H3ロケットに思う

H3ロケットの打ち上げ失敗は残念でした。
どうやらH2までは試射をしていたようなのですが、H3はいきなり本番だったのですね。
自動車業界で言うところの「試作レス」というヤツです。

今回の結果について色々意見はあると思いますが、誰も失敗したくてしてるわけじゃないし、万全を期して望んでいると思うのです。
でも失敗は起こります。

万全を期しても失敗は起こる。
なぜかというと、失敗とは想定外だからです。

やってみなければ分からないこと
これはすなわち想定の外にあることなわけで
それを想定しろというのは大変難しいことです。

今回のような新型ロケットは新しいチャレンジなわけで、やってみないと分からないことだらけなのでしょう。
それらを何とか想定しながら開発を進めるのだけれど、とはいえ「想定に基づいてやる」ということは可能性の話なわけで、最終的にはやはり「やらないと分からない」というところに行き着くと思います。
そういうのを繰り返しながら技術は進歩していくわけで、そういう意味ではH3ロケットは、新たな一歩を踏み出したわけですね。
ひょっとしたらそういうのは、便利で豊かな生活の弊害と言えるのかもしれませんね。

物心がついたときから出来の良い工業製品に囲まれて、自らものを作らずとも、お金を払えば完璧(と思える)製品を難なく手に入れる生活をしていたら、こういう失敗に対して簡単に批判したり悲観的になったりするのかもしれません。

日本のロケットというと、大したことないのだろうなんて思われがちかもしれません。実のところ私はそう思っていました。
が、実はロシアのソユーズより大きくて能力が高かったりするので結構なものなのですよ。
なので恐らく能力的には有人の打ち上げは可能なのでしょうね。飛行特性とか本体や付随の設備的には難しかったりするのかもしれませんが。

あと興味深いのは使用された部品です。
H3では自動車用部品を使用したとのことです。
単に量産部品を流用したわけではなく、高いレベルの検査や試験の基準をクリアした上での採用となったとは思いますが。
これまで自動車業界、ことレースの世界においては、航空宇宙のテクノロジーを利用するのがよくある話でしたが、それが逆の流れになったわけですね。目的はコストダウンでしょうけど。
それにしても、この流れは興味深い。
技術は高いところから低いところへ流れるものですが、今やその高低の基準がコストということになっているわけですね。
加えて、日本の自動車業界の技術レベルは、今や宇宙機に採用されるレベルになっていると。

打上げを見た長谷展望公園の出店で入手したしおり

ロケット本体に、NIPPONではなくJAPANと文字が入ったのはH3からなのだそうです。
国際的な営業効果を考えてのことのようですね。
だからこそ低コスト化が競争力として重要だということです。

次回こそ成功して欲しいですね。

クルマにまつわる仕事の話

別に硬いネタではありません。

昔、仕事でレーシングカーの設計をしていたことがあります。
ごく小さなプロジェクトでしたが。

で、ブレーキまわりの設計をしているときに
「このテの部品は量産品を流用したいなぁ」
と思ったのですが
何か良い部品無いかな?と思って
大手のブレーキのメーカーに電話したのです。
「なんか良い部品無いですか?」って。

その時イメージしていたのは
イタリアの某有名ブレーキパーツメーカーのように
単品でエンドユーザーに販売できるような部品が無いかな?
ということでした。

結果…日本には無かった。

なぜかというと
日本製のブレーキ部品は
自動車メーカーからのオーダーによって
車種専用に開発するから
「これは良いブレーキ部品ですよ」
ってお客さんに直接売るような形態になってないのです。
カタログ化されてなかったのですね。

日本の場合は、ブレーキに限らず
他社間での部品の流用はあまり無い気がします。
全く無いわけではありませんが。

欧米では
自動車やオートバイを構成するコンポーネントを開発して
自動車メーカーへはもちろん
エンドユーザーにも供給できるメーカーが結構あります。

ブレーキ部品とかショックアブソーバーとかシートとか
それこそ、部品に限らず外観のデザインを専門にやる会社とかもあるし。

今でこそ、日本にもそういう部品メーカーがボチボチありますが
昔はあまりありませんでした。

なんでそういうビジネスの形態の違いができたかというと
自動車の成り立ちからの歴史を持っているか否か
の違いが大きいのではないかと思います。

そもそもの自動車はどんな物だったかというと
やはり車輪が着いていて走るものですから
馬車の技術が用いられていたわけです。

車輪なんかは木でできていて
その外側に鉄の輪っかをはめた物です。

それを木でできたフレーム(車台)に取り付ければ
荷車の形になります。

それぞれの要素は結構異なる作り方だったりするので
それぞれの要素を作る専門の職人がいたり組織があったでしょうね。
車台やさんとか車輪やさんとか。

ちなみに
私の母方の先祖は
城下町の興行師から
大八車(荷車)の車輪職人に職替えしたそうです。
どうでも良い話ですが。

そして、荷車のままではカッコ悪くて
貴族やお姫様には相応しくないので
いわゆる上物(うわもの)を載せるのです。

カッコイイ箱状のボディです。
ついでに御者のシートとか各種の飾りとか。

そうしてできた四輪のカッコイイ馬車を
coach(コーチ)
といいます。

なので、そんなふうに馬車をカッコよく仕立てる職業を
coach builder(コーチ・ビルダー)
と呼びます。
イタリア語では
carrozzeria(カロッツエリア)
です。

もちろんヨーロッパにおいて
カッコイイ自動車を作り始めたのも彼らであって
当初はお客さんの注文に応じて
馬車にカッコイイボディを載せる仕事でしたが

自動車誕生後は
メーカーが作った車体(むしろ車台か)に
特注のボディを載せる仕事になっていくわけです。

現在もそういう会社は残っています。
デザインスタジオとしても有名な
ベルトーネとかピニンファリーナとかイタルデザインなどです。

かの有名なフェラーリも
当初はカロッツエリアとしてのスタートだったのではないかな。

ずいぶん長い前置きになってしまいましたが
そういうスタイルで仕事をすると
カロッツエリアが適切な各要素部品なんかを専門の会社にオーダーして
それらを車体に組み込むことになります。

なので、ブレーキとかショックアブソーバーとかシートとか
専門の会社が腕を競って部品を開発して
カタログ化された自社製品を
売り込むというような構造になるのでしょうね。

日本の場合は特注の自動車と言えば
貨物とか作業用の自動車だったりするので
トラックメーカーから出荷された車体に
箱状の荷室とか各種装置を取り付けたりする
専門の会社があります。
そういう作業を
「架装(かそう)」
といいます。

トラックをよーく見ると
「ナントカボデー」
とかステッカーが貼ってあったりしますが
アレがその会社、架装メーカーです。

今回のお話しの本体はここまでなのですが
書く途中で色々調べて
そこで分かった衝撃的な話があります。
事の次第はこうです。

car(カー)と言う言葉の語源は何だろう?
と調べたら、ラテン語のcarrusからきているということがわかりました。

エレベーターの人が乗る「箱」もcarなのね。

で、豪華な馬車はcarriage(キャリッジ)でいいのだったかな?
とか調べると
四輪の馬車を初めて作ったのはイギリスで
1820年代初頭…意外と新しいな。
それまでは二輪だったわけか。
ほうほう。

あれ?シンデレラのカボチャの馬車はどんなんだっけな?
おお、四輪の馬車だ!
時代考証はどうなってんのかな?
グリム童話は1812年~1815年なのでちょっと怪しい。
四輪の馬車は存在して…
あら、オリジナルにはカボチャの馬車は登場しない?
しかも内容がグロい。

姉たちは王子の持つ靴にサイズを合わせるために
つま先やかかとをナイフで切って…
挙げ句、鳩に目をくりぬかれて
足を切り落とされて…
うーん、読みたくない。

驚きはそれに留まらず
なんと
「おしん」ってシンデレラの翻訳版??
しかも漢字で書くと「お辛」
そんなひどい名前アリなのか?

興味のある方はWikipediaを見て下さい。

最近の車は大変です

年の瀬は何をやっているかというと
頼まれもののハイエースの改修作業だったりします。

具体的には
サイドドアのオートクローザー追加
テールゲートの開閉電動化
車内へのFFヒーター設置
バックカメラ取り付け
という感じなのですが
いかんせん頼まれものなので
外観は綺麗に仕上げたいわけで
一番厄介なのは電線の処理ですね。

どこから電源を取るとか
見えないところを配索するとか。

そうなると内装剥がしまくりなのですが
車が大きいだけに
なかなか大変な作業だったりします。

この作業、車屋さんに頼んだら
やってくれなかったそうなのですが
うん。分かる。
これは大変だ。

でもまぁ、これはこれでかなり勉強になるのです。
ウチは曲がりなりにも自動車工学研究室ですからね。
量産車のお勉強です。

各種部品の取り付けや仕上げとか
(合わせ建て付けといいます)
部品そのものの形状や素材とか
自動車技術は日進月歩ですから。

アフターマーケットの部品のクオリティや
機能なんかも大変参考になりますし。

前職では、自動車の各部位を
一通り色々やらせてもらいましたので
全体的にそれなりに理解はできるのですが
今回の改修作業で一番インパクトがあったのは
電装部品です。

とにかく回路数が凄まじく増大しています。
ワイヤーハーネス(電線)の総量は凄い事になっていますね。

現役で設計をやっているときは
場合によっては試作車1台分のワイヤーハーネスを
全て一人で作ったりした事もありましたが…
これは無理だなぁ。

ちなみに、その時の車は
モーターショーの出品車で
コンセプトカーでした。

ショーカーって、以外とシンプルな電装だったりするんですよ。
量産車みたいに余計なものは付いてませんから。
エアコンとかオーディオとかセキュリティとか要りませんし。

自動車の電装部品のサプライヤーに勤めている卒業生が
「最近じゃ銅のコストがエライことになってます」
と言っていましたが
うん、それは分かる。

世の中何でも電動化するのも結構ですが
電線作るにも資源やエネルギーが要るのですよ。

あと、作業をしていて思ったのは
やたらと制御が増えている関係上
何かすると初期化とか設定とかが必要になったりして
なかなか大変です。

個人的にはシンプルな車が好きなんです。
アシストなし、制御なしで
自分でどこでも手を入れられるような。

イギリスのバックヤードビルダーが組むような
スーパーセブンとかジネッタとか。
知ってますか?

そういう車、もう現れないでしょうね。