ARLISS 2024 大会翌日・帰国前日

今日は早朝にリノからロサンゼルスに移動します。

宿を3時半に出て空港へ。

リノの空港は早朝でもかなり混むことがあるので要注意。特にセキュリティチェックが長蛇の列になります。今回も結構混んでました。

離陸したら日が昇って…

経由地のラスベガスに着きました。
ラスベガスにはピラミッドがあるんですよ。

そしてロサンゼルス。
曇ってます。

今まで通り、帰国便の関係でロスで一泊します。
我々は予算の都合上、朝にロスに着いて、帰国の便は翌朝という組み合わせになりがちなのです。
そうなると結構時間が余ります。そんな時は博物館でしょう!現物で勉強です。

今回は、ロサンゼルスから東に車で1時間ほど行ったチノというところにある飛行機の博物館Planes of Fameに行きました。

前回行ったのは2007年だったかな?Formula SAEのカリフォルニア大会の帰りに寄りました。実に17年ぶりの再訪ですね。

ここは飛行機好きにはたまらない、なかなかレアな機体が見られます。
例を挙げたらキリがありませんが、我々日本人にとっては、やはり零戦でしょう。
なんとここにある零戦52型は、世界で唯一現存するオリジナルのエンジンを搭載した飛行可能な機体なのです。

他にも、「え?なんでここにあるの?」と言いたくなるような機体が山ほどあります。

トップガン マーヴェリックに出てきたP-51もありましたよ。
これ、トム・クルーズの所有なんですって。

ほら、キャノピーの下に名前があるでしょう。

今回は、博物館の奥の方ににある、見学者は滅多に立ち寄らない小さな図書室に行ってみたところ、案の定、お客さんは誰一人いなかったのですが、司書のおばあさんと話が盛り上がってしまいました。

このおばあさん、第二次大戦時の軍用機にめっぽう詳しい。イラストの綺麗な代表的な軍用機を集めた本をめくりながら、色々と説明してもらったり、意見交換をしたりしていたら、とうとう本の最後まで話をしてしまいました。
「なんでドイツってテクノロジーは高度なのに、デザインがカッコ悪いのかしらね。
ほら見て、風防が四角いのよ。ひどいデザインね。
ほら、これも!これもよ!!」
ってな感じ。
なんでそんなに詳しいのか聞けば良かったなぁ。

あとは、古い機体のレストアをしているスタッフとの会話も楽しかった。
機体の外板にはどんな材質を使っているかとか、今や3Dプリンター製の部品も使うとか、計器類はeBayで入手することもあるとか。

このPlanes of Fameの件は、別に記事にしても良いくらいです。

というわけで、帰国前日はこんな風に過ごして、充実した一日でした。

安全率のお話し

それほど専門的なお話しではありません。

今、調子よく動いている機械などを見て

「今まで壊れなかったのだから
今後も壊れないだろう」

と思うことがあったりします。

これ、ある意味当然で、ある意味危ない。

確かに、今までの使い方に対して、大きく余裕を持った設計になっているなら、今後も壊れないかもしれません。

でも、そうでもない場合。例えば…
一般的には、かかる力とかの負荷に対する余裕を持った設計をします。
この余裕の大きさを安全率と呼びますが、これを小さく設定した場合は、想定した力の大きさとか、使用期間とかに対して余裕が小さくなります。
なので、想定以上の使われ方をすると壊れやすくなります。

なので

「今まで壊れなかったけど(壊れなかったからこそ)
ボチボチ壊れるかもしれないね」

ということになります。

「なんだよ!そんな危なっかしいことしないで
ちゃんと大きく余裕を持った設計にしろよ!」

と思いますか?

でも、そうすると

性能が低下したり
コストが増大したり

といったことになります。

なので、高性能なレーシングマシンは安全率を小さく取ります。
想定された使われ方に対して余裕を小さく取って性能を向上させるわけです。

そういう設計をしてあるので、ちょっとイレギュラーなことがあると壊れちゃうのは当然のことです。

ちなみに、レーシングマシンにおいては、安全率をいくつに設定するかによって性能が大きく左右されるので、機密情報扱いです。

さて、我々の生活においても似たようなことがありませんか?
「一応」とか、「念のため」なんて考えることがあるでしょう?

それをやっておくにも労力や時間など、色々とリソースが必要になるわけで、そのために何かが犠牲になるのです。
「一応」とか、「念のため」をやり過ぎると、強みになる武器がなくなります。

自分にとって大事なものは何なのか

そこにフォーカスして強みを伸ばす
これも設計の安全率と似たような考え方ですよね。

ご参考:
零戦を設計した堀越次郎さんの本に書いてあった、主翼の外板の安全率の考え方が面白かったのを思い出しました。

軍部から出された零戦の要求性能を満たすためには、とにかく軽い機体にしなければならなくて、主翼の外板を薄く、低い安全率にしたかったのだけど、そうすると高負荷をかけた飛行の際に、引張り方向には耐えるけど、圧縮方向では表面にシワが寄ってしまう。
一般的に材料は圧縮に弱いですから。

でも、圧縮が収まれば、再度ピンと張るから良いじゃないか、と。
もちろんそこで喧々諤々の議論となるのだけど、結局はそのアイデアが実現して、零戦は当時としては驚異的な性能を手に入れたわけです。

新しい技術は奇妙だったりする 5

いい加減、軍用機も飽き飽きかもしれませんが…

最後はノースロップ・グラマン製のステルス爆撃機B-2 スピリットです。
これまた輪を掛けて奇妙です。UFOです。
現在は、後継機のB-21があるのですが、そちらはデビューしたてで情報がありません。

WIKIPEDIA “B-2”

機体全体が翼で、胴体らしきものや垂直尾翼がありません。
こういうのを全翼機と言います。
英語ではFlying Wing…そりゃそうだろ、って感じですが。

この全翼機、余計なものがないために、空気抵抗が少ないとか、軽く作れるとか、ステルス製が高いとか、メリットはあるのですが、もちろんトレードオフのデメリットも持ち合わせています。

安定性が低いのです。
上昇・下降する方向の動きをピッチングと言いますが、そちらはもちろん、手裏剣みたいに回転する方向のヨーの安定性も低いです。
まぁ見たまんまですかね。
でもこれは、フライ・バイ・ワイヤで何とかしています。

設計開始が1978年で、初飛行が1989年なので、開発機関はおおよそ10年。
対して、前に紹介したF-117の開発機関は、1978年から1981年の3年間です。
機体の大きさや先行研究の有無など、条件はかなり違いますが、やはりスカンク・ワークスの仕事の速さは際立っていると思います。3年で戦闘機を仕上げるなんて。

軍用機に関するネタをいつまでも書いていても仕方ないので、最後に運用面に関しての奇妙なアイデアをご紹介して終わりにしましょう。

先に紹介したSR-71ですが、記事中で「冷間時に燃料が漏れる設計」だとご紹介しました。
でも、離陸前の駐機中には燃料を満タンにしないのだそうです。

どう運用するかというと、満タンでは無く、しかも燃料が漏れた状態で離陸して、上空で給油機によって燃料を補給して、満タンになったら加速して機体温度を上げて漏れを止めるのだそうです。

満タンじゃ無くて軽い方がすぐに離陸できますし、そもそもジェット燃料は、ヤバいところに漏れ出ない限り、そう簡単に火は付きませんし、SR-71に使用した燃料は、さらに引火しにくいそうです。

でも、そんな使い方は思い付きませんよね。

似たようなことは戦闘機にもあります。

戦闘機にはミサイルやら何やら、たくさんの武器を搭載できるのですが、その状態で満タンにすると重くて離陸できないそうです。

なんだそりゃ?って感じでしょう。

なので、武器をフル装備して重くなった戦闘機は、燃料を満タンにせずに離陸して、やはり給油機で満タンにするとのこと。

なので空中給油機の役目は、戦闘機の航続距離を伸ばすためというのは当然ながら、戦闘機をフル装備で運用するためには欠かせないそうです。

まだあります。

フル装備の戦闘機や、燃料満タンでフル積載した旅客機は重いです。
ところが降着装置の強度は、その重量に耐えられなかったりするそうです。着地の衝撃や、減速時のブレーキの力も加わりますから。

これまた、なんだそりゃ?でしょう。

では、どうするか。

空中で燃料を投棄して軽くします。
戦闘機なんかは、ミサイルが爆発しない状態で、海に向けて発射しちゃうとか聞いたことがありますが、詳しくは知りません。
ともかく、そんな風にして軽くしないと着陸できないそうです。

「じゃぁ、もっと丈夫に作ればいいじゃん!」
と思うでしょう?

そうはできません。
丈夫に作ると重くなるのです。

重くなると性能が低下します。
その低下した性能をリカバリーするために、エンジンのパワーが必要になります。
エンジンをパワフルにすると、発生した力に耐えるための丈夫な構造によって、また重くなります。
重くなった機体を支えるために、さらに丈夫にする必要があって、そうするともっと重くなります。
そうするとエンジンのパワーが…とグルグル重量が成長していってしまうのです。
運動性能や燃費は悪化して、航続距離は短くなる一方です。
これはクルマの設計でも同様です。

ものを作る時のアイデアは、意外と難しいものです。
だって、何か製品を設計する時って、その「もの」だけにフォーカスしがちで、慣習やら、先入観にとらわれがちだから。
で、ついつい手段にとらわれてしまって、ゴールを見失いがち。

今回の例で言うと
「燃料漏れちゃダメだよね」
とか
「重量に耐える設計は当然だ」
というところからスタートするのが普通でしょう?

でも、本当に欲しいゴールは、その飛行機で何をしたいのか?
何のための飛行機なのだ?
ということです。
それを達成するための手段は自由なのです。

今回ご紹介した奇妙な飛行機達やアイデアは、日頃直接利用できるようなものでは無いでしょうけど
「そんなのアリなのか!?」
と、硬直した思考をぶっ壊して、視野を広げるための刺激としては大変有用なのです。