トップエンドでいこう

コロナウイルスが再び猛威を振るい出しました。
皆さんお気を付けください。

でも
くれぐれも心配しすぎて
ネガティブな心にとらわれないでくださいね。

かといって
コロナなんて恐れる必要ないから
普段通りガンガンいけ!
なんて言うつもりはありません。
ちゃんと感染予防はしましょうね。

さてさて
今回は
どのように未来に向かっていくか
というお話をしましょう。

教員やって20年くらいになりますので
学生を見て
「あぁ、こいつはうまくいくな」
という勘はずいぶん磨かれてきました。

学生を見ていて
彼らから学ぶことって
凄くいっぱいあります。
教員は教えるのが仕事ですが
実は
学生から多くのことを教えてもらっている
と思ってます。

ほんの一例ですが
一人の学生の例をお話しましょう。

ずいぶん前に
私の研究室から巣立っていった男の話です。
そいつは今、MotoGPマシンの設計者です。
どこのチームに所属しているとか
具体的に何をやっているとか
すべて機密事項なので
そういったことは一切記しませんが。

当大学では
4年生から研究室に所属するのですが
そいつは3年生の春に私のところに相談に来ました。

「雑誌主催の最高速を競うイベントに出たいんです。
速いバイクを作るにはどうしたらいいですか?」
というのがそのときの彼の質問。

確か125ccくらいの小排気量のバイクを改造したい
という話だったと思います。

まぁ相手が3年生で
ボチボチ就職とかも考えた方が良さそうな時期ですから
聞いてみました。

「そんな小さいバイクの改造くらいでいいの?
本当は何やりたいの?
どれくらい速いバイク作ってみたいの?」

今にして思えば
正しい教員の返答は
「そんなこと言ってないで勉強しろ」
とか
「就職のこと考えろ」
とかなんでしょうけど。
残念ながら私はそういう思考回路を持っていません。

彼は
「本当は世界一速いバイクを作りたい」
と言いました。

正しい教員の答えは
「そんなのできるはずないだろ」
とか
「そんなこと言ってないで勉強しろ」
とか
「就職のこと考えろ」
なのかもしれませんが
残念ながら私はそういう思考回路を持っていません。
本当に残念なことです。

正しい答えを言えない私は
「ふーん。じゃ、世界一速いマシンを見に行く必要があるね」
と言って
アメリカのユタ州にある
ボンネビル・ソルトフラッツという広大な乾塩湖で開催される
最高速競技を見に行けと言ってしまいました。
映画なんかでも有名ですね。
私も一度見に行きました。
凄いイベントです。

そのとき彼には
本気で行く気があるなら
どうやって現地に行ったら良いかなど
具体的なアドバイスをする
と言う話をして分かれました。

私が行ったのは2009年です

そしたら後日来ましたよ。
なので
どんな飛行機に乗って
どこに行けば良いかとか
具体的な話になりました。

その流れで
「ところで英語は大丈夫なんかね?」
と聞いてみたら
「全然ダメっす」

「お金はどうすんの?
イベント中の近所の宿は3倍レートになってるから高いよ」
と言ったら
「金は全然無いのでこれからバイトして貯めます」

そりゃもう当然
「お前、そんなんで大丈夫かよ。
行くだけ行っても
宿に泊まれないんじゃ野宿?
金なかったら飯も食えないじゃん。
そもそも英語全然ダメってどうすんだよ」
と言う話になりますよね。
そしたらヤツは熱く語りました。

「先生、そんなこと心配しても何の解決にもならないんですよ。
風呂入れなくて臭くなっちゃうとか
メシ食えなかったらどうしようとか
そんなこと死ぬほど悩んでも何も解決しないんです。

問題は、どうしたらトップチームのリーダーに
俺を必要としてもらえるかなんです。
それができたら、そもそもそんなレベルの低い心配しなくていいんですよ」

なんと
こいつは最速チームのリーダーに面倒を見てもらうつもりなのでした。

アメリカにはジェット戦闘機の翼を外したようなマシンで
音速を狙ってるチームがあります。
そのマシンはボンネビルのイベントを走るわけではないのですが
マシンのオーナーが持っているチームは参加するので
そのチームに入れてもらうと。

こりゃ参りました。

何が参ったかって
大層大胆なことを考えているのは
参っちゃうっちゃぁ参っちゃうのですが

最上位の
トップエンドのゴールを設定したら
そもそも
最悪の
ボトムエンドの心配なんかしなくていいのだ
という理論ですよ。

これは凄いですよ。
まさにその通り!

そいつはその後どうしたか

高所恐怖症なのに一人飛行機に乗って渡米し

ホームレスのたむろするストリートを抜けて
キャンプ場にたどり着き
(ソルトレイクシティの空港は、徒歩で出られない構造なので
途中でおまわりさんに捕まったりしながら)

金がないので友達になったドイツ人のキャンパー一家に飯を食わせてもらい
(ご主人はF1マシンのメカニックだったそうな)

SNSで連絡を取ったトップチームのオーナーご本人に車で迎えに来てもらい
チームに入れてもらって
1週間チームクルーとして働きました。

最初は
言葉もできない外国人なので
全く信用されずに
荷物運びだったそうです。

でも最後には
マシン停止用のパラシュートを畳む
という役割をもらったそうです。
(パラシュートを畳むということは
ドライバーの命を預かるということなので
かなり重要な役割)

私が行ったときの写真なので、この話に出てくるマシンではありませんが
こんな風に後端の円筒形の部分にパラシュートが入っています

それで終わりかと思いきや

その後に開催された
バイク専門の最高速イベントにも
チームを紹介してもらってクルーとして参加

結局
1ヶ月半ほどアメリカにいました。
キャンプしたり
チームクルーのアパートに泊まったりして。

彼は高校生の時はラグビーしかしていなかったので
脳ミソが筋肉でできているような男でしたが
その後は私の研究室で
複雑なバイクの運動解析なんかをやってました。

結局、卒業前に
色々な意味で
世界一速いバイクを作るにはどうしたら良いか
という答えを手に入れたというお話です。

そんなの誰でもできることじゃないだろって?

いやいや、それ決めるの自分でしょ。

おまけ

スタート地点
右端のお方は、私のお師匠様 1960年代のホンダF1マシンの設計者 佐野彰一先生
ヤマハのRZ(現地ではRDですね)も走る
ホンダのZ? ライフ? オーナーは「解体屋で拾ってきた」と言ってました

雨のレースから学ぶ

以前、雨のレースが好きだというお話をさせてもらいました。
比較的、雨のレースでは成績を出せていたのです。
まぁ、得意ということですね。

それはなぜでしょう?

一つの理由として
オフロードレースのキャリアが長かったので
タイヤが滑ることに対する恐怖感が
そもそも少ないというのはあると思います。

とはいえ
タイヤが2個しかないバイクで
それなりのスピードでサーキットを走るのだから
滑りやすい雨のレースはリスクが高くなるわけです。
1回でもコケたらレースは終わりですしね。
濡れて寒くて不快だし。

レースは乗るマシンと
それをコントロールする人間のパフォーマンス
両方の結果が現れます。

雨のレースだと路面に伝達できるパワーの限界が低くなるので
乗る側のパフォーマンスがより重要になってきます。
肉体的なパフォーマンスとライディングスキル
この2つはいかんともしがたいのですが
精神的なパフォーマンスが結構効いてきます。

なぜかというと
人が発揮するパフォーマンスの根源に
精神的なパフォーマンスがあるからです。

式にすると
結果=マシンのパフォーマンス+(肉体的なパフォーマンス+ライディングスキル)×精神的なパフォーマンス
といった感じでしょうか。

精神的なパフォーマンスが低いと
肉体的なパフォーマンスも
ライディングスキルも発揮できなくなってしまう
というところがポイントです。

これをどうしたら良いか

簡単に言うと
別に雨を嫌う必要ないじゃん
ということです。

雨のレースは
雨が降っているのを見たときの
最初の印象で決まってしまう気がします。

「雨か、嫌だなぁ」
多くはそう思うでしょう。
当然のように。

でも
「嫌だなぁ」
という精神状態で
ベストなパフォーマンスが発揮できるでしょうか?

できないということは皆知っているでしょうけど
それも仕方ない
と思っていますよね。
いや、無意識だから
思ってもいないかもしれません。
「仕方ない」と自動的に受けれ入れてしまっている
と言ったほうがいいかもしれませんね。

そう
多くは「無意識」で「受け入れて」しまっているのです。

なので
雨によるパフォーマンスの低下をどうにもできない。
なんせ
すでに無意識で受け入れてしまっているのですから。
コントロールしたい対象が
自分の手の届かない
無意識の領域に行ってしまっているのです。

この解決方法はただ一つ
そもそも雨が嫌いではなくなることです。

雨の練習を増やすのはもちろん効果的ですが
勘違いでもいいので
「雨が好きだ」
と思い込むことです。

今まで無意識下にあって
自分でコントロールできなかったものを
意識的に変えてしまう。
これが結構効いてきます。

多くの場合
「嫌なものは嫌」
として
自分の意識から遠ざけてしまい
手の触れられない存在にしてしまいます。

でも、そこに重要な何かがあった場合
自分ではどうにもできなくなる
ということでもあります。

逆に
自分の無意識領域をコントロールできると
色々なことができたり分かったりする
ということですね。

こういうことが自由自在にできると良いのでしょうけど
なかなか難しいですね。

機会があったら続編を書いてみますね。

バイク考 曲がるお話2

前回は簡単に
どういう原理でバイクは曲がるのか
というお話をしました。

その中で
倒して曲がるのだ
ということを言いましたが
今回は
じゃ、どうやって倒すの?
というお話です。

何か初心者向けバイク講座の様相を呈してきましたよ!
今回も分かりやすくいってみましょう。

方法は2つ
倒したい方向と逆にハンドルを切る
曲がりたい方向に重心を移動する
(しておく)

なのですが!
最近、レース関係者の中でも
このどちらで曲がっているのだ?
どちらで曲がるべきなのだ?
というのがちょっとした論争になっていたりするようです。

先日、元世界GPライダーの上田昇さんと
お話しする機会がありました。
その際、この話が話題に上がったのですが
結局
「どっちもやってるよねー!」
という結論でした。

倒したい方向と逆にハンドルを切る
これは自転車と同じく無意識にやっていることです。
もちろん意識的にもできますが。

自転車もバイクも
ハンドルを切ると逆側に車体が倒れます。

例えば
手のひらの上に箒を逆さに立ててバランスを取っている状態で
手のひらを右に動かせば
箒は左に倒れる
それと同じです。
こういうのを倒立振子(とうりつしんし)といいます。

ハンドルを右に切ると
前輪は右方向に移動しようとする
でもバイクとライダーの重心は
動きたがらないので取り残される
で、バイクが左に倒れる
ってことですね。

そのままじゃ
ハンドル逆向いちゃってるじゃん!

そう。
ハンドルは
車体が倒れた後に
勝手に曲がる方向に切れるんですね。
これを
セルフステア
といいます。

一般的には
コーナリング中はハンドルに入力はしないで
このセルフステアを妨げずに曲がるべきとされています。

ちなみに
コーナリング中にハンドルに入力するとどうなるか?

曲がっている方向に切り増せば
バイクは起きてくるし

曲がっている方向と反対に切れば
バイクはより倒れようとします

曲がりたい方向に重心を移動するでは
曲がる前にライダーの体勢で準備をしておく必要があります。
あらかじめ曲がりたい方向の側に体を移動しておくのです。

何もサーキットを走っているレーサーのように
大きく体をずらさなくても
上体だけで良いですよ。

すると
片側が重くなりますので
そっち側にバイクは倒れようとします。

大抵の場合は
曲がる前は直進の状態なので
その間に準備しておきます。

曲がる直前では不安定になっちゃうので
直線状態でブレーキを掛けているときが良いでしょうね。
ブレーキング中は車体が直進・直立状態で安定しようとするので
体を動かすには好都合なのです。
ハードなブレーキングの場合は
これでは間に合わないこともあるので
もっと早めに準備しておきましょう。

体を動かして準備が完了したら
減速に使っていたフロントブレーキを
放していく
するとバイクが移動した重心側に倒れていきます。

フロントブレーキは
減速の道具でもあり
バイクを倒すタイミングを作る道具
でもあるんですね。

なので
最初は減速するために掛けますが
最後はバイクを寝かすまで
軽く引きずっておく
そうしている間バイクは直立して
安定したがりますから。

倒したい方向と逆にハンドルを切る
曲がりたい方向に重心を移動する

いずれの方法でも
バイクが倒れて
希望の角度になってきたら
アクセルを開けて安定させましょう。
アクセル開けないと
旋回も弱いままなので注意してください。

さてさて
冒頭の方に書いた
上田さんと話した
「どっちもやってるよねー!」
ですが
これはもうちょっと次元の高い話です。
原理的には全く同じですが。

どういうことかというと
サーキットを走っていて
例えば直線の終わりなどで強烈な減速をして
曲がっていくわけですが
そういうときの話です。

教習所では
「直線でブレーキ操作は終えておきましょう」
と教わりますが
それをやっちゃうと曲がるきっかけが掴めないし
レースだとタイムが稼げないので
ハードブレーキング状態から
ブレーキを放していくと同時に
バイクを倒していきます。
減速から連続的に旋回に入るんですね。

ブレーキングの最中は車体が起きようとします。
ブレーキを強く掛けるほど強く起きてきます
で、最近は
車体もタイヤも性能が上がってきているので
結構強くブレーキが掛かっている状態でも
ハンドルを曲がる方向と逆に切って
旋回に入れるんですね。

それとライダーの体重移動の両方を
曲がるきっかけにしてるよね
という話です。

昔は
ハードブレーキングの後半で
ブレーキをリリースすると同時に
スッと旋回に入っていったもんですが
最近だと
結構強引な感じでグリグリいける感じですね。

でもこれは
サーキットの話です。
公道で頑張りすぎると危ないですよ。