クルマの電気のお話し

何でこんなネタにしようかと思ったかというと、最近テスラのサイバートラックがユーザーの手元に届き始めて、少しずつ情報が入ってきたからです。

別にEVに乗り換えたいとかそういうことではなくて、やはり専門が自動車ですからね、色々気になるわけですよ。

凄い形してるな、とか
デカいな、とか
重いな、とか

あのクルマ、何から何まで変わっていて興味深いのですが、EVなわけなので、電気の話でもしてみようかなと思ったのです。

当然、電気で動いているのですが、気になったのは駆動力を発生させる方ではなくて、補器類など、その他諸々を動かしているバッテリーの電圧です。

一般的なEVは、走行用バッテリーの他に、12ボルトのバッテリーを積んでいます。
それで、ライトとかオーディオとか、走行とは関係ない物を動かしています。搭載しているバッテリーの役目は、大まかに言ってエンジンのクルマと一緒です。

で、どうもサイバートラックは、この補器用バッテリーの電圧が48ボルトなんですね。
一般的なクルマの4倍ですよ。
ちなみに、既存の大型トラックなんかは24ボルトです。

さて、なぜ高電圧化するのでしょうか?
というのが今回のネタです。

理由は以下の2つだと思います。

一つは、サイバートラックは、ステア・バイ・ワイヤを採用しているので、あのデッカイタイヤを強力なモーターで転舵する必要があります。当然、消費電力は大きい。
そのためには高電圧が都合が良いのでしょうね。

二つ目は、高電圧にすると細いワイヤーハーネス(電線のこと)を使えるということです。

え?そんなこと?
と思うかもしれませんが、多分これもメリットとしては大きいと思っています。

恐らくあのクルマ、制御だらけで電線だらけのはずです。
ワイヤーハーネスだけでも相当な重さになるでしょう。電線の導体は銅ですから。

そして、束ねられたワイヤーハーネスが車体のあちこちに這い回ることになるわけですが、それが細いということになると、設計の自由度がかなり向上するはずです。

近年は銅のコストが上がっているので、使用量が減ればハッピーでしょうしね。

そうそう、何で高電圧にすると電線の径を下げられるかという理屈なのですが、電線の径は、流れる電流値によって決まります。電圧ではなく。

電気をたくさん食う物を動かそうとして大きな電流を流すと、電線が発熱します。
電気エネルギーが熱エネルギーに変換してしまって、ロスが大きくなります。
つまりシステムの効率が低いということになります。
発熱すると、被覆が溶けてショートしちゃったり、最悪の場合は火災が発生したりもします。
なので、そういう場合は電線径を大きくする必要があるのです。

電力の式は
P=VI
です。
Pは電力、Pは電圧、Iは電流です。

Pをデッカイやつにしたとき、Vを大きくできるならIを大きくしなくて済むのです。
Vが大きくて、Iが小さいなら、電線を太くする必要はありません。
だから高電圧で効率が良いシステムにしたいわけですね。

これ、我々の身の回りも同様です。

発電所から出てくる送電線は、30万~80万ボルト、変電所を通過して、我々の家の前までは6600ボルトと高電圧です。
これでも電圧を大きく、電流を小さくして、送電のロスを減らして電線の径も小さくしようと、そうということです。

ただ、良い事ばかりではなく、やはり高電圧は危険だったりもするわけで、あとは高い電圧を低い電圧に変換して使うところも多いでしょうから、そこに使われる部品のコストとか信頼性とか、そういったこともあるでしょう。

ちょっと専門的なことになっちゃって申し訳ありませんが…

電装システムの考え方としては、従来のように、電源線、信号線と大量のワイヤーハーネスを隅々にまで這わせるのでは無い、新しいやり方をしているのではないかと予想しています。

車体のあちこちに、最小限の電源とネットワークの線を伸ばしておいて、末端のデバイスで処理させれば、ワイヤーハーネスの回路自体はもの凄く単純化できるはずで、クルマの仕様が変更になったりしても容易に対応できます。
そんな新しいことをやってるんじゃないかな、と見ているのですが、その辺は今後の上方を楽しみに待ってみましょう。

というわけでサイバートラック、見た目だけじゃ無く、色々チャレンジしているようです。

安全率のお話し

それほど専門的なお話しではありません。

今、調子よく動いている機械などを見て

「今まで壊れなかったのだから
今後も壊れないだろう」

と思うことがあったりします。

これ、ある意味当然で、ある意味危ない。

確かに、今までの使い方に対して、大きく余裕を持った設計になっているなら、今後も壊れないかもしれません。

でも、そうでもない場合。例えば…
一般的には、かかる力とかの負荷に対する余裕を持った設計をします。
この余裕の大きさを安全率と呼びますが、これを小さく設定した場合は、想定した力の大きさとか、使用期間とかに対して余裕が小さくなります。
なので、想定以上の使われ方をすると壊れやすくなります。

なので

「今まで壊れなかったけど(壊れなかったからこそ)
ボチボチ壊れるかもしれないね」

ということになります。

「なんだよ!そんな危なっかしいことしないで
ちゃんと大きく余裕を持った設計にしろよ!」

と思いますか?

でも、そうすると

性能が低下したり
コストが増大したり

といったことになります。

なので、高性能なレーシングマシンは安全率を小さく取ります。
想定された使われ方に対して余裕を小さく取って性能を向上させるわけです。

そういう設計をしてあるので、ちょっとイレギュラーなことがあると壊れちゃうのは当然のことです。

ちなみに、レーシングマシンにおいては、安全率をいくつに設定するかによって性能が大きく左右されるので、機密情報扱いです。

さて、我々の生活においても似たようなことがありませんか?
「一応」とか、「念のため」なんて考えることがあるでしょう?

それをやっておくにも労力や時間など、色々とリソースが必要になるわけで、そのために何かが犠牲になるのです。
「一応」とか、「念のため」をやり過ぎると、強みになる武器がなくなります。

自分にとって大事なものは何なのか

そこにフォーカスして強みを伸ばす
これも設計の安全率と似たような考え方ですよね。

ご参考:
零戦を設計した堀越次郎さんの本に書いてあった、主翼の外板の安全率の考え方が面白かったのを思い出しました。

軍部から出された零戦の要求性能を満たすためには、とにかく軽い機体にしなければならなくて、主翼の外板を薄く、低い安全率にしたかったのだけど、そうすると高負荷をかけた飛行の際に、引張り方向には耐えるけど、圧縮方向では表面にシワが寄ってしまう。
一般的に材料は圧縮に弱いですから。

でも、圧縮が収まれば、再度ピンと張るから良いじゃないか、と。
もちろんそこで喧々諤々の議論となるのだけど、結局はそのアイデアが実現して、零戦は当時としては驚異的な性能を手に入れたわけです。

精密加工から学ぶ

今日は夢工房のメンバーとともに、以前からお付き合いのある小金井精機製作所という会社に工場見学に行ってきました。
夢工房では毎年の恒例行事のようになっています。

何をやっている会社かというと、社名の通り精密加工なのですが、これがちょっとやそっとの精密加減ではありません。
恐らく世界最高レベルと言っても過言ではないと思います。

精密加工と言っても、小さいものとは限りません。
巨大な精密部品もやっています。

分野は空から陸まで。
いや、宇宙までですね。

世界中の名だたる企業からオーダーが入ります。
なぜかというと…そんなレベルの高精度な部品は自社では作れないからです。

個人的な印象としては、最速マシンのための最高の部品を最速で作る、という感じでしょうか。

色々と詳しい業務内容を紹介したいところですが、何せ機密度の高い仕事ばかりやられているので、とても口外できません。
積極的に自社PRできないのも、その辺が理由です。
世界最高峰の技術レベルを持っているのに、表だって宣伝できないのです。

そんな精密部品をどうやって作っているかというと、当然コンピューター制御の加工機を使うのです。
コンピューター制御の機械なら、良い機械買えば精度出るんじゃん?
なんて思ったりするかもしれませんが、ところがどっこい。
誰がやっても同じなら、小金井精機にオーダーは来ません。

そして、求める精度のレベルが極まると
「このレベルのこういう仕事なら、あの人がやるしかない」
といったエキスパートの出番が来ます。

彼らは技術で勝負していますが、「手先」だけではない。「頭」だけでもない。

やはり「人」ですね。
何のために、どう考えて、どうするのか
それによって結果が決まります。

社長さんをはじめ、従業員の皆さんは、オープンなマインドを持った素晴らしい人達ばかり。
実は、当研究室の卒業生はもちろん、本学の卒業生も何人もお世話になっています。

「技術は人なり」
は本学の理念ですが、それを地で行っています。
現場を見せて頂いて、話を聞いて、納得です。
今回も大変勉強になりました。
というか、恐れ入りました、という感じです。

そうそう、皆さんマインドはオープンですが、口は堅いですよ。
仕事が仕事なので。