教育にはレースが一番

今日は某トップカテゴリーで活躍する某レーシングチームでレースエンジニアをやっている卒業生が遊びに来てくれました。

レースの世界は華やかだけど、そこには日本の産業界と言わず、日本の社会に共通する諸問題があるわけで
ああ、どこも困ってることは同じなんだなぁ
と実感しました。

人材の問題とか、技術の問題とか
色々あるのだけど、膨大な諸問題を解決する鍵は教育だな、というのが共通の思い。

で、やはり問題解決にレースは最適だと思いました。
もちろん、誰に対してもというわけではありませんが。

色々理由はあるのですが、端的に言うと

カッコよくても危ないので、真剣にやらざるを得ない
色々な意味でスピードが重要
他と同じことをやっていたら勝てない(価値が無い)

と言ったあたりが主なところ。

そしてその主要な部分を達成するためにやっていれば、その価値観が人生を構成するわけで。
まあまあ面白い人生になると思いますよ。

レースやって後悔したって話は聞いた覚えが無いですしね。

ホンダ主催の講習会見学

今日はホンダ主催の、Formula SAE参加校向け講習会にお邪魔していました。
学生達とともに朝6時に大学を出て、帰ってきたのは夜の9時。
場所はモビリティリゾートもてぎ。旧ツインリンクもてぎです。

講習会は、サスペンションアライメント講座と銘打っていますが、実質的にはレーシングマシンのサスペンションを開発を前提とした、実践的な内容の講義と実技。
講師陣は、元F1マシンの開発者を含め、エキスパート揃いの豪華な布陣。
現在は皆さん現役の開発現場には籍を置いていませんが、リタイヤした後、またはそれなりの地位に就きながら、今回のように次世代の開発者となる若者達に指導されています。

で、今回は、以前お世話になった知人が講師をするということで見学に行ったのでした。
想像以上にレベルの高い、とてもためになる講習会でした。

この講習会に教材として使われていたのが、私がかつて開発に関わらせて頂いた小型レーシングカーのSide by Side。いやぁ、懐かしい。
20数年前にモーターショーでデビューした後、14台ほど生産されましたが、現在はわずか2台を残すのみだそうです。
それらが次世代の開発者を目指す若者の役に立っているのは嬉しい限り。

一通り講習会を見学して思ったのは、教育はこうあるべきだよなぁ、ということ。

大好きなレーシングカーについて、エキスパート陣から少人数に対する指導。
単に言われたことを聞いて覚えるのではなく、自発的に手を動かして頭を使ってコミュニ-ションを取って、本当に欲しいものを取りにいく感覚。

こうやって手に入れたものは、書籍やオンラインでの学びでは得られないものばかり。
ましてゴージャスな顔触れの、本当にトップクラスで活躍していた元開発者と直接対話して貴重な情報を手に入れる。
普通こんな機会はありません。学生達が羨ましい。
こうやって手に入れた知識やスキルは、一生忘れないでしょうね。

この講習、一人の教員から、数十人に対して一方的に講義して、言われたことを覚える・やる、といった、いわゆる学校の授業とは対極だなぁ、と思ったのでした。

未来のために今がある

そんなの当然なのですけどね、
今回言いたいことを、クルマを運転するときを例にとってお話ししましょう。

前職でクルマの開発をしていたとき、基本的には設計が主業務だったのですが、他にも色々やっていたので、テストドライバーのライセンスも取らせてもらえました。

当時、テストドライバーのライセンスを取るために一週間サーキットに缶詰で訓練を受けました。
その時の訓練の一つに、反応時間を見るものがありました。

これ、どんな内容かというと…
時速40kmだったか50kmだったか、そのくらいのスピードで直線路を走行して、前方の分岐路にあるシグナルが、ある地点に差し掛かったときにパッと点灯します。その点灯色によって右側か左側のコースに速やかに進路変更するというものでした。
で、そのシグナル点灯から進路変更までの時間を計測します。

こういうの、どれくらいの時間が必要だと思いますか?
反射神経だから1秒以下?

いやいや、ランプが点灯したら手を挙げる、のようなものならそんなところでしょう。
しかしこれは「見る」から「クルマが動く」までです。

そのプロセスは

  • 見る
  • 判断する
  • 操作する(ハンドルへの操舵入力)
  • 一連の部品が動作して、ホイールの向きが変わってタイヤが変形する
  • クルマが動く

という流れです。

私の訓練時の数字は1.5秒くらいでした。
まぁ、単純な直線走行でのテストですから、結構いいタイムが出ました。

さて、皆さんは普段クルマを運転しているときにどこを見ていますか?
クルマの数メートル前方ではないですか?

しかし
時速100kmでは1秒間に約28m進みます。
2秒前方は約56mです。

時速60kmなら、2秒前方は約33m

時速40kmなら、2秒前方は約22mです。

なので、車体の数メートル先で何かが起きても、視覚的に認識できるけれど、判断して危険回避するようなことは間に合いません。

一般道で車間を詰めて走っている人が結構いますが、前走車の急ブレーキのような思考不要な単純操作には対応できるでしょうが、何か予想外のことが起きて回避運動が必要になった場合は十中八九対応不可能でしょうね。

もっとも、前走車と同速度で走行しているのであれば、対処に対する余裕時間は多少長くなるとは思いますが。

サーキットを走るレーシングドライバーでもレース中での車体を含めた反応は2秒程度だそうです。
なので、レーシングドライバーは走行中に、特にコーナーでは、かなり先の方を見ています。
で、その先の方でどうありたいかを考えて、今すべき操作をするのです。

そう、タダやってるだけじゃダメなのです。
先の方でどうなっていたいのか
そのために今どうするべきなのか
それを考えて行動しましょうってことです。

ただ、どうせそんなことを考えてやってみたところで、成長過程ではうまくいかないことの方が多いはずです。
でも良いのです。
というか、それが良いのですよ。

「あのコーナーの先で、こうなっていると良いな」と操作をしたところで、ビギナーはスピンしたりコースアウトしたりするのです。
でも、その経験によって「あぁ、これをやるとこうなるのね」と引き出しが増えていって、「こうするとこうなるはずだ」と予測が付くようになるのです。

そういうのって、ネットで調べたり本を読んだりも良いのですが、すぐに限界が来ます。
だって、アドバンテージを持つためのチャレンジなら、そのための答えは人目に着くところには転がっていませんから。

「こうなったらいいなー」と、未来のありたい姿を想像しながら、そのためのことを考えて、自分でやってみるしかないのです。