「良い」って何?

ありがちな話なのだけど…

ものをつくるには企画が必要です。
レーシングカーを作るのであれば
どうやって勝つのか
ということになるのですが。

そのための戦略を考えるのが企画です。

マシンの設計を始めるということは
どうやって勝つのか
という戦略が決定された後
ということになります。

というのも
設計をするということは
勝つための方法を実現するための
具体的な手段を決定していく
ということだからです。

マシンを構成する部品は
戦略実現のための手段を形にしたものです。

設計段階においては
「何のために」
が明確化されていないと
何のためかよく分からない部品になります。

単品ではイケていても
マシンのコンセプトに合致していなければ意味がありません。

なので
「まず設計してみようか」
なんてことはあり得ません。

また、一般的に言われる
「良い部品」
を寄せ集めても
良いマシンにはなりません。

なぜかというと
その「良い」が
マシンの戦略やコンセプトに合致しているのか
というのが問題で
コンセプトと異なる方向の「良い」では
マシンにとっての「良い」では無いからです。

たぶん、この辺はビギナーにとっては
理解しにくいところではないかな。

自動車マニアな新入生なんかも
こういうところでハマります。

ヘタに色々知っていると
一般的に「良い」と言われるものも知っていて
そういうものを使えば「良いマシン」になる
と思いがちだから。

これ、人間も同様で
「あいつは頭いい」
とか言うけど
「何のために?」
が明確化されていなければ
あまり意味は無いのではないかな。

と、そんなことを
久々に行ったバイク用品屋さんで
ハイクオリティな部品を眺めながら思っていました。

夢工房の「恩送り」

やることなすことなんでもかんでも全力で
というのはさすがに無理ですが

自分が「やるべきことだ」
と思ったことに対しては全力でやって欲しいものです。

では、どこまでやるのか?

例えば
夢工房でレーシングカーを作っているような連中はどうすべきなのか

こういう活動をしている時に
真っ先に問題になってくるのは
資金面ではないでしょうか。
クルマを作ってレースをするのですから
お金がかかります。

夢工房の活動は
大学からの支援や研究室の研究費などを活用していますが
それだけでは海外遠征は不可能です。
ひょっとしたら
マシンを作ることすらままならないかもしれません。

現状の手持ちのリソースだけでは
海外大会に出たいという
彼らの夢は叶わないので
「じゃ、できる範囲で…」
ということにすると
この活動は、途端にチャレンジではなくなってきます。

できる範囲でやることを
チャレンジとは言いません。

未来をつくっていく人間は
チャレンジャーでなければいけません。

チャレンジしなければ
現状維持しているつもりでも
徐々に降下していきます。

そこで彼らはスポンサーを探して
協力をお願いしています。

自分の財布で何とかできないのに無責任?

そういう考え方もあるかもしれませんが
スポンサーから支援して頂くということは
相応の責任が伴うので
簡単に諦められないということです。

「やる」
と約束して支援してもらっているので
やらなければ約束を破ることになります。
だから、何が何でもやらなければならない。
(という状況で、このコロナ禍は正直キツいです)

これは、授業で「単位を落とすからやらなければ」
なんていう状況とは比べようがありません。
パーソナルな問題ではないので
責任の大きさも次元も違いすぎます。

授業やら何やらというのは
パーソナルな問題なので、最低限でもいいのです。
文句を言うのは親と先生くらいです。
(注:かといって、卒業できないなどは論外です。
早く世のお役に立つ必要があるのですから)

でも、こういったやりかたで活動をしていると
最低限では誰も力を貸してくれません。
最大限やるところに価値があって
そこに責任が伴うのですから
好きなことを全力でやることになるわけです。

では、スポンサーをはじめとした
支援者には何をお返しできるのか。

良い成績を上げて喜んでもらえたら最高です。
しかし、直接的にお返しできるものは何も無いかもしれません。

しかし、支援してもらった彼らの持つ責任が消えるわけではありません。
彼らは卒業後、その恩に報いるべく
良い仕事をして世の中を回していく使命を持っているのです。

というか、こんなことを毎日全力でやっていれば
そりゃぁ仕事ができるようにもなってしまいます。

受けた恩は返すのではなく
将来活躍することによって
世のために、次世代のためにと送っていく。
こういうのを「恩送り」というのですね。

ぶっちゃけると

今日はぶっちゃけます。

Formula SAEという
世界中の学生がレーシングカーを作って競い合う
そんなイベントに
20年あまり参加してきて分かったこと

…の一部を記憶から引っ張り出して
今日のネタにしてみましょう。

アジア勢をはじめとする
いわゆる発展途上国など
新興勢力のパワーは
何となく
ではなく
かなり理解しました。

というか
だいぶ前から理解していました。

中語、韓国をはじめ
台湾、タイ、インド、パキスタン、イラン
色んなチームを見ました。

彼らに遭遇した場所は
アメリカとオーストラリア
が中心ですが。

みんな凄いパッションです。

あの連中が社会に出て
良い仕事をするのは当然でしょうね。

一概には言えないとは思いますが
彼らは日本人以上に
こういう活動で海外大会に出るのは大変だと思うのです。

でも頑張ってます。

でも、マシンの性能や品質はどうなんだ?

自動車大国、日本の学生に敵うわけないだろ!
とお思いですか?

それは一概には言いにくいところです。
チームによって色々ですからね。

レベルはピンキリですが
でも、日本が圧倒的に優れている
とは言えないのが現実です。

新興勢力のチームは
何かしら強みを持っていたりします。

あくまでも欧米の大会で見かけた内容を
ベースとしたお話しですが…

約20年前
すでに日本のチームは
韓国のレベルに追いついていませんでした。

今や中国や台湾、タイなどのチームは
外観の品質で言うなら
日本よりレベルは上だと思います。

インドのチームなんかは
以前は、ひどいありさまでしたが
今やカーボンファイバーのホイールを作ったりしてますし

パキスタンなどは
品質こそ低いですが
モノコックのボディにトライしたりしています。

イランなんかは
まともな遠征計画もないのに
何が何でも、とにかく現地行く
で、やれるだけやる。

オーストラリアを含めた欧米はどうかというと
日本のチームよりよほど繊細で
高品質な部品を作ってくるし
戦略面で強いし、スキルレベルも高い。
これはずっと前から当たり前のこと。

日本人は繊細で器用?
そんなことは無い。

じゃぁ、日本人の強みは無いのか?

正直、思い当たりません。

自分達が普通にやっていることは意識できないし
自分達にとって当たり前だと思っていることは見えない
そんなことが思い当たらない理由なのかもしれません。

なので、外から見たら
何かしら良いところがあるのかもしれません。

日本人だって頑張ってはいます。
真面目にやっています。

でも、諸外国勢のパッションをベースとした
チャレンジ精神には到底敵わない
というのが現状です。

日本人、チャレンジできていません。
夢が炸裂していないのです。

Formula SAEは一例です。
私が知っている世界なので
例に挙げやすかっただけです。

でも、たぶんマクロ的に見ても
そういうことになっているのだと思います。

別にここで泣きを入れたいわけでも
言い訳をしたいわけでもありません。

生意気なようですが言わせてもらいます。

日本の企業の給料は
1980年代から下がり続けているそうですね。

たぶん、新興勢力を甘く見ていたのではないでしょうか。
自分達はイケてるから
このまま行けば大丈夫だ
と思っていたのではないでしょうか。

言い方が悪いけど
「あいつらに、こんなレベルの高いことできるわけないだろう」
と思っていたのではないでしょうか。

企業活動はもちろん
学校だって
「レベル高いから大丈夫だよ」
といって
同じやり方を続けてきたのが
原因の一つのような気がするのです。

もちろん、皆がバラバラと違うことをやっていったら
収拾が付かなくてカオス状態になるでしょうから
何でもかんでも変わっていれば良いのかというと
そういうことはないでしょうけれど。

継続すべきこと
変えるべきではないこと
守るべきこと
というのはあるでしょうが

多くが守りすぎで
やり方が単一的すぎた
そんなことはないでしょうか。

周囲が徐々にでも上昇しているなら
水平飛行している者は
相対的には下降しています。

世界はパイ取り合戦なので
周りがいっぱい取っちゃうと
自分の取り分は無くなるのです。

1980年代から比べれば
みーんな塾に行って勉強するようになって
大学の進学率も上がってるし
大学院にもたくさん行くようになった。

でも何で給料下がっちゃうの?

いっぱい勉強すれば
素晴らしい製品が作れるようになって
それが売れに売れて
ハッピーになるはずじゃなかったの?

今は何が致命的かって…

チャレンジできないのですよ。

真面目にはやっています。
怒られるようなことは極力しないから
大した問題は起きません。

でも

欲しいものを
デカイ声で
「何が何でも欲しいんだ!」
って言えないんですよ。

そんなんで面白いのか?
と言いたい。

リスク取って頑張っていれば
失敗して落ち込むこともあるし
思いがけず人様に迷惑を掛けてしまうこともあるかもしれません。

でも、そんなのは成長過程においては仕方ないことで
後になって、何倍にも価値を増幅して
リカバリーしたり恩を返せば良いと思います。

何度も同じようなことを言っていますが
この状態は
私を含む年長者のせいです。

この環境を作ったのは我々だから。

でももちろん
本人にも頑張ってもらわなければなりません。

現状の延長で行くのが嫌ならば
皆でこの状況を何とかする必要があります。

こんなこと
偉そうに口で言っていても
多分なにも変わりません。

なので夢工房で
できる限りやるしかない。

頑張っても、全体に対する影響は
ほんの微々たるものかもしれないし
そもそもうまくいかないことも多いかもしれないけど
それでもやってみよう。

学生達には全力でトライしてもらって
「おお!俺は生きてるぞ!」
という感覚を味わって欲しいのです。