Hの話 後編

前回の続きです。

さて
この水素燃料電池
もちろん水素を燃料としているわけですが
今回は
この水素ってヤツが重要なのですよ
というお話です。
いやー、前置きが長かった!

燃料の分子構造式はこんな風になっています。
おお!なんか授業みたい!

色々並べてみました。

一番上の水素分子以外
水素(H)と炭素(C)でできてます。
こういう炭素と水素でできた燃料を炭化水素といいます。
ハイドロカーボンってヤツですね。

燃料を燃やすってことは
大気中の酸素(O)と結合するってことです。
すると燃料は
水(H2O)と二酸化炭素(CO2)になります。
ちなみに燃料電池も水素と酸素が反応して水になります。

Hがいっぱい付いている燃料が調子良いヤツです。
でも
Cがいっぱい付いてるので
燃やすとCO2がいっぱい出てしまいます。
おお、なんてことでしょう!

色々あるうち
水素だけCが無いですよね。
当たり前ですが、これを使えばCO2が出ないわけです。

水素を燃料としてエンジンで燃やすと
結構クリーンだと思いますが
熱効率が問題になってくるでしょう。
恐らく効率は40%以下になっちゃうんじゃないかな。
燃焼によって得たエネルギーの半分以上は
熱として捨ててしまうことになります。
あとは
高温の燃焼によって大気の主成分である窒素(N)と反応して
有害な窒素酸化物(NOX)が出ちゃったりするとも思います。

結局何が言いたいのかというと

結局、Hが欲しいのだ!

ということです。
乗りものも生きものも。

生きものも!?

そうです。
人間の燃料である食べ物に含まれているタンパク質
これはアミノ酸で構成されていて
その構造を見ると多くの水素を含んでいます。
もちろん水素だけではないので
水素だけ摂取してれば良いってわけではありませんが。

こういう話をすると
日本政府が打ち出した
「これからは水素社会だよ」
ってのも合点がいきますね。

そうか!水素か!
じゃ、水素ガンガンゲットしよう!
と思っても
水素は天然資源としては存在しないのです。
あら残念。

じゃ、水素バンバン作ろう!!

それがすんなりできればハッピーなのですが
色々と課題はあります。

製鉄など、工場で何かを作るときの
副産物として得られる場合があるので
それを利用するってのはアリです。
でも、それで多くのクルマを走らせるのは無理でしょう。
そもそも副産物の生産量は主生産物によるわけで
コントロールは難しい。

あとは皆さんご存じの水の電気分解ですね。
太陽光発電や風力発電などが
いわゆる再生可能なヤツで電気を起こすのが理想的です。

でも、再生可能なヤツは
天気が悪かったり風が吹かなかったりすることもあるので
常にゴキゲンなわけではありません。

ところで
発電機で電気を作って
その電気で水を電気分解して水素を作って
その水素を使って燃料電池で電気を作る
なんか変ですね。
こんなふうに変換が多いのは効率悪そうです。
でも再生可能な方法ならいっか!
ってなるかもしれません。

そもそも
電気エネルギーは高密度で貯めておけないので
水素を使うのですから
まぁしょうがない。

現在日本が頼っている
火力発電所の電力を使って電気分解…
なんてのはお勧めできません。
だってそもそも燃料燃やしちゃってるじゃん!

それに加えて火力発電では
燃料燃やす-蒸気起こす-タービン回すー発電機で発電
となるわけですが
熱エネルギー 運動エネルギー 電気エネルギー
というようにエネルギーの変換が複数起きていて
そのたびにロスが出ます。

ちなみに
火力発電所で使う燃料は
天然ガス、石油、石炭
といったところです。

原発の基本原理は火力発電所と同じで
熱源が化石燃料の燃焼ではなく
核分裂の時に出る熱という違いです。
発電時にCO2は出ません。
嫌われていますが
燃費は超良いです。

このように
どうやって水素を作るか
という問題が一つ。

では、水素ができたとします。
でも、単に水素で燃料タンクを満たしても
大したエネルギー量にはなりません。
なのでガンガンに圧縮して
いっぱい詰め込む必要があります。
それでやっとクルマが長距離走れるようになります。
もちろん圧縮するのにエネルギーが必要です。

もちろんタンクの安全面は重要なので
すごく丈夫で、さらに軽い方が良いので
金属や樹脂の容器をカーボンファイバーで覆ったりした構造です。
クルマに搭載した状態で燃やしてみたり
試験の時は銃をぶっ放して(銃弾は徹甲弾)
貫通しても良いけど破裂しちゃダメ
とか、すごい試験をします。

他にも色々とありますよ。

そんなもんで
高圧の水素を安全に貯めておくためのタンクはお高いとか
それを供給するためのインフラ(水素ステーション)もお高いとか
金属は水素を吸収するともろくなってしまうとか
水素は分子が小さいので物質を通り抜けてしまうとか
大気中に逃げた水素は成層圏を突き抜けて宇宙に逃げてしまうとか
まぁ大変。

こんなふうに書いてしまうと

水素ダメじゃん!

って見えますが
何ごともメリットとデメリットがあって
それらのトレードオフが必要なのです。
完璧な方法なんてありません。

ガソリンをはじめとする液体燃料は
「採掘」で入手ができて
エネルギー密度が高く
貯めたり移動したりのハンドリングがしやすい
まさに理想的な燃料ですが
反面
埋蔵量の限界とか
環境負荷とか
やはりデメリットがあるわけです。

これは水素はもちろん
原発や太陽光発電、風力発電でも同様です。
あらゆるものにメリットとデメリットがあります。

その時の状況に応じて
何を取るかが大事になるのでしょうね。

どうしてもデメリットを取りたくなければ
メリットもろとも捨て去るしかないでしょう。

先のことなんて
やってみなければ分からないことばかり。
勇気が必要ですね。

Hの話 前編

いきなり何を言うんだ?
と思ったでしょう(笑)

水素です。
よからぬ想像をしてしまったあなたの心は汚れています。
反省して修行しましょう。

ここに来て燃料電池自動車が盛り上がりを見せてきましたね。
今回はその辺の話をしてみましょう。

現行車で水素で走る車は
トヨタのミライとホンダのクラリティ
この2つはいずれも燃料電池で走るクルマです。

これらに搭載されている燃料電池は
燃料として搭載した水素と大気中の酸素を反応させて電気を取り出す装置です。
水素と酸素を供給すれば電気を取り出せる電池と思って良いです。
なので、燃料電池自動車もいわゆるEV(電気自動車)で
Fuel Cell Electric Vehicle:FCEVと呼びます。

自動車用の燃料電池は「単セル」と呼ばれる小さな単位で発電して
それを直列にたくさん繋いで必要な電圧を得るようになっています。
その集合体を燃料電池スタックと呼びます。
EVは数百ボルトの電圧で走るので
この単セルを、たーくさん繋ぐ必要があります。
燃料電池のセルは、繊細な構造をしています。
これをたくさん繋ぐので
信頼性とかコストが課題となっていました。

現状の一般的なEVは、外部からバッテリーに充電して走りますが
燃料電池の自動車は、燃料電池で発電した電気を
バッテリーに貯めて使うので
外部から充電する必要はありません。

外部からの充電が必要か不要かという違いはありますが
核心はそこではありません。

今回、トヨタが新しいミライのために
性能向上して汎用性のある燃料電池スタックを開発して採用したそうです。
航続距離が伸びてコストも下がっています。
これをトラックなど乗用車以外に流用することによって
色々なものの電力を得ることができるようになる
これが今回の話題の核心ではないでしょうか。

以前
電池はエネルギーがあまり入らない割には重いし大きい
という投稿をしました。
トラックなどの貨物自動車をEVとして走らせる場合
バッテリーを輸送しているのか荷物を輸送しているのか
分からないほど多くの(重い)電池が必要になるのです。
これがトラックのEV化に対する課題でした。

燃料電池ならこれを改善できる可能性があるということです。
もちろんガソリンや軽油などの液体燃料ほどのエネルギー密度は得られませんが
クリーンだし
航続距離が伸ばせるので
トラックのEV化には使えるだろうということです。

日本ではトヨタグループの日野自動車
ヨーロッパではダイムラーやボルボで結成されたトラック連合が
電池のみのEVトラックではなく燃料電池のトラックに目を付けています。

後編につづく