動力の話 その3 炭鉱での仕事2

前回は、炭鉱での話を中心に、蒸気機関の登場までを紹介したわけですが、実は石炭にまつわる話には、多くの技術の進歩が絡んでいるのです。
産業革命の”走り”でもありますしね。

まずは何より燃料、つまりエネルギー源の変化です。
これ以前には、何をエネルギー源としていたかというと、木炭です。
それ以前は単に期を燃やす”薪”ですね。

この燃料の違いは、実に大きな違いを生みます。

それらの持つエネルギー量は
薪を1とすると
木炭は2で
石炭は2~2.5くらいの違いがあります。

それによってできることにも違いがあります。
発熱量が違いますから。

薪は暖房や調理程度。
木炭を使うと、鍛冶や製陶が可能になります。
石炭では蒸気機関を動かせる。

蒸気機関車が動くのは石炭のお陰でもあります。
もちろん、薪や木炭でも動くには動くでしょうが、搭載する燃料の量を考えると、薪なら2.5倍、木炭なら2倍の量を搭載することになります。
車両は大きく重いものになってしまうし、燃料の搭載も大変です。
なのでやはり石炭がベストです。

炭鉱での動力源については、まだ革新的なことがあります。
動力源と仕事をする場所が切り離されていることです。

人がものを持って移動する
つまり動力源と仕事をする部分が一体になっている状態(人間がする手仕事とはそういうものです)から
外部に置いた動力源(水車や蒸気機関)によって
坑道内に設置された装置(ポンプやウインチなど)が動く
という関係になった。

もちろん、坑道内に燃焼機関を置くわけにはいかないという事情もあります。
狭いところに大型の動力源を置けないのは当然ながら、坑道内に燃焼ガスが充満すると作業者にとって危険ですし、粉塵化した石炭に火が点くと、いわゆる粉塵爆発を起こしますので、動力源を外に置くのは必然でもありました。

そして、エアドリルとかエアハンマーとかの空動工具(エアツール)は、炭鉱での使用がきっかけとなって誕生しました。
これも重要なトピックです。
電動モーターを用いたツールでは、火花や熱による爆発の危険性がありますが、動力源とツールを切り離して、圧縮空気によって双方を接続することによってそういった危険を回避できます。
しかもツール自体も軽くなる。

というように、石炭と炭鉱での労働は
人力 ー 家畜 - 機械
といったように、動力源が大きく移り変わっていったことや、動力にまつわる様々なシステムの誕生、そして、鉄道の誕生の萌芽が見られたことなど、大変興味深いトピックがあるので、せっかく蒸気機関が出てきたのに、まだまだ蒸気機関車が登場しないのでした。

つづく

動力の話 その2 炭鉱での仕事

さてさて、家畜の次に何を使ったか?
ここで、いよいよ人工動力の誕生となります。

と行きたいところですが、その前に自然エネルギーの利用があります。
皆さんご存じの水車とか風車ですね。

そして、それらの多くはどこで用いられたのか?
それは、炭鉱です。
もちろん粉を挽いたりという用途はあったのですが、その後に繋がる発展を考えると鉱業を語るべきでしょう。

というわけで、いってみましょう。

当初、炭鉱で掘った石炭を坑道の外に運び出す際は人力。
掘っていくと水が出るので排水が必要になるのですが、それも人力でした。

初期の運搬方法は、背負ったり、ソリを使ったり。
排水はバケツや手押しポンプを使いました。
後に車輪が付いた手押し車で石炭を運び、それが木製のレールを用いた手押し台車になり、より大量に長距離の運搬が可能になりました。
摩擦を伴うソリから、車輪へ。そしてレールを用いてさらなる高効率化となったわけです。

その後、人力の代わりに馬を用いて木や鉄のレールを用いたトロッコを牽かせました。
これが後の鉄道の原型です。
馬や牛、ロバは、排水ポンプやウインチの動力源にもなりました。

これらと並行して水力が導入され、水車の力で排水ポンプや巻上機を動かしたのです。
ただしこの方法では、近くに川がある必要があるし、その水が少なすぎても多すぎても仕事になりません。

いずれの方法でもウインチやポンプが用いられ、これが機械化の始まりとなります。

その後、やっとここで人工動力の登場となります。

原始的な蒸気機関がトマス・ニューコメンによって発明され、排水ポンプとして利用されます。
この蒸気機関は、蒸気機関車のように忙しなく動くものではなく、石炭を燃料として発生させた蒸気を用いて、ゆーっくり上下運動するものでした。
つまり、石炭で水を汲み上げて石炭を掘るといったサイクルです。
これによって、採掘深度が数百メートル規模へと拡大し、産業革命の基礎となります。

蒸気機関が発明されたので、そこで蒸気機関車の登場…とはいきません。

つづく

動力の話 その1 動力源としての家畜

クルマなどの乗り物に限らず、我々の生活は様々な動力に支えられています。
これからは電気だ、だの、そうではないだのありますが、これまでの歴史を見直すことで、色々分かることもあるでしょう。

「動力」というと、一般的には我々人間以外によるものを指します。
そのの歴史をたどると、蒸気機関やモーター以前は、家畜が最も主要な“動力源”でした。
馬、牛、ロバ、ラクダなどが農業・運搬・製粉・灌漑などあらゆる場面で使われていました。

しかし、家畜という“生き物”を動力源にすることには、技術的・経済的・社会的に多くの制約と問題があり、現在ではある程度エンジンなどの”人工動力”に置き換わってきています。
今回は、その移り変わりを前提として、家畜による動力の主な問題点を挙げてみましょう。

まずは性能面です。

出力が小さい:
馬1頭の出力は1馬力です。正確には、約0.7〜1.0馬力(約0.5〜0.75 kW)ですが。
ちなみに、蒸気機関は数十〜数百馬力を容易に出せました。

持続時間が短い:
疲労・体温上昇・脱水などで長時間連続稼働ができない。

安定性が不十分:
天候や体調、機嫌などに能力が左右されたり低下したり。加えて、言うことを聞かなかったりして制御性が低い。
つまり、動力としての「安定性」「再現性」「拡張性」が欠けていたということです。

次にコスト面。

食料と水が必要:
1頭の馬で1日あたり10 kg以上の飼料と数十リットルの水を消費します。
特に都市部では飼料輸送コストが高く、維持が非効率。
労働より維持費が上回ることもあったようです。

繁殖・調教・世話が必要:
労働力として使えるまで数年かかる。人手も必要。
これもコスト要因ですね。

つまり、“燃料”が高くつき、“メンテナンス”にも人件費が必要な動力源だということです。

そして環境・衛生問題。

排泄物の問題:
大都市では馬糞・尿の処理が深刻化。
19世紀末には「馬糞危機」と呼ばれる都市衛生問題が発生。
感染症・害虫も問題になりました。
ロンドンやニューヨークでは、蒸気や電気の登場は“衛生革命”でもあったそうです。

家畜に関してはこんなところでしょうか。

人の言うことを理解できず、制御性が悪いという問題は、奴隷を使うことにより解決した面もあります。
人の言うことを理解でき、ある程度複雑な作業にも対応できますので。
一人あたりの動力は小さいですが、人数を集めることによりある程度は解決できたりもします。
今の価値観から見ると、倫理的に問題があり、残酷ではありますが、歴史上の事実であり、現在も完全に解決できたとは言い切れない問題でもあるでしょう。

というわけで、まずは初期の動力としての家畜の問題点を中心にお話ししてみました。

続く