デッドエンドは成長への発射台

学生と付き合っていくというのは
彼らの喜びと同時に
彼らの悩みとも付き合っていく
ということでもあります。

夢工房で色々やっている学生達
日々新しいことができるようになったり
新しいことに気付いたり
そんなこともありますが
もちろん
やりたいことが
できなかったりすることもあります。

理論的に分からないとか
技術的にうまくいかない
そんなことは頑張ると何とかなったりするのですが

手強いのは
本人の意識に上ってこないことが原因で
うまくいかないこと。

コイツが非常に手強い。

大抵は自分でも
何が起きているのか分からないんです。

例えば
「ものごとは大枠から決めていくんだよ」
と言っても
ついつい細かいことから始めちゃう。


「先生、この部品どうですか?」
と図面を持ってくるんだけど
単品の図面見せられても
その部品がどうなのかは判断できません。

部品の形状は
周囲の環境で決まっているわけで
「何のために、そうなっているのか」
それが分からないと
良いも悪いもありません。

そういうのはビギナーに多いですね。
何事も小さいところから始める
そんな訓練を延々とされてきた成果です。

実際に手を使って何かを作ったことが無いと
「大枠から考えろ」
と言っても
一体どういうことなのか実感が湧かないかもしれません。

実際にものをつくれば分かるんですけどね。
小さいところからなんて作れないって。

でも、プラモデルなんかだとダメかもしれませんね。
実際、細かいところから組んでいくから。
なにも経験が無いよりは良いのですが。

スクラッチで
ゼロから何かしらのモデルなんかを作ったりすると
良いかもしれません。
今時なかなかそんな学生いませんが。

絵画とか
何かしらの造形物を作るのも
良い経験でしょうね。

なので
夢工房に来て、1年生の時に何かの道具とか
雑務のようなものでも良いので
何かしら作った経験のある学生は
結構伸びます。

レベルが低くても良いから何かやれば
大抵は、どうしたら良いか分かるものです。

ダメでも何かやってみれば分かる!
ってことが分かったり。

でも、たまたま
そういう経験を逃してしまった学生もいます。

そういう場合
作るための準備がしっかり整わないので
作り始めることができない
なんてことになっちゃってることが多い。
そうなると事態はややこしくなります。

なんで準備が整わないかというと
経験が無いからです。

なんで経験が無いかというと
準備が整わなかったからです。

以降ループが続く

結局
いつになってもできるようにならないのですね。

そうこうしているうちに
締め切りが近付いてきます。

で、どうするかというと…

逃げ道を探します。

そもそも逃げ道なんて無いんですけどね。

まぁそれでも
うまいこと、その場は逃げて
学年を重ねてしまうケースもあります。

でもいつかは
もう本当に逃げられない
デッドエンドがやってきます。

本人は困るでしょうね。
凄く悩むと思います。

でもそれ
チャンスですよね。

消極的な気持ちを突き破って
その先に行くことができるようになれば
凄い飛躍ができるかもしれませんから。
それをやるしかない状態。

そういう状態から飛躍する学生を見られるのも
こういう仕事をしている特権だと思ってます。

技術は人なり

できるってどういうこと?

学校で勉強していて
できるだのできないだの
という話になりますが
一体「できる」というのは
どんな状態になれば良いのでしょう。

勉強が「できる」
高校生までなら
それでもいいかも。

でも、大学ともなると
その先は社会に出るわけで
そうなると
世のお役に経つための最終準備段階なわけです。

え?
自分は世の中の役に立とうなんて思ってないって?

いやいや
何かしら仕事するって
自分以外の誰かのためにやる
ってことですから。
じゃないとお金もらえないでしょう?

というわけで大学では
他のために価値を生み出す
その準備ができるかどうかってことでしょう。

社会が安定していて
余裕があるなら
学校で勉強だけやって
その後は会社にお任せ!
でも良かったのかもしれませんが
これからは、そうはいかんでしょう。

テクノロジーてんこ盛りの昨今では
基礎的なことに加えて
膨大な応用的な知識が必要ですから。

大学にいるうちに
社会に出て通用するような価値を
生み出せるようになれれば
それが一番なんでしょうけど
なかなかそうはいきません。

とはいえ
何かしら価値に繋がりそうなものを
得られると良いですよね。

学校では仕事に必要な「要素」
としての勉強をしています。

授業で得た知識を使って
そのまま仕事として成立するかというと
そんなことはない訳です。

そんなことは先生はもちろん知ってるでしょうし
社会に出て仕事している人にとっては当たり前です。

例えば
材料とか力学の成績が優秀で
製図の授業で良い点数を取っていたら
良い製品を設計できるでしょうか?

そんなことありえない。

そうだなぁ、例えば
ガチャガチャのカプセルみたいな
容器ひとつ設計できませんよ。
たぶん。

100円ショップの製品だって
自分で買ったら馬鹿にするかもしれないけど
設計はできない。

まして実用的なメカとか
乗りものなんて無理です。

だから授業のレベルを上げろ!
ったって多分無理。

レベルの話ではなくて
どのように本人に「入力されるか」だと思うのです。

必要な知識や技術は膨大ですし
以前にも投稿した
実践知(暗黙知)などは教科書では学べません。

外部からの入力では
すぐ限界が来るでしょう。
そりゃぁ、教える方も教わる方も。
時間的な限界もあるし。

恐らくその先の世界は
自分が執着心を持って取り組まないと
身に付かないと思います。

要は動機です。
外発的な動機(やらされる)なのか
内発的な動機(自らやる)なのか
そこが最重要で
外発的動機で
無理矢理突っ込もうとしても無理でしょう。
入りきらない。

内発的動機があるなら
自らどんどん取りに行こうとします。

本当は、そういうテーマが学校にあると良いのでしょうけど
色々としがらみがあって難しいようですね。

それに、学生に
「好きなことやっていいから、ガンガン行こうぜ!」
と言うと
恐らく半数くらいは(ヘタすると半数以上は)
「え~、めんどくせー」
と言うし
できるだけ手を抜いて楽なことをやろうとします。
もちろん、教員側も
「めんどくせー」
って言うでしょうね。

だって本当にめんどくさいもん。

なので、今現在は
授業で内発的動機を刺激して
何か面白いことをやろう!
本格的なことをやってみよう!
みたいなのは成立しないかもしれません。

多分、「授業」という形で教えることの限界は
こんなもんでしょう。

でも、そんな現状を何とかしたいんですよね。
面白くなるように。
面白くなかったら無理ですもん。

なので、最初は
「めんどくせー」
とか言われたりするんですけど
ボチボチやっていきますよ。

もっとも夢工房の活動はそういう世界じゃないので
なかなかエキサイティングです。

授業で車の作り方を教えるなんて無理です。
設計から製作、運用まで
そんなの無理。

でも、ヤツら教えなくても自分で学んで
やっちゃいますからね。

自分たちから進んで海外遠征行きたがるし。
あんなの超めんどくさいのに。

なので、「良い形」を作れれば
できることは分かってるんですよ。

まだまだ工夫が必要です。

日程のお話し

開発を進めるに当たって
情報を含めて色々なものを作るんですが
その中でもかなり重要度の高い情報
日程表の作り方をご紹介しましょう。

何かの参考になるのではないかな?
…なるかな?

今回はざっくり説明してしまいますが
これは超重要です。
レースの日程が決まっているのであれば
「やってみないと、いつになるか分からない」
のようなことはできないのです。
学生は良くやりがちですが(笑)
なので、彼らにとっては難しいことの一つです。

ここでは、夢工房の連中が
レーシングカーを作る際を例にとってみますね。

まず日程表を作ります。
日程は

  • 大日程
  • 中日程
  • 小日程

の3種類を作ります。

いずれも「箇条書き」みたいな
文字情報ではダメです。
横軸に時間軸(日にち)を取って
そこに各仕事の所要日数に応じた
棒グラフの棒のような各仕事を配置していきます。
(分かりますか?)
つまり大事なのは
時間軸に対して
どのくらいのボリュームを持った仕事が
どういうタイミングで発生するのか
相互の関係はどうなっているか
それをビジュアル的に分かるようにすることです。
エクセルなんかを使うと良いでしょうね。

最初に作るのは大日程
これはイベントベースの日程です。
レーシングカーであれば、ターゲットにするレースが
この日程のゴールになります。

そしてゴールから逆算して
輸送とか(海外大会参戦では重要)
テスト走行とか
最終組立とか
チーム全体としての設計期間とか製作期間
そしてマシンの企画の期間
そんなことを決めていきます。

こんなふうに
チームの全員共通のイベントが記されます。

学生であれば作業する時間が大幅に変わる
テスト期間
夏休みなどの長期休暇
そんな情報も入れると良いと思います。

次に中日程
これは各パート単位の日程です。

例えば
サスペンションのパートであれば
設計期間とか
製作期間とか
それらを遂行するために何か必要なことなど
そんなレベルが記されます。

最後に小日程
ここまで来ると
必要な全ての部品について網羅している必要があります。

部品単位の設計とか製作
ボルトや材料など購入品の手配とか
最小単位のレベルもここで決めておきます。

この小日程を検討する段階では
全ての部品を網羅する必要があるのですが
この時点では設計は開始されていません。

なので、最小単位の部品の詳細なんて決まっていないのです。
でも、その日程を作っておかないと計画ができません。

こりゃ矛盾ですね。
さて、ではどうするか?

この小日程を作る際には
必要な全ての部品を含む
パーツリストを作るのです。
量産バイクのパーツリストってあるでしょう。
分解図とその部品番号・名称が入ったリスト
あんなヤツです。

え?
詳細を決めていないのに
細かい部品全てを含んだリストを作るの?

作るんです。

なので、小日程とパーツリストを作る時には
パートの構成についての概略を決めておきます。

イラストを描いたりしながら
「こんな部品で構成しよう」
というプランを暫定で決めちゃいます。

そのパーツリストには
図も必要です。
それも暫定で描いちゃいましょう。

設計の途中で
部品の構成や形状が変わったら
その度に描き直すのです。

面倒かもしれませんが
そうしないと全ての部品を
漏れなく管理することはできません。

例えば
「ボルトなんて、マシンを組む時に
そこらから見付ければいいや」

なんて考えていたら
事前にマシンの重量もコストも分かりませんし
大抵うまくいかなくてカッコ悪いことになります。

なんか統一感のない部品が使われていたり
ナットを締めた端末から
ボルトのおねじが、びよーんと飛び出ていたり
そもそも部品の手配が間に合わなかったり
そんなことが起きます。

3次元CADで設計しているなら
設計が完了した際に
最終的なモデルデータから図を起こして
パーツリストをメンテナンスしておけば
完成後の管理や
後の開発にも役に立ちます。

と、こんな感じでざっくり説明してしまいましたが
一番難しいのは
各作業に要する時間の見積もりだと思います。

日程を立てる段階で
各作業のボリュームを元に組み立てていくわけですが
日程を組んでみたら
とてもこんな期間じゃ終わらない
ということが発覚したりします。

その際は
仕事のボリュームが小さくなるような変更をしたり
その期間で終わるような工夫をしたりします。

また、日程にある
それぞれの作業には
経験の無い作業も含まれているわけです。
それらに要する時間を見積もらないといけない。
これ、プロでも結構難しかったりしますので
学生ならなおさらです。
この辺は経験とか想像力がものを言いますね。

学生にとって
日程を守るのが難しいもう一つの理由が
やりながら彼らは成長している
ということです。

やっていると
どんどん分かってきて欲が出てきます。
それを盛り込んでいくと作業時間は延びていきます。
もちろん日程を守れなくなる。

その辺にどうやって折り合いを付けるか
それも成長の一つなんですね。

技術は人なり