EVの現状

最近、EVはちょっと行き詰まっている感が出てきましたね。

ロシアとウクライナの戦争に端を発するエネルギー問題や、そもそも構成する素材を採掘したり精製できる国が限定されていたり、そういう諸々のコストやリスクの問題があったりするわけで、なかなか一筋縄ではいかないようです。

「EVは効率が良い」と思われがちですが、火力発電で電気を得るのであれば、最終効率はエンジン車とさほど変わらなかったりするわけで。

「太陽電池なら良いじゃないか」と思っても、発電量に対してそのものを製造するためのエネルギー量が大きすぎて、効率が良いとか環境に良いとかは簡単に言い切れない側面もあるようですね。

電気は2次エネルギーなので、色々課題があるのは仕方ないことですし、全て良いことずくめのものなんて無いわけで。必ず何かしらのデメリットはあるものです。

揚げ足取りのようにデメリットを上げようとしたらキリがないのかもしれませんが、内燃機関一本槍だった情況にEVが変化をもたらしたのは間違いないわけで、クルマの使い方も含めて変化をもたらしたのは事実です。

エンジン車に対してシンプルな構造となるEVですが、国際政治的に複雑なクルマとなるとは皮肉な話ですが。

100年以上の時を経て再びマーケットの表舞台に現れたEV。
前回は恐らく最低でも15年くらいは市場で頑張ったはず。
果たしてこれからどのような展開を見せるのでしょう。

昔のEVについての過去の紹介記事はこちら

EVの話 光と影

技術的なことを考えていると、国防のネタに触れることが良くあります。
特に、車とかレースとか惑星探査機とか、そういうものならなおさらです。

国防の技術って超シリアスなので、色んな意味でレベルが高いし、アイデアが洗練されています。人の命がかかっている本気の技術なので当然です。

誤解を恐れずに言うなら、技術の世界において民生と軍事の境界線を引くなんてことは無理だと思っています。

自動車だって鉄道だって飛行機だって人工衛星だって、軍事技術から転用されたものを除いたら存在することはできないでしょう。恐らく医療などだって同様だと思います。

そもそも自動車の始まりは何かというと、フランスで考案された大砲を運ぶための機械です。

飛行機だって、ライト兄弟が飛んだ後は、各国の軍隊がこぞって飛行機を採用するという状況で技術が磨かれてきました。船舶も鉄道車両も同様でしょう。

人工衛星だってアポロ計画だって、軍事的な側面とは表裏一体です。

レーシングカーに用いられるテクノロジーや材料、要素部品、設計の考え方などなど、航空宇宙関連から落ちてきた物が多いです。信頼性が高くて高性能だから。

軍事研究が進んでいる国は、民生の技術もレベルが高かったりします。当然ですね。

しかし不思議なのは、軍事的な開発力が高くても、民生の技術レベルが大して高くない国もありますね。これはウクライナとロシアの戦争で気付きました。
トルコ製のドローンとか、イラン製のドローンとかが代表例ですが、凄くコストパフォーマンスの高い兵器を作れるのに、民生品は特に目立つものは無かったりしますよね。
これは不思議。どういうことなのでしょう。
テクノロジーの進化と共に、サプライチェーンをうまく利用すると色んな事ができちゃうようになった、ということでしょうか。

テクノロジーの世界もご多分に漏れず、光と影があります。
どう使うかは人次第で、毒にも薬にもなるのです。

速度記録界のレジェンドであるバート・マンローは、第二次大戦中に日本軍が責めてきたときのために、お手製の大砲を作ってテストをしたそうです。もちろん自宅で。
そのパッションと行動力と技術力が、彼の速度記録を支えていたのは言うまでもありません。
人の心も使い方次第です。

さて、EVの話をしましょう。

EVのパワーの源は電気です。このままEVが普及すると、ますます電気が必要になります。
残念なことに、電気は採掘で手に入れることはきません。
なので、元となるものがあって、そこからエネルギー変換で手に入れなければなりません。そういうのを二次エネルギーといいます。

日本の現状は、水力とか、輸入した化石燃料での火力発電で何とかしています。発電のための日々の燃料代は凄まじいことになっています。
今後は、太陽光発電とか風力発電とかによる発電量を増やす方向なのかもしれませんが、これらの方法を採ると膨大な電池がないとシステムとして成立しないことは盲点ではないでしょうか。
で、コスト面などを考えると海外製で何とかすることになるのでしょう。

そんなふうに考えていくと、EVを増やしてどんどん活用していこうとなれば、現時点では少ない燃料で長期間に渡って膨大な電力を得られる原発に頼るしかなくなると思います。
原発賛成とか反対とかではなく。

電気だ電池だ、とやっていくと、いわゆるレアアースとか、銅とか、そういう材料の入手も問題です。
何でもかんでも輸入品で、皆が欲しがるから品薄です。

そうなると、我々は他国に生命線を握られてしまうということになりますが、その結果どのようなことが起きる可能性があるかは、我々の先人達が経験しています。
これは難しいところですが、今や日本に限ったことでは無いでしょう。
なので、みんなもっと仲良くしたら良いのにね。

主要なエネルギーは
枯れ葉や薪から、木炭、石炭やコークス、石油、原子力
というふうに移り変わってきました。
移り変わりの次の段階を見れば、エネルギー密度が高く、きっと夢のようなエネルギーに見えたはずです。
ですが、それらは必ずメリットとデメリットを併せ持っています。

米軍は、移動可能な小型原子炉の研究をしているそうです。
これを戦地に持ち込んで、EVに統一したミリタリービークルを運用するという研究のようです。
エネルギーの一本化ができるというのと、戦地へのエネルギーの輸送が不要になるというのがメリットなのでしょうね。
まぁ、それをやったらやったでデメリットもあるわけで、そのバランスで採用の可否が決まったりするのでしょう。

ところで、既存の主力となっている発電は、全てタービン式の発電機を回して電力を得ています。水力、火力、原子力、全てです。
次の発電は核融合か?と言われていますね。
核融合で生じた高温を使って、蒸気などでタービンを回して発電するという方法になるのかもしれませんが、ちょっと面白い情報があります。

小型の核融合炉が実用化できれば飛行機が大きく変わるかもしれないという話しです。
既存の飛行機は、ジェット機もプロペラ機も、液体燃料を使っています。
いずれも燃料を燃やして、エンジンで出力軸を回すといった原理です。

どうやら核融合炉を使えば、生じた凄まじい高温によって、直接推進力を出せる可能性があるそうです。グルグル回る動力無しで。
航空機のEV化では、電池の重さがネックになってくるのですが、こうなると電気で動く動力源が不要なので、電池すら不要になります。
まぁ、今は「理論上は」という話なので、果たして実現する日が来るのかは分かりませんが。

そんなふうに、日々新しいテクノロジーが研究されています。
それらは色んなメリットを生むでしょう。けど、必ずデメリットもあります。

EVの効率が良いのであれば、そこに注力する必要はあるでしょう。
しかし、それが絶対的に良いものなのかというと、決してそうは言い切れない側面を持っています。
なので、EVのみに一極集中するというのは実は危険なことなのかもしれません。

人の考えや行いだって同様でしょう。
誰かにとっての夢でも、他の誰かにとっては悪夢かもしれません。

誰にとっても完璧で完全なものなんて無いのでしょうね。

だからといって、何もしないわけにはいきません。

ひょっとして、人類はこのようにして滅んでいく宿命なのか
と思うことすらありますが、たぶんこれは考えても仕方がないことなのかもしれません。
その時その時でベストを尽くして、結果を次に向けて転がしていく
そんな事を繰り返していくのでしょう。

もし完璧で完全になったら、それは「終焉」と呼ばれるのかもしれません。

EVの話 最速の電動バイクの話

実は、私の研究室では2011年頃に電動バイクの研究をしていました。
とは言っても、ただのバイクではなく、最高速チャレンジ用のレーシングマシンです。

アメリカのユタ州にあるボンネビル・ソルトフラッツという広大な乾塩湖で毎年夏に行われる最高速チャレンジのイベントがあります。そこに電動バイクで出場して速度記録を更新することを目標に開発を進めていました。

ちゃんと現地視察に行ってたりして

この時は、別に電動車両に未来を感じたとか、特別な思い入れがあったわけでは無いのです。
速度記録のイベントは、排気量や車体の形態ごとにクラスが分かれており、それぞれのクラスで記録を競うのですが、電動クラスは出場者が少なかったので記録を狙いやすいかな、と思ったのです。
あとは、やはりインパクトですね。「電動のマシンで世界一」なんて目立つこと間違いなし!

私は、お師匠様である佐野彰一先生の教え「最初に最高を目指すんだよ」に従って、こういうことをやる時は、どうやって一番を取るかを考えることにしてます。

でもたぶん、私はこの教えを曲解しています。佐野先生はそこまで極端なことは言っていなかったと思います。
「最初に小さいことをやっても誰も注目してくれないから、その先が続かなくなっちゃうんだよ」というようなニュアンスだったと思います。
人のせいにしちゃいけませんね。
でも、日本で最初にF1マシンを開発して一等賞になった方が仰ったのだし、単純に最高を目指した方が面白いので、そういうことにしています。
その方がワクワクするでしょう?

確か当時の電動クラスの記録は時速280kmくらいだったと思います。
で、色々検討してみたら、どうやらこれを50キロくらい上回ることは可能だぞ、世界一を獲るぞ!ということになったわけです。

速度記録のマシンに要求されるものは、簡単に言うと小さな空気抵抗と大きな馬力です。
時速300キロを優に超える領域では、空気抵抗が凄く重要です。

空気抵抗を小さくするために必要なことは、前面投影面積と呼ばれるマシンを前から見たときの面積をいかに小さくするか。それがまず一つ。
そして空気抵抗係数です。この係数はマシンの形で決まります。車体の後ろで空気が渦を巻かないかとか、そういうことです。ドラッグって呼ばれますね。
これらが基本的なところ。

エンジンで走るマシンは、空気抵抗を考える上でエンジン自体の大きさがネックになってきます。
一般的なバイクの場合、ライダーがエンジンに覆い被さるように乗るので、必然的に前面投影面積が大きくなるのです。これはもうどうしようもない。

電動車両の良いところは、まずモーターが小さいことと、バッテリーは小さなバッテリーの集合体なので、搭載時の形に自由度があるので、低く細く配置できます。
つまり、前面投影面積をかなり小さく抑えられる可能性があるぞ、と。

車体の主要部品などをどのように配置するかというのを「パッケージング」と言いますが、EVはその自由度が凄く高い。ここが最大のポイントでした。
エンジンのマシンでは不可能なレベルのパッケージングが可能なのです。

あと、こういう開発をやる場合、ただ設計して作っただけではダメで、最も重要なことの一つが完成後のテストなのですが、エンジンのマシンでは国内で十分にテストするのは難しいことは分かっていました。
そして、イベントが行われるのは標高1200mくらいで空気が薄いので、エンジンであればセッティングの変更が必要になるはずです。
ただでさえ現地に行ってからやることは多いはずで、調整作業が多いマシンでは、時間に限りがある学生達には手に負えなくなる可能性がある。
EVであれば、海抜0mでも1200mでもさほど変わらないので、国内で動力試験をした結果がそのまま現地で再現できるだろうし、むしろ空気が薄ければ空気抵抗が減るので有利になるという考えがありました。
であれば、現地で問題になる可能性があるのは操縦安定性くらいだろうから、何とかなるかもしれんな。と。
まぁ、そここそが最も難しいところだと思うのですが、問題を絞り込めるのはありがたいことです。

じゃぁ、早速デカいパワーの発生源を探そう、ということになって、必要なコンポーネントを探したら、某国製のモーターで、直径300ミリくらいで200馬力とか出ちゃうのを発見しました。

この時残念に思ったのは、日本製は無いんですよね。
実は国内のあるモーターのメーカーに連絡を取ってみたわけです。
「世界最速の電動バイクを作るので、モーターを開発してくれませんか?」
と仕様を提示してみました。
そうしたら
「そんなの無理だ。モーターの直径は2メートルくらいになる」
という返事でした。オールジャパンでいきたかったので、ちょっと残念でしたね。
まぁ、うさんくさいし、お金にならないから断っちゃえってことだったのだと思いますが。

なので、残念でしたがパワーソースのモーターは輸入することにしました。
凄いバッテリーも日本製は無かったので、これまた世界最強の某国製を選定しました。

その後、色々検討していたら、問題になってくるのはパワーだけじゃなくて、高速域での操縦安定性だぞということが分かりました。
安定しないマシンは高い速度では走れません。ライダーの技術がどうこうではないのです。
オートバイに限らず、車体の捻りとか曲げとかの剛性はバネみたいなもので、速度に応じて共振が起こります。これが高い速度域で発生しちゃうと致命的なことが起きます。突然転倒しちゃうとか。

その特性は計算で出すことができます。ですが超難易度が高いのです。
でも、ウチの学部4年生がやっちゃいました。
で、シミュレーションをしたら、これはいけるぞ!と。

3Dモデルまでできてました
クレイモデルも作ったのですけどね

ここまで色々検討した結果、EVって結構計算通りに性能を出せるんじゃないか、と分かってきました。
「やってみないと分からん」という領域がエンジンよりも少ない気がします。
とはいえ最終的には、やはりやってみないと分からんのですけどね。

マシン全体を見渡しても、技術的にできない部分は見当たりませんでした。
なので、あとはとにかく作ってみて、やってみないと分からん部分を潰し込むだけです。

ただ、他にも問題はあって…
現地でどうやって充電するかとか
車体が重いので、タイヤが負荷に耐えるだろうかとか
モーターもバッテリーもお金がかかりすぎるとか

そんな難問も協力者が現れたりして、一つずつ解決していったところで、東日本大震災が起きたのです。

当然ですが、マシンを作るどころではなくなり、計画は中止となりました。
この時の学生達は、さぞ大変だったと思います。
メンタル面の負荷は、コロナ禍の比ではなかったでしょう。

でもこれは、とても良い経験になりました。
学生でもやればできるという見通しが立ったし。

…でも、まだ完全に終わったとは思ってなかったりして。