馬力を例に取った尺度のお話し

クルマやらバイクやらの特長といえば、形とか色とかありますが、代表的なところが「性能」です。
まぁ、数値的なものの一つですね。

代表的なところだと、エンジンでしょうか。
加速を司る重要なパートです。

エンジンの性能評価では、やはり「馬力」ですね。
トルクも大事なのですが、一般的には最大出力を見ますよね。
この数字が大きい方が優れている、と。

馬力の数字だけで評価するのであれば、この最大出力で比較して、優れているだの劣っているだのと言って、はいお終い。なのですが…

カタログスペックは、数字として目に見えるので参考にはなりますが、実際に走行するとどうなのか、というのは数字だけでは分からないものです。

単に馬力の大きなエンジンが良いのか?というと、そうも言い切れない部分もあったりします。

馬力が大好きな人は、馬力がもたらすメリットにフォーカスして、他のことはあまり気にならなかったりしますが、ものごとにはトレードオフがありますので、その辺をお話ししましょう。

「馬力」は、結構イメージしやすいワードですよね。
「出力」と言ったりしますが、専門的には仕事率のことを言います。
単なる力の大きさではありません。
そっちは「トルク」ですね。回転力です。

仕事率とか言っちゃうと分かりにくいので、もっと簡単に表すと

力(トルク)× 回転数=馬力
と思って良いです。

なので、大きな馬力を得たいと思ったら、こんなことをします。

  • 力を大きくする
  • 回転数を高くする
  • もしくはその両方

力を大きくするなら、大きなピストンにして、長いストロークにすれば良いのですが、そうすると高回転が難しくなります。
大きく重い物を速く動かすのは難しいのです。

なので、それぞれは大きな力を出せないけど、小さな軽いピストンを使って、多気筒構成にして高回転まで回してあげると馬力を向上できます。
なので、ハイパワーなエンジンは多気筒だったりするのです。

しかし、多気筒にすると、エンジンそのものは大型化して重くなります。
すると当然、それを用いる乗り物自体の動きに影響を及ぼします。

バイクなんかだと顕著です。
前後方向の加減速に加えて、バイク自体を寝かせるローリング(バイクの場合はリーンと言ったりします)がありますので、重いエンジンは、なかなか大変なことになります。

以前、900cc 並列4気筒のバイクでレースをやってたことがあります。
で、同じ900ccで、2気筒のL型エンジンのマシンと競い合っていたときの話が参考になると思います。

直線では圧倒的に4気筒の方が速いのです。馬力は30%くらい上回っていましたから。
ですが、コーナー入り口でのブレーキングは、軽い2気筒が思いのほか強い。
そして、コーナーの入り口で隣に並ばれると、かなり不利なことになりました。

2気筒のL型エンジンを用いたマシンは、それ自体軽いのですが、バイクを寝かせる時に大きな違いが出ます。
車重はもちろん効いてきますが、クランクシャフトが及ぼすジャイロ効果が大きいのです。

並列4気筒はクランクシャフトが長いですが、2気筒は相対的にかなり短いです。
高速回転した長い鉄の塊を動かすのはなかなか大変です。

4気筒だと「よいしょー!」って感じですが
2気筒は、ペタッと寝ます。
なのでコーナーの入り口で並ばれてしまうと、やられてしまいます。

まだあります。

大きなな馬力を発生するエンジンを使った車体は丈夫にしなければなりません。
なので重くなります。
重い車体を止めるには、強力なブレーキが必要です。
なので、ますます重くなります。
重くなってしまったら、強力なエンジンが必要に…

といったループが起きます。
当然ですが、重くなるとあらゆる運動性能が低下します。

同一車種で様々なエンジンを選べる量産車がありますよね。
大きなハイパワーなエンジンは上位グレードに採用される事がほとんどなのですが、下位グレードの小さなエンジンを積んだクルマが結構楽しかったりするのです。

重量バランスが良くて、回頭性が良かったりして、旋回時の動きが良い、いわゆる「足が勝ったクルマ」、「車体が勝ったクルマ」になることがあります。

というわけで、ある特定の尺度での評価良ければ何でもOKなわけではなく、そこには必ずトレードオフがあるというお話しでした。

人も同じですよね。
どういう尺度に重きを置くか、そこが戦略的に大事なところです。

何を強みとすべきか

まぁ、そんなの人それぞれなのですが。

とはいえ、国民性なんかは確実にあるわけで。
いくら「自分は国限定で仕事するから」とは言っても、工業製品に関して言えば、今や国内に限定している産業なんてあまりないわけで。

そして、自動車産業は国内より海外が主戦場です。
世界規模で考えたら、日本のマーケットは小さくて、メインとは言い難い状態です。

なので、日本人の価値観だけで製品を考えるわけにはいきません。
そして、グローバルなマーケットで価値を発揮するには、やはり国民性の強みを活かしていくことになるわけです。
だって、単にヨソの真似したって、オリジナルには敵いませんからね。

というわけで、我々日本人はどういう特性を持っているか、というのがカギになるわけです。
それを強みとして活用する必要があります。

例えば、クルマで言うと、ハイブリッド自動車なんかがよく例に挙げられますね。
「エンジンとモーターの擦り合わせ技術が…」
とか言われますものね。

そう、日本人は、異なるパート間の調整とか連携とか、そういうところに強みがあったりするのです。
それって、国民性というか、多くに共通する特性で、それが製品の強みとなって現れているのですよね。

それは、クルマ一台に使用されている部品間に留まらず、メーカー間における仕事などにも言えることでしょう。

しかし、最近はそういった貴重な特性を伸ばす環境というかチャンスというか、機会が無くなっている気がしてなりません。

個人主義になりつつあるなんてのは、とても気になるところです。
「自分のパートさえ成立すれば、後は知らねえ…」
みたいなことになりがち。

あと、学校では細かい要素を学ぶわけです。
数学とか力学とか。
すると、ものごとを小さいところから見ていくようになります。

しかし、製品は「大きいところ」から見る必要があります。
全体として、最終的には、というところから逆算して部分が決まるのです。
なので、学校で身に付けたアプローチを取ると、視野が狭くなって、本来あるべきアプローチとは逆方向に進みたくなります。

細かい部品を考えて、それらを組み合わせて…
最終的に、こんなんなっちゃいました
みたいな考え方です。

ものづくりの経験があれば、全体を見ないと部分は成立しない、なんてことが分かってくるのですよ。
で、やってみてうまくいかないなら、足りないものが明確になるわけで、それが学びのモチベーションとなる、というか、それこそが学びの一部であったりするわけです。

というわけで、ものづくりから特性を磨いていくというのは、教育の戦略的には大変有効だと思うのです。
作った「もの」って、自分そのものですからね。
そこからどうしたら良いかは「もの」が教えてくれるのです。

何から学ぶか?

昨日のお誕生日会で、お師匠様の佐野彰一先生が卒業生達に言っていたこと

「失敗からしか学べないんだよ」

今まさに社会でチャレンジを続けている彼らには、必要な言葉だったと思います。

これは私も全く同意見。

「失敗しないために学ぶ」って人もいますが、どうもそれは違うな、とも思います。

だって、失敗しないために学ぶのなら、その結果はどうなる?
ゼロでしょう。
そんなの面白いの?
誰か喜ぶの?

チャレンジしたから失敗もするわけで、でも失敗した中にこそ大事なノウハウが詰まっています。

そして、時として失敗すると怒られたりするのですが、「なんで怒るのか」の中にも貴重な情報があったりします。

でも、なぜか成長過程で多くは失敗を避けることが価値観の中心に芽生えてきたりします。
失敗や怒られることは、悪いこと、ダメなこと…
何なのでしょうね、これは。
まぁ、ほぼ間違いなく環境の影響だと思いますが。

失敗にこそ貴重な情報が詰まっています。
佐野先生から聞く話だって、失敗話の中に多くの学びがあります。
果たして自分がそれほどの失敗話ができるだろうか?と自問すると、まぁそんなの無理なわけで、あぁ、まだまだだなぁ、と思うのです。