狭くて深いか広くて浅いか

大学で学ぶと専門性が高められます。
そのために学んでいます。

工科系の大学ならもちろん
工学系の勉強をするわけですが
どんどん専門性を高めていくと
それはすなわち領域が狭くなる
ということです。

その代わり
より深掘りしていくことになります。

ただ、物事の本質は
分野が違ってもそれほど変わらない
という言い方もありますので
あまり問題にはならなかったりすることもあるでしょうね。
その辺は本人の考え方にも大きく左右されると思います。

さて
では、夢工房の学生はどうかというと

クルマ作ったり惑星探査機作ったりしていて
チームで動いているのですが
そんなに大人数でやっているわけではないので
各人が部品1個作れば良いなんてことはなくて
色々やることになります。

最低でも、1つのシステムの面倒を見る必要があります。
例えばサスペンションとか駆動系とか
エンジンなんかもそうですね。

もちろん、それらのシステムが取り付く相手もあるわけで
結構広範囲に色々やる必要があります。

もちろん、自分で企画して設計して
自分で作って組み立てて
場合によっては自分で運転する。

その他にも
広報や会計なんかもやります。

なので、学生一人の担当領域が広くて
ことによっては、クルマ1台のほとんど全てを把握する
ということになります。

もちろん一つのゴールに向かって開発をするので
チームワークなどは基本中の基本です。
(ただし仲良しクラブでは絶対にダメですが)

こういうのって
普通の授業では経験できません。

そんなことをやる時間も場所も無いですし
なにより非常に面倒だからです。
やる方も、面倒を見る方もです。

ただ、このやり方は大変重要です。

なぜかというと
テクノロジーの進歩と共に
専門領域はどんどん深化していくので
そのための教育も領域を狭めて深化していくからです。

それはもちろん必要かつ重要なことなのですが
世の中みんながディープな専門化になっちゃったら
一体誰がまとめるんですか?
ということになります。

クルマに限らず製品設計など多くは
専門性を要求される部品の集合体です。

勘違いしてはいけないのは
良い部品を集めて組み立てれば
良い製品になるわけではない
ということです。
これは話しが長くなるので
気が向いたら改めてお話ししましょう。

さて、多くの製品は色んな部品の集合体なので
それをまとめる人は
一通り全部知っている必要があります。
ただ、それぞれの専門領域において
それぞれの担当レベルに知っている必要があるかというと
決してそんなことはありません。
そりゃぁ、高いレベルの知識があれば
それに越したことはないでしょうけど
各担当者に要求レベルを求めることができる程度の
知識と経験は要るでしょうね。
(「知識」だけじゃなく「経験」がより大事です)

もちろん戦略的に考えて
何のためにどうする?
というのをマシン全体で
ことによっては、チームや参加するイベント全体
というレベルで判断することも必要になります。

一般的な大学での教育では
専門性を高めていくと
領域が狭くなっていくわけですが
その方向に行くと
システムとしてまとめる
という経験はあまりできませんし
戦略的に考えてものごとを進める
という経験もしかりです。
専門家なので当たり前です。

もちろんそういう人達は必要なのですが
それをまとめる人達も必要です。
でも、そのための教育は授業の中には無いのです。

なので、クルマや惑星探査機をチームで作っている学生達は
とても重要な存在なのです。

若い人をもっとハッピーにするには

どうしたら今の若い世代をハッピーにできるか
これは教育を商売にしているなら
重要な課題です。

本人が満たされたり
ってのは重要だと思うんですが
そうは言っても
どうすると満たされるのだ?
満たされるってどういうことだ?
そういうところが難しい。

例えば
何かにチャレンジして
「できた!」
という感覚は大事だと思うんですよ。

でも、それで良いのか?それだけで良いのか?
ってところです。

学生に「できた!」という感覚を与えるのって
それだけならそんなに難しいことじゃないと思うのです。

だって、色々教えちゃえば良いから。
ああしろこうしろ
って。

でもね、そんなの社会に出たら
一瞬で化けの皮を剥がされますよ。
その時に本人は
一体何が起きたのか分からないでしょうね。

学校ではOKだったのに
何でダメなんだ?
何でできないんだ?
となるでしょう。

なので、そんなやり方はダメ。

結局は本人のためにならないし
何より世の中のためにならない。

そうそう!ここですよ。
世の中のためになる
ってところがポイントです。

自分は自分以外の何かの役に立っている
という感覚です。

そういうのを得るための下準備を
学生のうちにしておけると良いと思います。

勝手にやって
勝手にできて
勝手に喜んでる
そんなの自己満足にすぎなくて
趣味なら良いですが
趣味の領域を出たら
そんなやり方は続かないでしょう。

何かにチャレンジして
サポートしてくれている皆さんに喜んでもらうとか
そういう経験をできると良いと思います。

ボランティアとか
職人さんの仕事とか
そういうのって
成果を受け取る人が近いのです。
なので、役に立っている実感を得やすいと思います。

対して
エンジニアって
凄い仕事をしてるんだ
とか
でっかい仕事をしてるぞ
という感覚は得られるかもしれませんが
お客さんとの距離が遠くて顔が見えなかったりします。

なので
売り上げとかの数字を通じて
などで仕事の成果を見るしかなかったりします。

でも、本当は
仕事の成果を受け取ってくれる人がいて
そのために仕事をするわけで
喜んでくれる人の顔が見えれば
もっと頑張れたりするのではないかな。

そういう意味でもアレかな
最近、開発者がメディアに露出して
色々解説したりしているのは
開発側にとっても良いことなのかもしれませんね。

メディアが間に挟まってはいるけど
お客さんに一歩近づいている感じがしますものね。
相手からの反応は見えないけど。

とはいえ
じゃぁ、開発者は孤独な仕事中というと
決してそんなことはなくて
一緒に頑張っている仲間の顔は見えるわけです。

私なんかは
一緒に設計している人達とか
試作の人とか
テストドライバーとか
部品を作ってくれるメーカーさんとか
そういう人達が喜んでくれるのは
凄く励みになりましたね。

なので
やるからには
皆で喜べる仕事の成果が欲しいですよね。

ずいぶんと長くなりましたが
結局、自分がハッピーになるキーワードって
周囲をハッピーにすることだと思うのです。

誰の役にも立たない技術なんて
自分をはじめ、誰もハッピーにできないですものね。

技術は人なり

ハングリーになれと言っても無理ですよ

チャレンジして失敗しても
現状がダメで満足いかなくても
それはそれで良いと思うのです。

今この瞬間がダメでも
別に人生がそのまま終わっちゃうわけではない

大事なのは
じゃ、どうすんの?
ということなんですよね。

でも恐らく
失敗したり
現状がダメだったりすると
もうそれで「ダメ」が確定しちゃうような
そんな風潮が強いんじゃないか
そんな風に思います。

夢工房では
学生が色々ものを作るわけですけど
もちろんダメなものなんて
いくらでもできちゃうわけですよ。

だって経験が不十分な学生が作るんだから
当然でしょう?

大事なのは
その先どうしたいのか
ゴールはどこにあるのか
なわけで

ダメなものを作っちゃっても
何がダメなのか
なぜダメなのか
が理解できれば
どうしたらいいのか
を考えるスタート地点ができるわけです。

むしろダメなものを作るからこそ
大事なことが分かるわけで
作らなかったらわかりませんよね
そういうこと。

もしダメなものを作っても
その評価を受けたくない
なんてことになると
未来に向けてのスタート地点は無いままになります。

これ、ありがちな話しです。

というのも
ダメって言われたくない

これが
いいものを作りたい
という気持ちと拮抗していて
前者が勝っちゃうことって多いのです。
むしろそういうケースの方が多いかもしれません。

結果として
自分達の現状をオープンにせずに
現状のレベルを保ったまま
閉じた世界でグルグルしちゃう。

で、これを何とかするにはどうするか?

これ、結構難しいのです。

何せ相手の心の問題だから。

相手の心に手を突っ込んで改造するなんてできませんよ。
つまり
「ああしろ!こうしろ!」
って言ったら
一時的には言われたようにやろうとするかもしれませんが
それは別に自分が必要性を感じているわけではないので
基本的には解決しません。
本質は変わらないので
また元に戻ります。大抵は。

むしろ
言えば言うほど
マズイ方向に向かう可能性すらあります。

こういうのって
完璧なソリューションなんて無いと思うのですが
夢工房での学生の活動は
基本的にコンペティションへのチャレンジなので
遅かれ早かれ
「これじゃ勝てない」
という壁にぶつかります。

で、どうしても勝ちたいなら
何とかしようとするでしょう。

で、現状の自分達の
持っているもの
見えているもの
ではどうにもならん
ということに気付きます。

そうしたら
プロにでも先生にでも聞けば良いのだ
評価を受ければ何がダメか分かるのだ
ということに気付くでしょう。

そんな風に思えるようになれば
ひとまず安心。

自発的にグイグイ行けます。

ということは
日頃私は
「あぁ、こりゃダメかもなぁ」
と思うことも結構黙って見てる
ということになります。

もちろん安全に関することなどは
積極的に助言しますが。

これ、結構キツいことです。
分かっているけど
言わないとか
手を出さないとかね。

その結果
彼らは失敗という壁にぶつかって
それを乗り越える
というミッションに直面するわけです。

当然ながら
そういう時のアドバイスが一番効果的です。
ハングリーな状態で
自らそれを欲しているわけですから。

腹減ってない者に
「ハングリーになれ!」
とか、無茶言ってんじゃないよ
という話しなのです。