生の例をお話しましょう。

ずいぶん前に
私の研究室から巣立っていった男の話です。
そいつは今、MotoGPマシンの設計者です。
どこのチームに所属しているとか
具体的に何をやっているとか
すべて機密事項なので
そういったことは一切記しませんが。

当大学では
4年生から研究室に所属するのですが
そいつは3年生の春に私のところに相談に来ました。

「雑誌主催の最高速を競うイベントに出たいんです。
速いバイクを作るにはどうしたらいいですか?」
というのがそのときの彼の質問。

確か125ccくらいの小排気量のバイクを改造したい
という話だったと思います。

まぁ相手が3年生で
ボチボチ就職とかも考えた方が良さそうな時期ですから
聞いてみました。

「そんな小さいバイクの改造くらいでいいの?
本当は何やりたいの?
どれくらい速いバイク作ってみたいの?」

今にして思えば
正しい教員の返答は
「そんなこと言ってないで勉強しろ」
とか
「就職のこと考えろ」
とかなんでしょうけど。
残念ながら私はそういう思考回路を持っていません。

彼は
「本当は世界一速いバイクを作りたい」
と言いました。

正しい教員の答えは
「そんなのできるはずないだろ」
とか
「そんなこと言ってないで勉強しろ」
とか
「就職のこと考えろ」
なのかもしれませんが
残念ながら私はそういう思考回路を持っていません。
本当に残念なことです。

正しい答えを言えない私は
「ふーん。じゃ、世界一速いマシンを見に行く必要があるね」
と言って
アメリカのユタ州にある
ボンネビル・ソルトフラッツという広大な乾塩湖で開催される
最高速競技を見に行けと言ってしまいました。
映画なんかでも有名ですね。
私も一度見に行きました。
凄いイベントです。

そのとき彼には
本気で行く気があるなら
どうやって現地に行ったら良いかなど
具体的なアドバイスをする
と言う話をして分かれました。

私が行ったのは2009年です

そしたら後日来ましたよ。
なので
どんな飛行機に乗って
どこに行けば良いかとか
具体的な話になりました。

その流れで
「ところで英語は大丈夫なんかね?」
と聞いてみたら
「全然ダメっす」

「お金はどうすんの?
イベント中の近所の宿は3倍レートになってるから高いよ」
と言ったら
「金は全然無いのでこれからバイトして貯めます」

そりゃもう当然
「お前、そんなんで大丈夫かよ。
行くだけ行っても
宿に泊まれないんじゃ野宿?
金なかったら飯も食えないじゃん。
そもそも英語全然ダメってどうすんだよ」
と言う話になりますよね。
そしたらヤツは熱く語りました。

「先生、そんなこと心配しても何の解決にもならないんですよ。
風呂入れなくて臭くなっちゃうとか
メシ食えなかったらどうしようとか
そんなこと死ぬほど悩んでも何も解決しないんです。

問題は、どうしたらトップチームのリーダーに
俺を必要としてもらえるかなんです。
それができたら、そもそもそんなレベルの低い心配しなくていいんですよ」

なんと
こいつは最速チームのリーダーに面倒を見てもらうつもりなのでした。

アメリカにはジェット戦闘機の翼を外したようなマシンで
音速を狙ってるチームがあります。
そのマシンはボンネビルのイベントを走るわけではないのですが
マシンのオーナーが持っているチームは参加するので
そのチームに入れてもらうと。

こりゃ参りました。

何が参ったかって
大層大胆なことを考えているのは
参っちゃうっちゃぁ参っちゃうのですが

最上位の
トップエンドのゴールを設定したら
そもそも
最悪の
ボトムエンドの心配なんかしなくていいのだ
という理論ですよ。

これは凄いですよ。
まさにその通り!

そいつはその後どうしたか

高所恐怖症なのに一人飛行機に乗って渡米し

ホームレスのたむろするストリートを抜けて
キャンプ場にたどり着き
(ソルトレイクシティの空港は、徒歩で出られない構造なので
途中でおまわりさんに捕まったりしながら)

金がないので友達になったドイツ人のキャンパー一家に飯を食わせてもらい
(ご主人はF1マシンのメカニックだったそうな)

SNSで連絡を取ったトップチームのオーナーご本人に車で迎えに来てもらい
チームに入れてもらって
1週間チームクルーとして働きました。

最初は
言葉もできない外国人なので
全く信用されずに
荷物運びだったそうです。

でも最後には
マシン停止用のパラシュートを畳む
という役割をもらったそうです。
(パラシュートを畳むということは
ドライバーの命を預かるということなので
かなり重要な役割)

私が行ったときの写真なので、この話に出てくるマシンではありませんが
こんな風に後端の円筒形の部分にパラシュートが入っています

それで終わりかと思いきや

その後に開催された
バイク専門の最高速イベントにも
チームを紹介してもらってクルーとして参加

結局
1ヶ月半ほどアメリカにいました。
キャンプしたり
チームクルーのアパートに泊まったりして。

彼は高校生の時はラグビーしかしていなかったので
脳ミソが筋肉でできているような男でしたが
その後は私の研究室で
複雑なバイクの運動解析なんかをやってました。

結局、卒業前に
色々な意味で
世界一速いバイクを作るにはどうしたら良いか
という答えを手に入れたというお話です。

そんなの誰でもできることじゃないだろって?

いやいや、それ決めるの自分でしょ。

おまけ

スタート地点
右端のお方は、私のお師匠様 1960年代のホンダF1マシンの設計者 佐野彰一先生
ヤマハのRZ(現地ではRDですね)も走る
ホンダのZ? ライフ? オーナーは「解体屋で拾ってきた」と言ってました