動力の話 その4 動力の切り離しの話

そもそも何かしら動力機関(蒸気機関とかエンジンとか電動モーターとか)を利用しはじめた頃、動力機関はいずれも大きくて、今みたいに仕事をする機械それぞれに内蔵されているわけではなかったりしました。

想像付きますか?

例えば、工場があって、その建屋の中に複数の工作機械があるわけですが、それらの機械には動力部が無いのです。
この写真は、佐渡金山の工場にある旋盤(材料をグルグル回して削る機械)ですが、モーターは搭載されていません。
代わりに機械の左側に上から降りてきたベルトの動力を受けるプーリーがあります。
このベルトによって駆動されるのです。

で、そのベルトは下の写真のように、天井付近に通された軸に取り付けられたプーリーに掛けられています。
写真では見にくいですが。

そのプーリーから、ちょっと離れた軸のプーリーにベルトが掛けられていて、それらの軸が常にグルグル回ってるのです。
そんな風に軸とプーリーを使って、それぞれの機械のために動力を分配しています。
機械の上には、それぞれの機械のためのプーリーがあるということです。

で、その軸は最終的にどこに繋がっているかというと…
写真が無くて恐縮ですが、工場の外の小屋の中に設置された動力源に繋がっているのです。
まさにエンジンルームですね。
要は、大きなエンジンで

その動力源は、時代によって蒸気機関だったり、ガスエンジンだったり、ディーゼルエンジンだったり。

今ならそれぞれの機械に電動モーターが組み込まれていますので、動力は機械の内部で発生させることができます。
そうすれば、電線を分岐させることで力の源を分けることができるので、軸とプーリーなんていう大げさで不便なものを使う必要はありません。

が!
その電力はどこから来ているかというと、大抵は遠くの発電所です。
その発電所は、もっと遠くにある油田やガス田から取り出した化石燃料で動いている。
まさに長大なサプライチェーンです。

とまぁ、こんな風に、エネルギーの源と、動力源と、仕事をする部分を切り離すというのは結構昔からやっていて、姿形を変えながらも、今も似たような事をやっているわけです。
皆さんの手元にある電化製品だって、EVだって同じです。

そもそも動力源が発明された当初は、機械の効率が低いわけで、小さな動力源を作ったところでまともに動かないわけです。
なので、必然的にデカイ動力源をつくるわけですが、ドデカイ動力源に、直接仕事のための機械を取り付けるというのは現実的ではなくて、回転軸やら何やらで動力を引っ張り出して、延長して、分岐して、その先で何かやろう、みたいなことになるのでしょうね。
伝える方法は、回転軸だったり、圧縮空気だったり、油だったり、電気だったり…
で、そんなことをやっていたら、今みたいに長い長いサプライチェーンができあがった、ということなのでしょうね。

つづく

動力の話 その3 炭鉱での仕事2

前回は、炭鉱での話を中心に、蒸気機関の登場までを紹介したわけですが、実は石炭にまつわる話には、多くの技術の進歩が絡んでいるのです。
産業革命の”走り”でもありますしね。

まずは何より燃料、つまりエネルギー源の変化です。
これ以前には、何をエネルギー源としていたかというと、木炭です。
それ以前は単に期を燃やす”薪”ですね。

この燃料の違いは、実に大きな違いを生みます。

それらの持つエネルギー量は
薪を1とすると
木炭は2で
石炭は2~2.5くらいの違いがあります。

それによってできることにも違いがあります。
発熱量が違いますから。

薪は暖房や調理程度。
木炭を使うと、鍛冶や製陶が可能になります。
石炭では蒸気機関を動かせる。

蒸気機関車が動くのは石炭のお陰でもあります。
もちろん、薪や木炭でも動くには動くでしょうが、搭載する燃料の量を考えると、薪なら2.5倍、木炭なら2倍の量を搭載することになります。
車両は大きく重いものになってしまうし、燃料の搭載も大変です。
なのでやはり石炭がベストです。

炭鉱での動力源については、まだ革新的なことがあります。
動力源と仕事をする場所が切り離されていることです。

人がものを持って移動する
つまり動力源と仕事をする部分が一体になっている状態(人間がする手仕事とはそういうものです)から
外部に置いた動力源(水車や蒸気機関)によって
坑道内に設置された装置(ポンプやウインチなど)が動く
という関係になった。

もちろん、坑道内に燃焼機関を置くわけにはいかないという事情もあります。
狭いところに大型の動力源を置けないのは当然ながら、坑道内に燃焼ガスが充満すると作業者にとって危険ですし、粉塵化した石炭に火が点くと、いわゆる粉塵爆発を起こしますので、動力源を外に置くのは必然でもありました。

そして、エアドリルとかエアハンマーとかの空動工具(エアツール)は、炭鉱での使用がきっかけとなって誕生しました。
これも重要なトピックです。
電動モーターを用いたツールでは、火花や熱による爆発の危険性がありますが、動力源とツールを切り離して、圧縮空気によって双方を接続することによってそういった危険を回避できます。
しかもツール自体も軽くなる。

というように、石炭と炭鉱での労働は
人力 ー 家畜 - 機械
といったように、動力源が大きく移り変わっていったことや、動力にまつわる様々なシステムの誕生、そして、鉄道の誕生の萌芽が見られたことなど、大変興味深いトピックがあるので、せっかく蒸気機関が出てきたのに、まだまだ蒸気機関車が登場しないのでした。

つづく

動力の話 その2 炭鉱での仕事

さてさて、家畜の次に何を使ったか?
ここで、いよいよ人工動力の誕生となります。

と行きたいところですが、その前に自然エネルギーの利用があります。
皆さんご存じの水車とか風車ですね。

そして、それらの多くはどこで用いられたのか?
それは、炭鉱です。
もちろん粉を挽いたりという用途はあったのですが、その後に繋がる発展を考えると鉱業を語るべきでしょう。

というわけで、いってみましょう。

当初、炭鉱で掘った石炭を坑道の外に運び出す際は人力。
掘っていくと水が出るので排水が必要になるのですが、それも人力でした。

初期の運搬方法は、背負ったり、ソリを使ったり。
排水はバケツや手押しポンプを使いました。
後に車輪が付いた手押し車で石炭を運び、それが木製のレールを用いた手押し台車になり、より大量に長距離の運搬が可能になりました。
摩擦を伴うソリから、車輪へ。そしてレールを用いてさらなる高効率化となったわけです。

その後、人力の代わりに馬を用いて木や鉄のレールを用いたトロッコを牽かせました。
これが後の鉄道の原型です。
馬や牛、ロバは、排水ポンプやウインチの動力源にもなりました。

これらと並行して水力が導入され、水車の力で排水ポンプや巻上機を動かしたのです。
ただしこの方法では、近くに川がある必要があるし、その水が少なすぎても多すぎても仕事になりません。

いずれの方法でもウインチやポンプが用いられ、これが機械化の始まりとなります。

その後、やっとここで人工動力の登場となります。

原始的な蒸気機関がトマス・ニューコメンによって発明され、排水ポンプとして利用されます。
この蒸気機関は、蒸気機関車のように忙しなく動くものではなく、石炭を燃料として発生させた蒸気を用いて、ゆーっくり上下運動するものでした。
つまり、石炭で水を汲み上げて石炭を掘るといったサイクルです。
これによって、採掘深度が数百メートル規模へと拡大し、産業革命の基礎となります。

蒸気機関が発明されたので、そこで蒸気機関車の登場…とはいきません。

つづく