レースってこんなことしてます その2 モータースポーツのフィジカル面

前回はレースの種類をざっと説明してみました。
今回は、どんなことをしてるかを
ちょっとだけ掘り下げてみましょう。
今回はフィジカル面です。

まず最初にご理解いただきたいのは
モータースポーツはスポーツであるということです。
最初、「れっきとしたスポーツである」
って書きたかったのですが
「れっきとした」をやめました。
後ろめたいことはないのですが
モータースポーツは特殊なんだな
と思ったからです。

なぜ特殊かというと
人間のパフォーマンスに対して
使う道具のパフォーマンスが非常に大きいからです。

ここがモータースポーツがスポーツとして
日本で認知されない理由の一つなのかな
とも思っています。

動力源が付いた乗り物に乗るわけだから
楽だと思う人が多いのではないかな。

とんでもない!

もう一回言いましょう

とんでもない!

今でも忘れられないことがあります。
昔、1997年に中野信治選手が
日本人として5人目のF1ドライバーになったとき
あるニュースにゲストとして呼ばれて
アナウンサーから聞かれました
「F1って疲れるんですか?」

言葉を失ってしまいました。
中野選手は苦笑いしてましたが。

20年以上経った今でも
一般的な認識は
そんなに変わっていないのではないでしょうか。

四輪の究極のレーシングマシンであるF1マシンは
曲がったり止まったりするのに4G以上のGが掛かります。
つまり体重の4倍以上の力が掛かるわけで
仮に体重を70kgとすると
なんと280kg以上の力が止まったり曲がったりするときに作用するわけです。

ドライバーはこの力にただ身を任せているわけではなく
これに抗って色々考えながら正確にマシンを操作しています。
普通の人なら1分も耐えられないかもしれません。
ちょっと異常なレベルです。
レースでは、これを2時間、距離では300kmくらいやってるわけです。
なので
F1ドライバーは例外なく超マッチョです。
無駄な筋肉はありませんが。

では
もっと小さいマシン
もっと短い時間のレースではどうか?

もちろん程度の差はありますが
どんなカテゴリーでも
本気で走るなら
やはり体力は必要になります。

どんな例えなら分かりやすいかな。

例えば
モトクロスなどのオフロードコースをバイクで走ったとしましょうか。
凹凸とカーブがあるオフロードコースです。
1周の長さは1km程度。
大きいジャンプや上り下りなんかは
話がややこしくなるので無しにしましょう。

仮に
そんなコースを50ccのバイクで
頑張って走ったとしましょうか。
レースではなしに。

バイクに乗れる人なら、かなり楽しいと思います。
でも、頑張って走ると2周は走れないかもしれません。
それくらい体力を使います。
もちろん、初心者だと無駄に体力を使ってしまう
というのもありますが
参考にはなるでしょう。

レンタルのゴーカートなどでも
そこそこ速いのに乗って本気で走ると
かなりの体力を使うことが分かると思います。
「2時間連続で本気で走ってみろ!」
って言われても
「無理です」
ってことになるでしょう。

スポーツ生理学では
サッカーの運動量がトップレベルだと思います。
で、モトクロスはその次くらいに位置します。

一般的には
強力なエンジンが搭載されたマシンの方が
より体力を要する傾向になると思います。

大きな力で
凄いスピードで動くマシンほど
操縦する側はマシンの動きに先行して
体が準備できていなければならないし
コントロールもシビアになるからです。

じゃぁ
小さい排気量のミニバイクのレースや
周回数の少ないレースは楽なのか
簡単なのかというと
決してそんなことは無かったりします。

排気量が小さかろうと
走行時間が短かろうと
勝とうと思ったら全力ですので
やはりそれなりに大変な世界なのです。

私がかつてやっていた中で
フィジカル面で一番大変だったのはエンデューロです。
オフロードの耐久レース。

2人組で4時間とか8時間とか走ってました。
バイクは250ccとか600cc
600ccはきつかったなぁ。
パワーありすぎて。

8時間のレースが終わると
なんと体重が5kgも減っちゃうんですよ。
お尻の皮が剥けちゃうし。

脱水症状にもなっちゃうので
走行中はハイドレーション
水が入ったバッグですね
これを背負って水分補給しながら走ります。

ちなみに
エンデューロをやっていた頃はサラリーマンだったのですが
夜9時まで残業して帰宅したら
筋トレして
ロードワークして
それから寝るのが日課でした。
雨が降っても毎日。

走りきって良い成績取るには
そうするしかなかったんですね。

後にロードレースに転向しましたが
その時は小排気量のレースだったので
体重を減らすために食事制限をして筋トレしてました。

そうそう
レースに体力は必要ですが
忘れがちな重要なことがあります。

それは呼吸。
集中して体力を使うシーンでは
ついつい呼吸が止まります。
特にコーナリングの時ですね。

それが継続すると酸欠状態になって
正常な判断ができなくなります。
なので
レース中は意識的に呼吸をするようにしてましたね。

みなさんも普段
忙しいとき
緊張したときに
呼吸が止まっているかもしれませんよ。
意識してみてください。
ハイドレーションも忘れずに(笑)

あと意外と知られていないこと。
レースのスタート前
シグナルが変わる直前は
まだ体が動いていないにもかかわらず
心拍数が100を楽々突破します。
こんなスポーツはなかなか無いのでは?

レースってこんなことしてます その1 レースの種類

ビギナー向けに
レースってどんなことをしてるんでしょう
というお話をしてみましょう。

まずは代表的なものを挙げてみましょう。

レース
サーキットなどのコースで複数台のマシンで
抜いたり抜かれたりして競争するのはこちら。
舗装されたサーキットを走るのは
ロードレースと呼ばれたりもします。

タイムトライアル
決められたコースを
どれだけ速く走れるかを競うのはこちら。
レースのように周回したり
同時に複数台が走って抜いたり抜かれたりはしません。
サーキットのようなコースを使うこともありますが
日本では駐車場のような広場に
パイロンでコースを作ることが多いです。
で、スタートからゴールまでのタイムを競います。
日本ではジムカーナ(未舗装路の場合はダートトライアル)
欧米ではオートクロス
と呼んだりしますね。
ヒルクライムと呼ばれる
山道を閉鎖して行うイベントもタイムトライアルです。

ラリー
多くの場合は公道で
あらかじめ決められたルートを走行します。
これも抜いたり抜かれたりはしません。
日本のラリーでは
決められたルートの距離を計測して正確性を競ったりします。
(昔はそうでした。今はどうなんだろう)
皆さんが想像する山道を疾走するシーンは
スペシャルステージ(SS)と呼ばれる特別な区間の
通過タイムを競ったりすしているところです。
詳しくないのでこんなもんで勘弁してください。

ドラッグレース
いわゆるゼロヨンってヤツです。
多くの場合は
停止状態から400mまで加速してタイムを競います。
何で400mかというと
4分の1マイルだからです。
それはなぜだと言われたら困りますが。

ランド・スピード・レーシング
長い直線路で1台ずつが最高速を競う競技です。
日本ではあまりなじみが無いですが
最も古いレースの形態です。
ここでは詳細を省きますが
なかなか奥深い世界ですので
機会があったら記事にしましょう。

他にもまだまだたくさんありますが
このへんにしておきましょう。

「競う」という意味では
これらをひっくるめて
レースという呼び方をしたりすることもありますが
カテゴリーとしての分け方はざっくり上記の通りです。

さて
サーキットを走るレースには種類があります。
いずれも「どれだけ速いか」を競ってるんですが
サーキットなどのコースを走るレースだと
大きく分けて2つ。

スプリントレース
あらかじめ決められた周回を
どれだけ速く走れるかを競う
レースの最も一般的な形態です。
一斉にスタートして
一番最初にゴールラインを通過した者が勝者です。
F1とかMotoGPなんかはこれ。
オフロードを走るのはモトクロスと呼ばれます。

耐久レース
決められた時間にどれだけの周回数を走れるかを競います。
複数台でそれなりに長時間走るので
見ていると誰がトップか分からなくなります。
なので各車の周回数がカウントされています。
ドライバー/ライダーは複数名で走る場合がほとんど。
途中で給油やタイヤ交換をしたりすることもあります。
規定時間が経過したらチェッカーフラッグが振られて各車ゴール。
一番周回数が多かった者が勝者です。
複数名で走ればチーム全員の勝利ですね。
ル・マン24時間とか鈴鹿8時間なんかはこれ。
オフロードを走るのはエンデューロと呼ばれます。

いずれも速い人が勝者なんですが
タイムトライアルと違って
抜く技術とか駆け引き
レース全体を通しての戦略
なども重要になります。

学生がやっているFormula SAEでは
75mの直線加速を競うアクセラレーション
8の字をグルグル回って旋回性能を競うスキッドパッド
コース1周のタイムを競うオートクロス
2名のドライバーで20kmを走るタイムと燃費を競うエンデュランス
の4つのイベントでマシンの性能を評価します。

エンデュランスでは、1台ずつスタートして
コース上には3台程度が同時に走行します。
もちろん速い車が遅い車に追いついたりするのですが
その場合はコース上に数カ所設けられた
パッシングエリアとかパッシングゾーンと呼ばれるところで
遅い車が道を譲ることになっています。
耐久レースとタイムトライアルを混ぜたようなイベントですね。
正直これは燃えます!
乗っている方も見ている方も。

ちなみに私が過去に経験したのは
二輪はロードレースでスプリントと耐久、オフロードではエンデューロ
四輪はダートトライアル
そんなもんですね。
18歳頃から20年以上色々やりましたが
自分ではそれほどキャリアが豊富な方だとは思っていません。

レーシングカーの作り方…の知り方

日本でレーシングカーを作るための実践的な知識を得たければどうしたら良いでしょうか。
学生がやっている手作りレーシングカーのFormula SAEマシンとか。

実はほとんど手がありません。

レーシングカーの作り方について実践的な内容が書かれた本は…
2冊ほど知っていますが、いずれもかなり古い本です。
内容が古くても本質は変わらないので
今でも役に立ちますけどね。
とはいえ絶版ですので
入手は難しいかもしれません。

あとは自動車技術会からも出ていますね。
理論的なことを理解するには良いのではないかな。

F1のメカを解説した本なんかはあります。
技術的な興味を満たすには良いですが
あれでレーシングカーは作れません。

ネットでもある程度情報が得られますが
部分的な知識であることが多いようです。

書籍でレーシングカーを作るための知識を得たければ
やはりアメリカでしょうね。
結構な数があります。
イギリスにもありそうな気がします。

欧米(オーストラリアやニュージーランドを含む)には
手作りで車を作る文化が今でもありますから
そういう知識に対するニーズが一定数あるのでしょう。

プロジェクト・カーとかプロジェクト・バイクなんて呼んで
長期的に家のガレージで週末に
レストアするとか
大幅な改造をするとか
人によっては車体ごと作ってしまうとか
そういうのを趣味にしている人達がいます。

作ること自体が楽しみだったり
乗って楽しんだり
そういう手作りの車で走れるレースもありますので
そういう文化が定着しているのでしょう。

ただ、人数自体はそんなに多くはないと思います。
多い少ないって主観的なものなので表現が難しいですが
カスタムカーがそこらじゅうで走り回っている
という感じではないです。決して。
アメリカでもイギリスでも。
まぁ、たまに見かけますので
一定数は確実にいるのですけどね。

バックヤードビルダーなんて呼ばれる人たちは
そういう人達ですね。
プロ、アマ問わず。
車に限らず
家で家具作ったりする人達もそう呼ばれますが。

日本国内のレーシングカーコンストラクターは
だいぶ減ってしまいましたね。
見学に行くのも良いでしょうけど
設計を教えてくれってわけにはいかないでしょう。

四苦八苦して
レーシングカーの設計や製作の
基本的な部分を理解したところで
それで戦力を持ったマシンを設計できるわけではありません。
実際に試行錯誤して
何度も何度も色々とやってみないとね。
本読んで知識を付ければ済むわけじゃないんですね。
まぁそういうものです。

というわけで
レーシングマシンの設計とか開発って
いわゆる暗黙知の世界なんですね。
やらないと分からないことばかり。
まぁ、ものをつくるって往々にしてそんなものです。

ところで
職人さんって
教科書で学ぶのではなく
見て覚える
見て技を盗む
という世界でしょう。

この
見て盗む
というのは
結構理にかなっていると思います。
目で見て分かる「型」をまねる
「型」が同じであれば同じ結果が出る
ということはないので
その過程では
多くの自分なりの工夫が必要です。

なので
一見同じようなものをつくっているようでも
実は進化している
ということがあるのではないかと思っています。

出雲とか伊勢の遷宮なんかはそういうものらしいですね。
何年かに一度
腕の立つ宮大工が全国から集まってきて
そのときの最新技術で以前と同じお社を作って
(もちろん伝統的な技術も使います)
神様が新居にお引っ越しする
というイベントです。

そんなものづくりの世界ですが
それでもアメリカ人は
そういうのをノウハウ化して残しちゃうから凄いです。
とはいえ!
やはりやってみないと分からない世界であること
には変わりはありませんけどね。

というわけで
実践的なレーシングカー作りの解説書
探すなら洋書が一番ということになります。

英語が苦手だから心配?
大丈夫です。
好きな世界のことなんだから理解しやすいですよ。
それに分からないことがあっても
自力で何とかしようとするでしょう?
それが本当の学びではないでしょうか。