バイクでリチウムイオンバッテリー

最近は量産のバイクでも
リチウムイオンバッテリーの採用が出てきましたね。
さすがにお高いので
それなりの車種にしか採用されていませんが。

ホンダの街乗りだと最新のCBR1000RR-Rあたり。
他にはモトクロッサーのCRF450なんかが採用してます。

メリットは
軽いことです。
とにかく軽い。
鉛バッテリーに比べると冗談みたいに軽い。

自分のバイクではLiFePO4の
SHORAIバッテリーをずいぶん前から使っています。
SHORAIなんて言ってますが、アメリカの会社です。
これ、ラジコンなんかに使われている
リフェバッテリーってヤツですね。
使い始めたのは2011年モデルの
BMW R1200GSに乗ったとき。

純正のバッテリーはとにかく重かった。
1200ccを始動するのだから
ってのもありますが
水平対向2気筒なもんで
1気筒あたり600ccなのです。

エンジンが始動するとき
クランクシャフトの回転に伴って
ピストンが上下運動します。
水平対向だと左右なので、往復運動と言うべきか。
そのときに一番大変なのが圧縮行程で
これを乗り越えられなければエンジンは始動しません。
このときにクランクシャフトを回すために必要なトルクを
乗り越しトルク
と言います。

もちろんピストンが小さい方が乗り越しトルクは小さいです。
なので
例えば1200ccとはいっても
4気筒と2気筒では乗り越しトルクはかなり違います。

多気筒エンジンの方がピストンがいっぱいあるから大変なんじゃないかって?
確かにメカニカルロスは大きいのですが
多気筒なら、どれか1気筒に火が入ってしまえば
それが回転を助けてくれてスターターモーターの負担が減りますし
1気筒あたりの乗り越しトルク自体は小さいのです。
なので始動性ということでは大したことないのです。

実は単気筒が最も大変です。

単気筒は多気筒エンジンのように
どれかの気筒が始動を助けてくれるなんてことは
絶対にありません。

一つしかない燃焼室で爆発が起きるまで
大きな乗り越しトルクのクランクシャフトを
回し続けなければならないのです。
大排気量の単気筒エンジンなんてものすごく大変なはずです。
冒頭に挙げたCRF450、これも大変。
レーサーなので圧縮比高いし。
本学Formula SAEチームのマシンは
CRF450のエンジンを使っていますが
始動には苦労してます。
まぁ、始動の困難を補ってあまりある
メリットがあるので採用しているようですが。

というわけで
単気筒ほどではないにしても
1気筒600ccの2気筒エンジンは
かなりクランキングのトルクが要るのです。
なのでバッテリーはデカイ。

R1200GS
車載状態では
シート下にバッテリーがあって
外すときはバッテリーの上部を掴んで
引き上げる必要があるのですが
これが大変でした。
純正の鉛バッテリーは5kg以上あると思います。
ひょっとしたら6kgくらいあるかも。

これをSHORAIバッテリーにすると
1.4kgくらいになっちゃいます。
実に4分の1です。
冒頭に冗談みたいに軽いと書きましたが
手元に届いたときは
「これ、本当にバッテリー入ってるのか?」
と思いました。

このくらい軽くなると
乗っていても分かります。
運動性能が向上しますから。
左右への切り返しが軽快になります。

でも、ちょっと気になる点があります。
それは低温時の特性。
気温が高ければSHORAIバッテリーは
すさまじいパワーを持っているので
何ら問題は起きません。

ですが
経験上、R1200GSの場合は気温が
18度を切ると冷間時の始動性が悪化しました。
寒いときはバッテリーの放電特性が悪化するのです。
多気筒ならこの程度の気温でも問題ないのかもしれませんが
R1200GSはダメでした。
出先でクランキングしなかったときは焦りましたよ。
その状態で焦ってスターターモーターを回し続けると
間違いなく過放電でバッテリーはお亡くなりになります。

でも解決方法はあります。
バッテリーの温度を上げれば良いのです。

巷では「儀式」と呼ばれているようですが
低温時はいきなりクランキングせずに
まずはヘッドライトとかグリップヒーターとか
そこそこ電気を必要とするものをONにします。
で、ちょっと電気を使って数分待つ。
するとバッテリーが活性化して発熱します。
そうなったら始動OK。
大抵はなんとかなります。

あぁ、バッテリーってケミカルなんだなぁ
と思い知らされます。
寒いと化学反応が起きにくいんですね。

そうそう!
で、量産車のリチウムイオンバッテリーの
低温特性はどうなんだ!?
と気になって仕方なかったのです。

なんと!
メーカーサイトでは低温特性に自信があるようです。
いいなぁ。

R1200GSの時に買ったSHORAIバッテリーは
2019年に乗り換えたR1200RSでも継続使用しています。
恐らく通算7~8年くらいは使ってるのかな?
鉛バッテリーの寿命は3~5年くらいなので
結構長寿命ですね。
もっとも冬場は純正の鉛バッテリーに換えてしまっていますが。

本学Formula SAEチームもSHORAIバッテリーを使っているのですが
過放電でダメになったものがあったので殻割りしました。

中身はこんな感じ。

道具の進化 鉄器編

その後に登場するのは
鉄器
なのですが
これまた不思議です。

まず
そもそも自然に存在する鉄は酸化鉄です。
言ってみればサビです。
この状態では、単に熱を加えてもどうにもならない.。
鉄製品を作るための材料とするには
この状態から酸素を奪う還元作用によって
素材として使える鉄にしなければなりません。

そもそも
そんなこと誰がどうやって思い付いたのでしょうね。

さらに
鉄の融点は1,538°Cです。
薪を燃やした焚き火なんかじゃ溶けてくれません。
最低でも
木炭や石炭などのエネルギー密度の高い燃料と
鞴(ふいご)を使って風を送り
高温を得る必要があります。
それでも
そんなに簡単に溶けたりしませんけどね。

鉄の起源はこのように
地球上にそもそも存在する資源で
作ったとされる説に加えて
もう一つあります。

5000年ほど前に隕鉄(いんてつ)を利用した
とされる説です。
隕鉄とは隕石ではなく
宇宙から降ってくる鉄の塊です。
それを素材として鉄製品を作ったということですね。

もちろん多くは小さいものだったのでしょうけど
ニューヨークの自然史博物館に行くと
直径1mを超えるような巨大な隕鉄を見られます。
写真を撮ったはずなのですが行方不明です。
すみません。

宇宙から降ってきた
鉄を見つけるといっても
そう簡単には見つからないでしょう。
見つかったとしても
それを材料にして製品を作る!?
たまたま真っ赤に焼けた状態の隕鉄を見つけて
叩いて整形して
冷めたらいけそうだった?
そんなことあるのかなぁ?

隕鉄で作られた製品は
ヒッタイト帝国の遺跡や
エジプトの遺跡で見つかっています。

何にせよ鉄製の道具は
それまでの青銅のものに比べて遙かに強力なのですね。
特に刃物などは切れ味も強度も。
なので、鉄を得た民族は強大な力を得た
ということです。

恐らく
当時の鉄製の武器は
現在の核兵器に相当するくらいの
インパクトを持っていたのではないでしょうか。

ちなみに
日本の古来の製鉄は独特で
たたら製鉄といって
木炭を燃料として砂鉄から作るのですが
石炭を蒸し焼きにした燃料であるコークスと
鉄鉱石を使った西洋風の製鉄方法に比べて
極めて純度の高い鉄が得られるそうです。

その理由は
鉄鉱石やコークスには
そもそもリンや硫黄が含まれていて
これが不純物として鉄に混ざってしまうから。

たたら製鉄の場合は
そもそも木炭と砂鉄なので
不純物が入りようがないそうなのです。

その鉄は
玉鋼(たまはがね)といって
日本刀の材料になります。

日本刀に限らず
ノミやカンナなどの大工道具や
和包丁などをはじめとする
日本古来の刃物の多くは
炭素分が多くて固い「刃金」(はがね)と
炭素分が少なく柔らかい「地金」(じがね)を
接合(鍛接)して作られるという
これまた大変な
世界的にも希な製法で作られています。

簡単に「鍛接」なんていっても
これがなかなか難しいのです。
真っ赤に熱した鉄に
硼砂(ほうしゃ)をまぶして
同じく熱したもう一方を載せて…
叩く!
でもなかなかくっつきません。

苦労してくっついた後は
熱して叩いて成型です。
とはいえこれも難しい。

常温なら硬いはずの
炭素分が多い刃金
熱するとなぜかこれが地金より柔らかくなっちゃう。
なので叩くと刃金ばかり瘦せてしまう。

あらかた形になったら
焼きなましてみたり
削ってみたり
焼き入れしたり
研いだり…
いやー、もう大変。
楽しいけど。

なんでそんなこと知ってるかって?

そりゃ、自分でやってみたからですよ(笑)
カッコいい刃物なんて
なかなか作れませんよ。

こんな愛すべき難しい材料を
自在に操る本物の鍛冶屋さんは
日本には数えるほどしか残っていません。

みなさん、この素晴らしい文化を残すために
本物の日本の刃物を使いましょう。
オーダーすれば、希望に応じていろいろ作ってくれます。
私は毎年お願いしてます。
出来上がってきたのを見ると
ほれぼれしちゃいますよ。
もちろん使えばその良さはすぐわかります。

日本の鉄に興味のある方は
日刀保たたら
というキーワード検索してみてください。
刃物については
後日改めて記事にしましょう。

刃物に限らず鉄砲も鉄製です。
鉄砲は種子島に伝来しましたが
実は種子島には良質な砂鉄が採れる場所があったので
鉄砲の量産が可能になったそうです。

実は火縄銃の時代には
日本は世界で最も多くの鉄砲を
保有する国だったそうですよ。
驚きですね。

種子島には
鉄砲館
という大量の鉄砲を含む
種子島全般についての展示がある博物館があります。
お好きな方は機会があったらぜひ行ってみてください。

鉄製品の話をしていくときりがないので
この辺で終わりにしておきましょう。

道具の進化 青銅器編

土器の後は金属器ですね。

まず最初に出てくるのは
青銅器
ブロンズとも呼ばれる
銅と錫(スズ)の合金です。

日本で出土するのは
弥生時代から古墳時代にかけての
銅鐸や銅鏡、銅剣、銅矛
がよく知られるところですね。

出雲大社の隣にある島根県立古代出雲歴史博物館にて すさまじい数の銅矛が展示されてます

日本の場合
当初は青銅器が大陸から入ってきたのですが
そのタイミングが遅かったので
実用的な道具は
その後に入ってきた
鉄器に早々に置き換わってしまったようです。
なので
青銅製の実用品は結構少ないんですね。

そもそもの青銅器の始まりは
故意に銅と錫を混ぜ合わせたわけではなく
銅と錫の鉱床が近いことが多いなどの理由で
たまたま青銅だったりするそうです。

道具の材料としては
固い銅の方が錫よりも
優れているわけなのですが
問題は製造にあります。

銅の融点は 1,085°C
錫の融点は 231.9°C
これらの合金である青銅の融点は
この2種類の間の温度になるわけで
純粋な銅よりも低い温度で溶ける方が
作りやすいわけです。

しかしですよ
何でまたこんな材料を使い始めたのか
ってのが不思議なところです。

日本の場合は
まず製品として
形になったものが入ってきたのですが
最初に青銅を
実用的な金属材料として
使い始めた人は何者なんでしょうね。

だって、鉱石の状態を見たって
とてもこれから金属の道具が
作れるなんて思いませんよね。

さらに
鉱石から金属を取り出す方法は
一体どうしたら思いつくんでしょうか。

焚き火の中に鉱石を投げ込んだところで
金属はそう簡単に抽出できませんよ。

当時の人は
鉱石を砕いて粉状にした顔料で
化粧やボディペインティングをしていたので
その顔料がたまたま焚き火に入ったときに金属を発見した
なんて説もありますが…
そんなことあるのでしょうか。

まぁそんな疑問は残るにせよ
金属器の登場はこれまた凄い変化を及ぼします。

まずなんと言っても
木や石の道具に比べて扱いやすく修理しやすい。
例えば
刃物はいずれ刃先が鈍って切れなくなりますが
金属製なら研げばすぐに切れるようになります。
石器ではこうはいかない。

用途としては
農具、武器としての利用が多かったのでしょう。
あとは神事などに使う祭器ですかね。
どんな時代でも神事には
道具にせよ、建物にせよ
レベルの高い技術が使われることが多いですから。
日本の場合は
前述のような理由で
圧倒的に祭器が多いようです。

製造上の最も大きな変化としては
鋳物として製造(鋳造)できるので
型を作って思い通りの形で大量生産ができる
ということではないでしょうか。

これは凄いことですよ。
高性能な道具が大量に作れるのですから。

土器も型を作って同じ形をしたものを量産できますが
果たして縄文や弥生時代にやってたんでしょうか。
あまり聞き覚えがありません。

銅鐸にしたって
けっこう薄肉で大きいものを作ってますからね。
しかも大量に。

武器の場合は
強力なものを大量に作れる
ということで
恐らく争いごとの頻度と規模が
大きくなったんじゃないでしょうか。

テクノロジーが
争いに使われるというのは
最近に始まったことではないわけではなく
世の常なんですね。